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-- さて、こいつをどうしよう?
考え込んでしまった3人である。
当然のことながら、視線はテーブルの上のヤドカリアモンに集中している。
「さ〜て、どうするかねぇ?」
ポリポリと頭をかきながらサウルが言って、
「まずはやっぱり、これだよなぁ」
おもむろにヤドカリアモンを取り上げ、右手でゴブレットを、左手でアモンを掴んだ。
「大丈夫なんでしょうか?」
心配そうに覗き込んだジェニアスに
「さて?」
無責任に答えてサウルが両手に力を込める。
とりあえず引っ張ってみようと言うのだ。
「ぐぇっ」
引っ張られたアモンが、ヒキガエルを押しつぶしたような声を出した。
当たり前である。ゴブレットから外に出ている部分といえば、腕と足、そして頭なのだ。それを片手で捕まれては、いくらアモンでも苦しいだろう。
しかも、サウルは本気で引っ張っている。
「ぐっ、ぐえ、ぐえぇぇぇぇ……」
「た、隊長さんっ」
見かねたジェニアスが袖を引っ張ると
「……ダメか」
サウルがアモンから手を離した。
が、ジェニアスがほっとしたのも束の間。
次にサウルは、ゴブレットの方をカイルに差し出したのである。
持て、というのだろう。
「?」
あまりにも自然なサウルの動作に、思わずカイルが手を出してゴブレットを掴んだ。
と、
「ちゃんと持ってろよ」
言って、サウルは、今度はアモンを両手で掴み、力一杯引っ張ったのである。
反射的にカイルも力を入れてしまった。
大の男2人による、ヤドカリアモンの綱引きである。アモンとゴブレットにかかる力は半端ではなかった。
しかし……それでも、アモンはゴブレットから解放されなかった。
そればかりか、当のアモンが
「ぐっっ!」
と呻いたきり声を出さなくなってしまった。
「やめなさい、2人ともっ! 殺す気ですか、アモンをっ!?」
慌てて叫んだジェニアスの声で、我に返ったカイルがやっと手を離した。
「ち……これもダメか」
サウルはと言えば、反省のかけらもない。舌打ちをして呟いた。
「それじゃあ……」
ヤドカリアモンをテーブルに戻し、庵の主に短く指示する。
「カイル、ランプ」
「昼間なのに何に使うんだ、ランプなんて?」
カイルが、首をひねりながらもとりあえずランプを渡すと……
サウルは、シェードを外し、火屋を外して、ランプをオイル入れと灯心だけの形にした。
ぽっ。
火を付ける。
「あっ」「よせっ!」
サウルの意図に気付いたジェニアスとカイルがとっさに火を消した。
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危ういところだった。間一髪だった。サウルはその時既に右手にヤドカリアモンを持っていた。
「何を考えているんですか、あなたはっ! アモンとはいえ、生きているんですよっ!」
「アモンの丸焼きでも作るつもりかっ、ボケ中年! 小さいとはいえ悪霊なんだ。もし間違って死なせたりしたら、何が起こるか判らんぞっ!」

ジェニアスとカイルに両側から怒鳴られて、サウルが小さくなる。
「いやほら……瓶の蓋が開かなくなったらよくやるぢゃないか」
「それとこれとは話が違います!」
「ちぇ〜、良い案だと思ったのになぁ」
ささやかな反論もジェニアスに封じられて、サウルがぶちぶちと文句を言った。
「じゃあカイル、お前さんの使い魔でちょいちょ〜〜いっと……」
懲りない男である。
だがサウルのこの案も、カイルの「奴らにそんなことは出来ん」の一言であっさり却下されてしまった。
「じゃあどーすんだよぉ?」
このままほっとくのか?
サウルがちろ、と横目でカイルを見る。
-- それは、嫌だ。
このままではうるさくて夜も眠れない。
げっそりと頭を抱えてテーブルに突っ伏したカイルに、
「あの……カイル……」
おずおず、という感じで、ジェニアスが言った。
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