京都オフレポ 2日目・その2

 

2日目:目的地=嵐山

5 湯豆腐は京の味

 祇王・祇女・母刀自(←これで『ご母堂』の意味)の墓に参って、ついでに何故か隣に並んで祀られていた清盛さんの墓も見て、祇王寺の山門を出ようとした時、Pさんの携帯が鳴った。Sさんである。
「まだ嵐山かって・・・今日はずっと嵐山だよ」耳に飛び込んでくるPさんの声にぐったりする一同。
「Sさん、今、どこ? 京都?」
 まだ嵐山に着いてないのか・・・。みんなのため息が聞こえる。JR京都駅から嵐山まで、どんなに接続が上手くいっても30分はかかる。
「じゃあ、嵐山に着いたら電話して。じゃあね〜」
 返すPさんの言葉は冷たかった。冷たかったが、女性陣の心の声をきっちり代弁していた。
「じゃ、行こうか。そろそろお昼食べる算段しないとね♪」
 微笑む先頭2人に異論を唱える人はいなかった。
 途中まで、来た道と同じルートを辿り、怪しいキューピーの前も再び通り過ぎて、渡月橋から伸びるメインストリートに戻ってきた。目星をつけておいた湯豆腐の店は、この近辺である。が、問題は、人数。果たして9人が一度に入れるかどうか・・・値段と並んで、それが店選びの条件となった。
「あの〜」ふと、Pくんが囁いた。「Sさんは、待たないんですか?」
 この時点で、先ほどの電話から30分以上経過していた。電車で向かっているなら、そろそろ着いても良い頃なのだが、まだSさんからの連絡はない。
「京都ってさぁ・・・京都駅じゃくて、京都府、だったんじゃないの・・・?」
「ひょっとして、パスで来てるとか」
 まさか、とは思ったが、誰も否定できない。
 どうする? と視線が行き交ったところで、誰かが言った。
「いいんじゃない? とりあえず店探しておけば、来れば合流できるし」
 この一言で全ては決まった。
 少し歩いて、見つけたのが『嵯峨乃里』。品数も多くて満足できそうな湯豆腐セットが2700円也。人数も、お座敷に上げてもらってなんとかみんな一緒に食べられることに。
 9人とも同じものを注文して、待つ間にも会話の花が咲く。Nさん、Pさん、Pくんは関西出身なので、会話がローカル。他の6人には「?」の連続である。それでもおしゃべりは続いていたのだが・・・。
「お待たせしました〜〜」
 仲居さんが料理を運んできてくれた。湯豆腐、煮物、和え物、お吸い物、ゴマ豆腐、お漬物、どれも美味しそうである。みんなの顔がほころんだ。そして・・・
 やはりと言うべきだろうか。食べ始めた途端、あれだけ賑やかだった会話がぴたりと止まった。
「やっぱり、静かになるんだね・・・」
「そりゃそうでしょう。美味しいものを食べてる時はそれに集中しちゃうよ」
 一瞬顔を上げた一同は、こっくりと頷いて同意を表して、また食事に戻った。
 個人的な感想を言えば、特別美味というわけでもなかったが、値段的にも品数的にも納得のゆく店だった。

 

