誰かが旅行に行くと、必ず『レポートよろしく!』という台詞がメールに登場するようになってしまったのは一体何故なのか・・・。
探ると墓穴を掘ることになりそうなので、深く追求することはよすとして、さっさとレポートを始めるとしますか(^^;)。
それでは、2泊3日、女6人(うち1日は男女取り混ぜて総勢10人・笑)の秋の京の旅に、しばしおつきあいくださいませ。
初日:目的地=伏見稲荷
1 待ち合わせも旅のうち
待ち合わせである。東京駅である。東京から京都に乗り込むメンバーは、4人。『新幹線中央乗り換え口、9時』と指定して、ある程度の目印を教えあってはいるものの、流石に初めてお会いするMさんにちゃんと巡り会えるかどうかが、私は非常に心配だった。ええ、ほんとに、心配していたんですけどね・・・。予想に反して、というか、やはりと言うべきか、至極あっさりと巡り会えてしまったのであった。やっぱり『オーラ』でも出ているのか?(笑)
しゃべり倒した2時間半が過ぎるとそこは京都。
新幹線を降り、京都駅で残りのメンバーと合流して、まず最初に関心の向く先はやはり『お昼御飯』。狙っていたお店がなんとテナントビルの改装で閉店、という事態に出くわし、結局駅ビルの和食屋さんで食べることにしたのだが・・・
2 京都駅経由、伏見行き、大ボケつき
とりあえず注文を終え、メニューが出てくるのを待つ間、一人が持参していた春の京都オフの写真を見ていると、Mさんが不思議なことを言った。
「これ、誰ですか?」
てっきり、今回都合が悪くて来られなかった誰かを指しているのだと思い、のぞき込んだみんなの視線の集中する中で、Mさんの人差し指が指しているのは、どう見ても、『私』。違いと言えば、写真の私は髪をバレッタでまとめていて、今回はおろしていたことくらいである。
本気かな、笑い取ろうとボケてるのかな〜、と好意的な解釈をした中の一人が聞いた。
「・・・・・・え〜〜っと・・・・・・それ、マジで言ってる?」
Mさんは、何故そんなことを聞かれるんだろうと言いたげな顔で頷いた。
「うん」
・・・待て。
待ってくれ!
私は、新幹線で東京から京都まで2時間半、君の目の前に座っていたぞ!?
呆然とする私を後目に、他のメンバーが「ほら、人間じゃないお方」だの「ご本尊」だの、視線をMさんと私に交互に向けながら好き勝手なことを言っている。それでもMさんには判らないらしい。しびれを切らした誰かが言った。
「狐さんだよぉ〜〜っ!」
Mさんの答えがふるっていた。
「ええっ!? だって、髪がない〜〜〜っ!」
・・・・・・何かが違うだろう・・・・・・(^^;;;)。
早速私が『美味しいネタを貰ったぜ!』と喜んだことは、こうしてレポートにまでしているくらいだから言わずもがなというやつだろう(笑)。
許してね、Mさん(笑)。
3 お社巡りは山巡り
大笑いの昼食タイムが過ぎ、そこからJRで一路伏見稲荷へ。
降り立った稲荷駅が非常にこぢんまりした駅だったので、一瞬伏見稲荷まで迷わず行けるかどうか本気で心配したが、なんのこっちゃない、改札を出て左を見るとでっかい看板が(笑)。
大鳥居をくぐり、大きくて妙に愛嬌のある『狛狐』と伏見稲荷大社に一応ご挨拶をすませたら、いざ、千本鳥居へ・・・。
千本鳥居。伏見稲荷大社の背後に控える稲荷山に点在するいくつものお社を結び、途切れることなく延々と連なる、寄進された朱塗りの鳥居群の通称である。
お山巡りのコースは距離にして約4km、所要時間約2時間。もちろん参道はすべて坂道か階段。
ガイドブックに『健脚向け』と記載されることもある、これが所以である。
入り口は非常に平坦だった。あいにくの小雨も、鳥居が、ほとんど濡れないくらいに防いでくれた。
千本鳥居はまだまだ入り口、ここから先は延々と朱色の天蓋が参道を守っている。山の麓なので、もちろん見晴らしもよくない。極めつけに、工事用の『立入禁止ガード』まで参道の隅に見え隠れしていた。それなのに・・・。
