居眠り運転体験記 次はお前の番かも知れんぞ?

居眠り運転体験記 次はお前の番かも知れんぞ?
 俺様が,免許を取得して一般道路を走行するようになった頃は,ずっと緊張して, ラジオを点けて走行することも出来なかった….余計な雑音が運転の障害になると, 本当に感じていたのだ.                             運転免許を取得したのが35歳である.長年,歩いて生活していた習慣が身に染みて 新たに,車を運転しての移動と言う世界への適応に混乱もあった? 一歩間違えば, 人を殺すかも知れない….そんな恐怖がいつも心にあった.             それは,かなりの心理的負担で,今まで通り,歩いて生活した方がどんなに楽か? そんな気持ちがいつも心にあった.多分,自分一人だけの必要だけだったら,免許を 取ることは考えなかっただろう.                         然し,自分の家族のことで,知り合いの運転する車に頼ることがあった.ここまで 他人に負担をかける心苦しさもあった.自分では怖いと思う車の運転を,知り合いに 任せてしまう….それが原因で事故が起きたら….                 自分の家族のことは,自分の責任で果たさねば….恐怖感に支配されて,このまま 生涯,車から逃げている訳にも行かない….獲得できる必要な能力は獲得して自らの 責任は果たさねば….                              いやいやながらも,必要に迫られての免許取得であった.歩いて移動する限りは, それが原因で人を殺すことはまず考えられない….然し,車は,次の瞬間にも,その 恐怖が襲うかも知れない….                           車の運転には,そんな重苦しさばかりが先行していた….制限速度を,きっちりと 守り,後ろに車に着かれると,左端に寄ってやり過ごしながら慎重に運転していた. 誠に以て模範的な運転であった.                         運転を始めてから,車の事故のニュースに敏感になった.居眠り運転と言う事態が とても信じられぬ現象だった.こんな緊張を強いられる作業を行いながら,どうして 居眠りが出来るのか?                              要するに,周囲への安全を無視して運転する無神経な人間の気分がぶったるんで, 眠ってしまうに違いない.少なくとも,この俺様が居眠り運転をすることは,絶対に ないだろう.当時の俺様には,そんな確信があった.                然し,運転に慣れてから,運転中に眠気を感じる体験をするようになった.然し, どんなに眠くても走行している以上,絶対に眠ることはなかった.だから,それでも 自分は居眠りはしない思い込みに支配されていた.                 走行するスピードも次第に上がって,気がついたら白バイに追跡されて,スピード 違反のキップを切られる成長ぶりとなった….-_-; 確実に,免許取得時の緊張感は なくなっていた.                                1994年…,この年は,何故か,俺様の体調がおかしかった….春頃からか,日中, 運転しない時にも猛烈な眠気に襲われる状態が続いた.加えて,夏が記録的な猛暑で 睡眠不足が続いた….                              信号や渋滞で車が止まると,そのあいだ眠ってしまったこともあった.ハッとして 前を見ると,車がなくなって道路がガラ空き.ガハハハ.俺様の居眠りに付き合って 皆さんお並びでいらっしゃった….^_^;                      今にして思えば,これが居眠り運転で事故を起こす前兆でもあった.それでもまだ 走行中に眠るとは思っていなかった….誠に以て,俺様も自尊心の強い男であった. 自分だけは事故を起こさない.そんな確信が残っていた….             その日,体には気だるさが残っていた….然し,それは家の中にいる時の状態で, 一歩車に乗り込めば,気分は外に向かって,すっきりとしてしまう.然し,本当は, 出掛けたくはなかった….                            妻を乗せての4時間余りのドライブの予定であった.先方との約束もあり,中止は 出来なかった.家を出て市内で買い物等をして,一路目的地に向かった.一段と暑い 日差しが照りつけて,冷房の効果も薄らいでいた….                途中で,激しい眠気が襲って来た.途中で休もうにも適当な場所とてない市街地が 続いていた.俺様の前をノロノロと走っている車がいた.時折,運転がふらつく…. 信号が変わっても発進しない….                        『なんだコイツ….居眠りでもしていやがるのか? ったく…,アブネェ野郎だ…』 然し,その車は,間もなく途中で曲がって,快適に走れるようになった….人通りの 多い場所とか,車の通りが激しいところで緊張感が戻った….            然し,安心感が出る場所では,猛烈な眠気が襲った.ラジオでもかけようとした. が,隣で眠る妻への配慮もあって止めた….眠気を飛ばすには,カラオケをかけて, 歌ったりしたものだが….                            この時は,そんな気力もなかった….それだけ普段と違う自分であると,その時は 気がつかなかった….ただ,今までにもこういうことはあった.眠ったことはない. そういう自信だけがあった.                           俺様の記憶しているのは,駅前の繁華街を抜けた先にある,カーブに差しかかった ところまでである.次に俺様が気がついたのは,『ガガガンッ』と言う車に伝わった 衝撃音と,広い空き地の中にいる自分であった….                 俺様は眠ってしまった….だが,どうして空き地に….俺様は,コンクリート製の 細い柱を何本か,それに繋がるトタン板をブチ破っていた.ボンネットは捲れ上がり 両サイドのミラーは完璧に削がれるように壊れていた.               幸いシートベルトのお陰か,俺様にも妻にも全く怪我はなく.かすり傷一つない. フロントガラスも無事だった….少なからず開きにくくなったドアを開けて,状況を 観察するに….                                 俺様が最初に恐れたのは,人を轢かなかったかどうかであった….然し,幸いにも 人の倒れている姿はなかった….人通りもあまりなかった.ともかく被害は塀だけで 後は自分の車だけ….                              俺様は,記憶しているカーブの位置から,約二百メートルも道路を直進していた. その間,全く記憶がない….進行方向左側にあった塀をブチ破って中に入ったが…. 