6 噂の君

 あらかた料理を食べ終えた頃、Pさんの携帯が鳴った。Sさんだった。祇王寺での電話から既に1時間強。『嵯峨乃里』に来てもらうよりは、こちらも店を出て別の場所で合流した方が早い。渡月橋の袂で会おう、ということになった。
「会えるんですねぇ、Sさんに。どんな人なのかなぁ・・・」
 Sさん(男性)に会ったことのないMさん、Yさん、Nさんの顔が期待に輝いている。私たちが散々『不思議な人だよ』と言い、言葉ではとても語り尽くせないと言った結果である。だが、どんなに期待しても、彼に関する限り『期待はずれ』はない。どんな方向に予想しても、その予想を外してくれるお方だからだ。
「会えば、判るよ」
 残る6人がしみじみと頷いた。
「ところでさあ・・・ほんとにクックロビン音頭踊ってるのかなぁ?」
「さあねぇ・・・でも自分で言ってたもんねぇ」
 クックロビン音頭。懐かしのパタリロの、あれ、である。
 この嵐山オフの話が出た時、やたらカラオケに持ち込みたがっていたSさんは、私とPさんの『カラオケはない!』宣言に、「え〜、じゃあ、渡月橋で歌おうよ〜、クックロビン音頭」と、ものすごい提案を持ち出したのであった。当然、同意する声はなく、その話はそのまま立ち消えとなっていた。
 --やってたら、遠巻きにそっと見守ってあげよう。
 意見の一致を見て、覚悟を決めつつ渡月橋の袂まで来たが、Sさんの姿は見えない。観光地だから人は多いが、顔を知っている人間が6人もいる上に、Sさんは、何もしていなくても目立つ人である。どこに居るんだろう? と不審に思っていると、Pさんの携帯にSさんからの連絡が入った。
「Sさん、今どこにいるの? 私たち、渡月橋の袂にいるんだけど?」
 電話を切ったPさんによると、Sさんは、渡月橋近くの、嵐山ホテルが見えるところにいるらしい。
 辺りを見渡すと、渡月橋から伸びる道を挟んで、信号の向かい側の桂川沿いに、嵐山ホテルの名が見えた。
「あっち側にいるのかぁ。じゃあちょっと行かなきゃ判らないよね〜」
 信号は赤。青になるのを待って、いざ渡ろうとした、その時、聞き覚えのある声が届いた--背後から。
 そんなはずはない。私たちは、渡月橋の袂に立っている。嵐山ホテルは私たちの前方である。私たちの後方となると、渡月橋からは遠ざかるし、嵐山ホテルからは更に遠い。彼の言葉を信じるなら、Sさんは私たちの前方にいるはずなのだ。なのに、何故、背後から、Sさんの声が聞こえるのか・・・?
 だが、振り向いた一同に真向かって立っていたのは、黒ずくめの、性別不詳の容貌の持ち主・・・間違いなくSさんその人だった。
「後ろから来るなぁぁぁっっっっ!」
 Pさんが叫んだ。
 この人ならやりかねない、と納得した者、5名。呆気にとられたままの初顔合わせの3人に、私はそっと囁きかけた。
「ね? 予測を越えた人でしょ・・・?」
「・・・・・・うん」
 答える声に彼女たちの思いがこもっていた。
 そのまま『琴きき茶屋』になだれ込んで、甘いものの苦手な私はお抹茶を、他のメンバーは桜餅セットを注文。なんだか食べるのに苦労していたが、まあまあ美味だったようである。

 

7 鴨川の土手で日は暮れて

 嵐山でSさん、乗換駅の桂で、Nさんと、夜大阪で用のあるPさんが離脱。河原町に戻ったが、まだ夕方の5時にもならない。夕食には早すぎる。仕方がないので、円山公園をぶらついたり知恩院を見にいったりしたが、それでも時間は潰れない。
 ここで、Dさんが『楽しいこと』を考えついた。
 魂の双子とまで言われてしまうほど行動が似ていて、実際1日中隣にいて離れることのほとんどなかったPくんとNくんを、鴨川の土手に並べて写真を撮ろうというのだ。
 知る人ぞ知る鴨川の土手・・・夜ともなれば1m間隔でカップルが並ぶ場所である。京都出身のPくん曰く、『そんなところを知り合いに見られたら冗談じゃすまなくなる』場所であるらしい。
「やめてくださいよぉ〜〜〜」
 Pくんの懇願。Nくんは、諦め顔で終始無言を貫いている・・・いや、彼も、Pくんほどには事態を重くとらえていなかった。
 Pくんの不幸は、同行者が『私たち』であったことだった。京都出身でない者には、それがPくんの言うほど深刻なことには思えなかったのである。
 --面白い。
 Dさんの提案を聞き、Pくんの反応を見た瞬間、誰もがそう思った。
「じゃっ、行こうか♪」
 先頭を歩くDさんの横顔は、とても楽しそうだった。
 鴨川の土手に着いて下りる場所を探していると、言わなきゃいいのにPくんが墓穴を掘った。
「こっち側なら別に噂にはならないんだよね」
 そう言われると、反対側に回りたくなるのが人情というものである。
「情報ありがとう。じゃっ、行こうか」
「やめよぉよ〜〜〜〜〜」
 自分で場所を指定しておいて何を言うか。
 すっかり面白がっている女性陣は聞く耳を持たない。どんどん橋を渡って歩いて行く。
「ほんっとに洒落にならないんですって! お願いだからやめましょうよ〜」
 相手が悪い。そして、時間も悪かった。まだ宵闇が降りるには早い時間だったせいもあってか、鴨川の土手にはカップルのみならず家族連れやグループもいたのである。心理的抵抗は無いに等しかった。
「いいじゃないか、別に。ほら、家族連れもいるぞ」
 切り返す私の口元が笑っている。
「そうそう。ほら、いいじゃない、みんなで行くんだし、写真撮るだけなんだから」
 同じくPくんを誘うDさんTさんの甘い声。きっとPくんの目には、私たちの姿は黒いしっぽつきで映っていたに違いない。彼の相方は沈黙したままである。
 --噂になっても自分じゃないからいい。
 所詮は他人事という言葉の見本のような私たちの態度だった。
 散々粘り、また散々口説いたが、結局写真撮影はPくんの必死の懇願が功を奏して取りやめになった。
 あそこで折れてしまったのが返す返すも残念である。