それなのに、何を思ったか、一行の半数が突然写真を撮り始めた。
『何も今、こんなところで撮らなくても・・・』ふと浮かんだ言葉は、彼女たちには届かなかった。
思えば、あの時既に気づいていたのかも知れない。本格的なお社巡りに突入すれば、写真を撮ろうなんて余裕は山の彼方の空遠く吹き飛んでしまうことに。
そこから先は、歩いた。ひたすら歩いた。石段を登り、緩い坂道を上り、そして下る。
目に映る緑は鮮やかである。千本鳥居は、たとえ古びていようともあくまで朱い。静まり返った山の空気は涼やかで、鳥居の下を歩く限りは、雨も鳥居が防いでくれる。
だが、山道である。
立ち並ぶ鳥居の寄進者名を時折眺める余裕まで失うことはなかったが、やはり口数は減る。息だってあがるし、足も疲れる。他のメンバーの眼には、私は余裕綽々でさくさく歩いているように映ったらしいが、何のことはない、下手に休んでペースを乱して余計に疲れるのが嫌だっただけである。
その私の足が、石段の途中で、後ろを振り返るためでもないのに一度だけ止まった。
「嘘だろう・・・?」
背後から、友人たちの「何、どうしたの!?」という悲鳴にも似た声が響く。
「まだあるのか!」
我知らず叫んだ私の右手には、100mほども上ってきたのと同じくらい急な石段が、途中全員が並び立って休憩できるほどのスペースすらないまま更に上へと続いていた。
『荒野を行こう どこまでも 心臓破りの丘を越えよう♪(By
B'z)』などと口ずさむ気分にも到底なれなかった。
ただ、気を取り直して歩き始めた私の姿が友人たちにどう映ったのか、なんとなく、判る気は、した。
4 疲れた体に『冷やしあめ』
お社巡りの途中、何軒か『冷やしあめ』の暖簾をかけたお茶屋さんを見かける。
『冷やしあめ』。私や、関西に住んでいるPさんにはお馴染みのものなのだが、残りのメンバーにとっては、存在すら知らない代物だったらしい。
最初私たちは、お社巡りの『往路』でそれを賞味しようと試みたのだが、立ち寄ったお店には缶入りのものしか売っていなかったため断念。稲荷山お社巡りは途中まで往復同じ路を辿るので、自家製の暖簾を掲げていた別のお店に、『復路』で立ち寄ることにした。
しのつく小雨の中、しん、と静まり返った茶店。古い民家をそのまま開放したような、落ち着いた佇まい。
参道に面した廊下から「ごめんください」と呼びかける声が、静寂に吸い込まれるような気がした。
しばらくして現れたのは、優しい雰囲気の奥さんだった。自家製だという冷やしあめを、大きなグラスに入れて供してくれた。1杯400円也。
ほんのりとろみのついた薄茶色の液体。店によってもまちまちなのだろうが、ここのは甘茶よりも多少甘くて、生姜の風味が添えられている(私の知る冷やしあめはこの手の味である)。嫌みのない、甘いものは決して得意ではない私にも飲めるくらいにさっぱりした甘さで、喉も渇いていたのだろう、みんな瞬く間に飲み干してしまった。
どうやら初めて飲む面々も気に入ったらしい。Mさんなどは、伏見稲荷境内の土産物屋で、瓶入りの冷やしあめを買っていた。
土産物といえば、京阪線伏見稲荷駅からの参道に、笑えるモノがあった。
その名も『きつねちゃん煎餅』。一回り小さい『こぎつねちゃん煎餅』というのもあった。
ツボである。ネーミングが笑える上に、顔も可愛い。他の店でも類似品は売っているが、それらは『狐面』がそのまま煎餅になったような顔で、食うには結構な勇気を要するのだ。
買おうかと、全員がしばらく店の前で立ちつくした。味見もさせて貰った。まあまあ美味だった。
本気で買おうかと思ったのだ。いいネタになると、本気で思った。だが、やめた。
理由は簡単。嵩張るのである。立体の煎餅のため、形状の保持を主眼において箱入りにすると、嵩張る。かといって袋入りでは強度に疑問が残る。加えて、帰りはJR京都駅に寄らずに、まっすぐホテルに一番近い駅で降りるつもりで旅行用の荷物一式を持って来ていたため、帰りも当然荷物を持って電車に乗らねばならない、という制約もあった。
