10・モモ!
1ヶ月後 --
モモ達は再び旅に出ようとしていた。
オーツの街から生まれ故郷へ帰る旅。
今度はスークとウォルカも一緒だし、セイムも里まで来てくれる。セイムもウォルカも、エルフの里を訪ねてみたいと言ったのだ。
半年ぶりの家路。
振り返ってモモはしみじみ思った。
-- 本当に、色んなことがあった。
旅の途中でセイムに出会った。
オーツに着いて、トリユやミューや芙蓉の歌姫と友達になった。
更に、探し続けていた兄と再会し、ウォルカと知り合った。モモを追いかけてきた幼なじみのユカともちゃんと合流出来た。マティカとユーキという、いとこの存在も知った。
祖母にも会ったし、祖父と叔父夫婦の墓参りもした。
スークとウォルカに鍛えられ、時々現れる父にも教えられて、魔術も少しは上達した。今ではモモも水晶玉を使った通信が出来るようになっている。
本当に色々なことがあったのだ。
勘違いから始まった旅だったけれど、来て良かったと、モモは思っている。
「元気でね、モモさん。また遊びに来てね」
「僕が言うのもなんだけど……気を付けて」
イーズヨール屋敷の玄関で、マティカが微笑い、ユーキが照れくさそうに言った。
「あなたたちも!」
答えてモモも手を振った。
祖母にはさっき別れを告げてきた。
トリユ達には、昨日白鹿亭でお別れパーティーをやってもらった。
あとは、この父の育った屋敷の門を開けるだけ。
( -- 帰るんだ)
空を見上げたモモに、スークが言った。
「モモ、練習だ。あの門を、鍵を使わずに魔術で開けてごらん」
「でも、お兄ちゃん……」
「大丈夫だから」
微笑んだスークに、ウォルカが訊いた。
「そーいやぁ、お前、あの時も似たようなこと言ったなぁ。あの、ユーキが爆弾ばんばん投げつけた時。あの時も、チビちゃんなら大丈夫って確信あったみたいだけど、何でだ?」
訊かれてスークは意味深に笑った。
「そりゃそうさ。だって、モモは、龍みたいなもんなんだから。でなきゃ、防壁張ろうとして竜巻なんて起こせないよ」
「あん? ……あ、そーゆーことか」
「……何だい?」不思議そうにセイムが問う。
今度はウォルカが答えた。
「つまりだ。バザールでの騒動は、チビちゃんが結構な魔力持ちだって証拠なんだよ。何しろ、竜巻が起こせるくらいの風霊を呼べたってことだからな」
「早い話、力と技術のバランスが悪いだけなんだよ、モモは」
だから、やってごらん。
兄の笑顔に励まされたモモは、目を閉じて精神を集中する。
(えっと……鍵を開ける……鍵を……風霊を呼んで、それから呪文は……)
ふっ、と目を開けて、言った。
「開破!」
間違いである。
『鍵を開ける』だけなら、呪文は『開錠』で事足りる。何も『破る』ことはないのだ。
案の定、
「えっ!?」「こら、違う!」「うわっちゃ〜」
慌てる一同の目の前を突風が駆け抜け、伯爵家の門が吹き飛んだ。
「モモっっ!!」
「ああっ、ごめんなさいぃ〜〜〜〜」
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モモが魔術を使いこなす日は、まだまだ先のようである。
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