 

8 中華を食べてインターネット

 鴨川の土手で遊び、時間を潰した私たちの次の目的は、当然『夕食』。
 目星はつけてあった。祇園の盛京亭。和風の味付けをプラスした中華料理を出してくれる店である。
 7人全員が入れるかどうか心配したが、お座敷にあげてもらってあっさり問題は解決。
 1人3000円で5〜6品+炒飯を出してくれる『おまかせコース』を頼んだ。出てきた料理はどれも美味な上に量も十分あって、全員が満足したことを、先に言っておこう。
 待つ間も、食事中も、会話に花が咲き誇る。
 そして、天然コンビのPくんMさんは、ここでもさくさくさくさくと自分で墓穴を掘り続けた。
 周りは楽なものである。ボケとつっこみ、などという関西のお約束を思い出すまでもなく、つっこむしかないことをどんどんやってくれるのだ。私たちは、彼等の掘った墓穴に、ただ合掌しながら土をかぶせてあげるだけでよかった。
 絶好調だったのはPくんである。中華の油が作用したのか、面白いほど墓穴を掘った。
 お世辞を言えばつるつる滑る。更にフォローを入れようとすると、今度は失言になる。
「ああっ、違う〜〜〜っ、口が滑ったんですぅ〜〜」
 必死でフォローしようとするが、やはり相手が悪かった。
「口が滑るってことは、そう思ってるから無意識に出てくるってことだよ」
 嬉しそうに切り返す私たちの笑みは、Pくんには悪魔の微笑みに見えたに違いない。
 美味しい料理に満足し、至る所に出現した『墓穴』に丁寧に土をかぶせ、食後のお茶で一息ついたことろで、突然Nくんがごそごそと何かを取り出した。
 おもむろにテーブルに載せられたそれは、ノート型パソコン。PHSも出てきて、すっかりモバイラーと化しているNくんである。
 すかさず周りを取り囲んだ。
「書き込みしよう〜〜〜♪」
 このオフの元となったHPに接続し、掲示板に飛ぶ。
 いざ書き込みをしようとしたとき、はたと気付いた。
「Yさん、ハンドル決めなきゃ」
 今回の参加者で、ただ一人電脳空間の住人でない人・・・それがYさんだった。書き込むからには、そしてこれからパソコンを買おうと心を決めつつあるからには、HPで活躍するためにハンドルネームを決めておくのが得策である。(と勝手に私たちは決めつけていた・笑)
「何にする? どんなのが良い?」
 せっかくだから面白いのをつけよう--期待の目がYさんに集まる。
「判らないよ〜〜、急に決められない」
「じゃあ、とりあえずこうしておきますか」
 Nくんの指がキーボードを叩いた。『○○〔仮名〕』。
「・・・・・・N〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
 一時的なものだし、ということで、そのままにされてしまったYさんこそ不幸というものだろう。

 盛京亭を後にして、まだ入るという面々の意見を受け容れ、都路里へ。
 流石に混んでいて7人一緒では座れない、という理由で、何故か女性4人とNくん、Pくん、私の3人という妙な編成になったり、またしてもPくんが墓穴を掘ったり、といろいろあって、最後まで楽しませてもらった。
 そして、友人の所に泊めてもらうというNくんと、実家に戻るPくんとは、地下鉄の駅目指して仲良く夜の祇園を歩み去っていった。まっすぐ駅に行ったのか、2人でどこかへ寄り道したのか・・・聞いても2人は教えてくれないので、謎のままである。

 

狐作物語集Topへ   前へ戻る   続きを読む