野生アフリカツメガエル 医学生理学に貢献するアフリカツメガエル 

 今年の8月26日、宮若市で小学校の生徒を集め市の夏休み子供理科体験学習教室を初めて手伝った。9月17日には飯塚市で、これは3回目だが、科学広場で理科教育の手伝いをした。いずれも、アフリカツメガエルの生きた個体と顕微鏡および動画を用いる、体験型の学習にした。
 終了後、カエルの飼育観察を希望する生徒が多かった。このカエルは適切な取り扱いが期待される「要注意外来生物(環境省)」ではあるが、ウシガエルのように法的縛りを受ける「駆除対象外来種」とは異なる。そこで、今回は一人に付き1匹のみ、という条件で提供することにした。
 「アフリカツメガエル」といえば、「クローン」である。これは英国のガードン博士が2012年にノーベル賞を授与されたので、最近では世間にも知られるようになった。また、その「クローン」を「人間」と結びつけた「クローン人間」ということばも世間ではよく知られている。これには、1996年にウイルムット博士がほ乳類のクローンヒツジを完成した事も作用しているだろう。
 しかし、アフリカツメガエルではどのようにクローンが作られたか、また、その研究が他の生命科学にどのように影響したかは、意外に知られていない。おそらくそのせいで、ガードン博士とノーベル賞を共同受賞したiPS細胞の山中教授のことを知らない日本人は少ないが、ガードン博士のことを知らない日本人は多い。
 ガードン博士はアフリカツメガエル(写真1)のオタマジャクシ(写真2)の腸の細胞の核を卵に移植した。移植された核は、もとは腸の細胞の核だったのに、卵の中に入ると受精卵と同じように「発生」を始め、一匹のカエルになった。 
 (写真3)は最初に作ったクローンガエル、(写真4)は白いオタマジャクシの皮膚の核を茶色のメスの卵に移植して作った白いクローンガエルである。
 ガードン博士はそれぞれの組織の細胞の核は卵の中に戻ると、ふたたび発生を始め、身体全体を作ること、すなわちその為の遺伝子を全部持っている事を明らかにした。ノーベル委員会の表現では「初期化」できることを明らかにしたのである。
 1962年に完成したガードン博士のクローン研究はその後の発生学、生理学及び医学の研究に甚大な良い影響を与えた。そして、その流れの中で2007年にはイギリスのエヴァンス博士がES細胞(胚性幹細胞)でノーベル賞を授与され、2012年には山中博士がiPS細胞でノーベル賞を授与されたわけである。
 現在、アフリカツメガエルはその全ゲノム構造も明らかにされ、また、1984年以降は2年に一度の割合で国際会議が行われ、その研究目標は明瞭に人間の病気のコントロールに向けられている。私事だが、実は私は初回からこの全ての会議に出席した世界でただ一人の人に10年くらい前から成っており、昨年のギリシャのクレタ島でそれをガードン博士らから表彰された。
 私は1963年から、日本では最初にアフリカツメガエルの卵を発生の分子生物学研究に使い始め、蛋白合成を専門に行う細胞内粒子(リボソーム、というのだが)の遺伝子研究で理学博士を取得したわけだが、そのカエルのおかげで世界中の多くの研究仲間を得た果報者である。
 ガードン博士は1972年以来の私の一番古い友人かつ先輩であるが、(写真5と6は)1998年にケンブリッジでガードン博士の学長宿舎に泊めていただいた折りに見学した、カエルの飼育室と核移植のための注入装置である。


 

(新聞コラム原稿:「街 ひと 自然 」カエル博士が語るから) 2017 10 5


帝京大学理工学部客員教授・東京大学名誉教授
理学博士 塩川光一郎


野生アフリカツメガエル
  2012年度ノーベル賞受賞ガードン博士関連

2012年度ノーベル賞受賞記念出版 「ガードン卿:その研究と人柄の魅力」塩川光一郎
2017年度筑豊博物研究会雑誌原稿
医学生理学に貢献するアフリカツメガエル
ギリシャのクレタ島での第16回 アフリカツメガエル国際会議
アフリカツメガエル歴史の一部
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