二十メートル先はマンションである.                       こんな市街地の中で,よくぞここに空き地があってくれた….民家や商店などに, 突っ込んでいても不思議のないところである.塀は5メートルに渡って壊れていた. 車も無事に走るかどうか….                           事故の届け出を地元の警察に行う.110番通報したが,純然たる物損事故は直接 地元の警察に連絡するように言われた.然し,何故か警察官はなかなか来なかった. 1時間位経ってようやく到着….                         何でも,この日は特に事故が多くて,その処理もあって,なかなか来られなかった と言う.思えば,この日は『新月』であった….満月や新月に事故が多いとの統計も ある….ここで俺様の眠気は完全に吹っ飛んだ….^_^;               現場での調べは簡単で,どういう状況だったのかを説明した程度である.俺様は, みっともねぇとは思いながら,居眠り運転だったと最初から言った.従って,事故の 瞬間の状況は解らないのである.                        「多分,この辺りから,斜めに突っ込んだんだと思う…」ありのままにそう言った. 「あんた,自分のやったことを覚えていないのか!」『んなぁ….無理言うなよ…. 解ってりゃ事故にならんわい…』                         俺様の説明に,警察官も,俺様が無意識に走った距離に驚いていた.だが,実際に 走ってみれば一瞬である.実際には,目を開いて直進を保つ状態で運転していた…. 例え,意識はなくとも….                            他人のノロノロした居眠り状態の運転に腹を立てていた俺様が,数分後には,自ら 居眠り運転で事故を起こした….様々な経過を考えれば,事前に気をつける要素は, 幾らでもあった.それは,予兆現象でもあった.                  運転歴15年の過信が,自らに無理をさせて事故を招いた.実際に事故を起こすまで 俺様は,本当の意味で反省することはなかったのである.居眠り運転は,実際に体験 しなければ,自分がやるとは思わない?                      事故の調べが終わった時,二人の警察官は,妙に柔和な顔になって,「これじゃあ もう車は動かせないねぇ.業者に連絡して搬送を依頼した方がいい….なんでしたら こちらで連絡しますよ」などと言う.                      「それならば…,JAFに連絡をお願いします」こんな時の為に,俺様は,JAFに 加入しているのだ.「えっ? ジャフに入ってんだってよ…」二人は,顔を見合せて 落胆のご様子….『ナンなんだ? コイツら…』                 「えーと…,JAFでしたら,ご自分で連絡して下さい….それから現場の位置とか 土地の所有者については,夜間にでも連絡します…」そう言って,二人の警察官は, さっさと退散してしまった….                          どうやら,レッカー業者と警察との間に繋がりがあって,警察が,ご指名の業者に 依頼すると,なにがしかの手数料が入る仕組みのようである.他から聞いた話でも, 業者がつけ届けをしないと指定から外されてしまうとか?              この辺り,なかなか警察も,したたかである.警察は,言ってみれば,現金収入に 乏しい官庁である? こういうところで,ささやかな潤いを得ているのであろうか? どうやらJAFからの付け届けはないようだ….                  それからJAFへの連絡を入れたが,これがまた,何故か手間取って,二時間近く 待たされた….やはり,事故が集中して,処理に手間取った為だという….調べでは 車は一応自力走行可能….                            近くのディーラーまで誘導して貰って,そこで詳しく調べて貰った.応急処置で, 自宅近くのディーラーまで運転して帰ることになった.午後一時頃の事故だったのに 最終的に地元のディーラーに着いたのは,5時を過ぎていた….           九時を過ぎてから,管轄の警察から連絡があった.事故の現場の住所と,空き地の 所有者名と住所,電話番号などが知らされた.これは後日,任意保険の請求手続きの ために必要になった.                              手続きが終了して,保険会社から届いた書類では,トタン板5枚程度の塀の修復に 約27万円の費用が請求されていた….俺様は,車を新しく買い替えることになった. 車両保険にも入っていたが,80万円もの出費を余儀なくされた.           然し,これが人身事故であったなら,こんなものでは済まない….小学生の列に, 突っ込んでいても不思議のない土曜日であった….ましてや,それが居眠り運転とも なれば,非難の声は厳しい….                          また,状況によっては,鉄柱を積んだトラックにでも追突していれば,その瞬間に 死んでいた可能性だってある.免許を取得してから,初めて起こした事故の割には, 幸運だったとも言える….                            眠気と戦って運転してはいけない.眠気を感じたら,車を止めて休むことを考える 必要もある.然し,休んでも安心は出来ない.眠気は周期的に襲うとも言われる…. 休んだ後に居眠り事故を起こした例が多いとも聞く.                慣れとは恐ろしいものである.初心者マークが付いていた頃に感じていた緊張感は 確実に消えて行く….事故を起こす確率が少なくなった訳ではないのに,慣れと言う 眠りが緊張感をマヒさせて行く.                         この『慣れ』から立ち直るには,ショックが必要である.他人の起こした事故は, 自分が起こす可能性もある.『自分は,そんなバカではない』誰しもそう考えるが, 『天下の偉大なる俺様』も,結局,その辺の雑魚と同じであった….        『不注意』と言う『眠り』は,誰もが平等に起こす.危険を忘れたドライバーたちが 自分だけは大丈夫だと思い込んで,急停止に対処できない車間距離で車を走らせる. 多重の追突事故は,集団的な眠りでもある.                    車は,人間一人,自分一人,あっさりと死んでしまうスピードで走っているのだ. 他人はともかく…,今,生きている自分自身が,次の瞬間には死ねるスピードである ことを自覚しておくのも無駄ではない.** 悪魔 **            

   交通安全について考える          
   居眠り運転の後遺症             
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