化け狐のアムステルダム出張報告

 

その3:オフィスは半分水の中

 翌日から早速お仕事である。
 ホテルから支社まで、トラム(路面電車)を乗り継いで約30分。
 着いたオフィスは半地下で、半分水に浸かっていた……というと何だかオフィスが水浸しのようだなぁ(^^;)。
 真相は、こうだ。
 支社が間借りしているビルが、何故か池の中に浮かぶように建っている(つまり、水攻め状態・笑)ので、半地下のオフィスから窓の外を眺めると、窓枠から10cmのところに水面が見えるのだ。
 窓は床から1mくらいの位置にあるので、壁をとっぱらって考えると、オフィスは水に浸かっていることになるわけである。
 風が吹けば池の表面には当然さざ波が立つ。すぐに慣れてしまったが、最初は「うっかり窓開けてて、波が立ったら水が入って来るんじゃないかなぁ」とか「この池、いきなり増水したりしないのかな」と心配になったものだ。
 結果を言うと、当たり前のことだが、私の心配は杞憂に終わった。
 オフィスが水浸しになった、という話も聞かないので、いきなり増水することもないようだ。よかったよかった(笑)。
 もう一つ言うと、この池には、鴨や鷺(らしい鳥)などがよくやってきた。
 お陰でちょっとしたバードウォッチングができ、仕事の山に追われて疲れた私たちに、良い気分転換のネタを提供してくれた。
 オフィス自体は結構スペースに余裕があり、人数が少ないことも手伝って(^^;)、広々していた。
 まあ、それでも、かなり大きいはずのデスクの上は、仕事ですぐ一杯になってしまったのだけれど(苦笑)。
 笑ったことは、もうひとつ。
 当然ながら、昼食はどこかで調達しなくてはならないのだが、支社から一番近いマーケットまで徒歩にして約10分かかる。忙しくて時間がとれないこともあるし、面倒なこともある。雨など降れば尚更だ。
 そんな時とても助かったのが、オフィスに常備してある、日本製のインスタントのカップ麺だった。日本食を輸入して専門に取り扱う店があるのだそうで、そこでゲットするのだと聞いた。
「勝手に食っていいから」という支社長のありがた〜いお言葉に甘え、何度か利用させてもらったのだが……実は、最初、ちょっとびっくりしたのだ。
 なんとなれば。常備してあるインスタント麺類のほとんどが、賞味期限を過ぎているのである。聞けば、輸送に時間がかかるらしく件の店の店頭に並ぶ頃には、良くて賞味期限ぎりぎり。賞味期限を過ぎたモノが並んでいることもしばしば、であるらしい。
「1ヶ月や2ヶ月平気だよ」とのお言葉通り、お湯を注いで3分待った後の麺は、変わらない味を保っていた。
 偉大なるかな、日本製インスタント食品。

 

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その4:時差の話

 夏のヨーロッパには、サマータイムなるものが存在する。
 夏の長い一日を有効に使うために、時計を少し進めよう、というあれだ。
 日本とオランダの時差は、この時期7時間。アムステルダムで私達が仕事を始める頃、東京は夕方の4時、ということになる。
 普段は双方気にしない(というか、それぞれ別の時間で生活しているので意識にも登らない)この『時差』を、実感するのが電話連絡だ。
 アムステルダムにいた間、私が出社して最初にするのは、東京とアムステルダムで同時進行している仕事の経過連絡を取ることだった。
 友人に借りて持参したノートパソはコードが足りなくて通信環境と整えられなかったので、メールは打てない。支社長のパソコンとアドレスを借りて打つのも面倒だ。
 連絡は自然電話になる。
 当然東京は夕方だと判っている。それでも、受話器を上げて、電話をかけると……つい、出てしまうのだ。「おはようございます」が。
 返る答えは笑いを含んだ「おはようございます」だったり、「お疲れさまです」だったり様々なのだが、わずかに、ほんの一瞬だけ、国際電話のタイムラグ『ではない』間が、大概、空く。
 この瞬間が、時差を実感させるのだ。そして思う。
(あちゃ〜、またやったよ……)
 仕事には便利な面もある時差だが(互いが夜の間に仕事を進められるから)、時間の概念が時々狂ってちょっと困った。

 

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