姑息な言葉が浮かんだ。『実物を見ただけでも十分ぢゃないか?』
結局誰も買わなかったあたり、どうやら全員、似たようなことを考えたようである。
5 怪しい看板
伏見稲荷を後にして京都市街に戻った私たちの次の目的地は、当然ながら、『お宿』である。いい加減荷物も置きたいし、夕食の計画なども立てたい。それには、ホテルにチェックインしてしまうのが一番なのだ。
ここで、ひとつ問題が発生した。ホテルの名前は聞いてはいたが、予約した当人のPさん以外、誰も正確な住所を知らない。ガイドブックには載っていなかったし、Pさんがホテルから貰った地図も、結構大ざっぱと言えば大ざっぱだったのだ。
とりあえず、大体の見当をつけて、歩く。
しばらく歩いて、「迷った?」という思いがかすかに胸中を過ぎった時、前方に、ひとつの看板が見えた。
白地に黒の太明朝体。ホテル名の下に、小雨の降る薄曇りの中でも燦然と輝くコピーは、
『←24時間チェックインOK
休憩に、宿泊に、お気軽にどうぞ!』
・・・・・・怪しい。怪しすぎる。
「う・・・」「え〜と」「こ、これは・・・」思わず立ち止まった一行の視線が交わることはなかったが、おそらく同じ思いが脳裏をかすめていたのだろう。互いの瞳に宿っているであろう同じ不安を、視線を交わして確認するのを拒むように、それ以上の言葉を発することなく私たちは表示に従って歩き始めた。
幸いなことに、見つけたそのホテルは、普通のビジネスホテルだった。フロントではロマンスグレーのおじいさまがにこやかに微笑んでいた。
部屋割りは4人と2人。チェックインを済ませ、4人部屋の方にとりあえず集まることにして、最後の1人がドアを閉めた瞬間、誰かが呟いた。
「よかった・・・フロントに人がいなかったらどうしようかと思った・・・」
一瞬静まり返った室内で、誰もが視線を落としたままこっくりと頷いた。
6 食事は旅の醍醐味
怪しげに思えて実は怪しくなかったホテルに一安心した私たちは、早速ガイドブックを開いて今後の計画を立て始めた。夕食にはまだ早すぎる時間だったので、とりあえず探すのは『お茶できる場所』。だが、私たちの興味を惹き付けるのは、照明の青い喫茶店(笑)だの『バー・ショッカー』だの、怪しげに楽しそうな場所ばかり。『バー・ショッカー』は開店が夜8時からなので、この旅行中に行けたら行こう、ということにして(でも結局行かなかった)、青い照明の『ソワレ』に行くことにした。
『ソワレ』は、確かに照明は青くて、ちょっと薄暗くて不思議な雰囲気だったけれど、装飾もさりげなく豪華で、なんだか落ち着いてしまった。
さんざんしゃべり倒して、お次は夕食。
目的の店は、円山公園のなかにある、『いもぼう』で有名な平野屋だ。ここは5月のオフの時にも来ていたので、味は保証付き。3人が『いもぼう御膳』、私を含む残り3人は『いもぼう御膳』と1品だけ内容の異なる『月御膳』を頼んだ。それぞれ、2400円&2500円也。
『いもぼう』の名は、ここの名物料理、京野菜のえびいもとぼうだらの煮込みに由来する。じっくり煮込んだえびいもが美味。お吸い物や和え物などその他のお菜も美味で、秋、ということでご飯が栗ご飯なのも嬉しい。美味しいものを前にして、幸せな時間を過ごした私たちだった。
お宿に戻れば、そこはやはり『女ばかりのオフ会』。
小説、漫画、アニメから、うち一人が習っているというダンス、パソコン、お料理の話、お菓子の話、明日の予定に至るまで、話す話題は尽きない。
そして、何故か始まるマッサージ大会(笑)。
私は、仕事は思いっきりデスクワークのくせにどういう訳か肩が凝らないという、人に言わせれば『人間じゃない』体質なので、もっぱら『マッサージのツボを仕込まれる』側(ただし、オンリー・爆)にまわる。
「狐さんはね〜〜。力はあるけど肩が凝らないから、ツボを探すのが下手なんだよね」
「そうそう。力技にはもってこいなんだけどね〜〜」
「早く覚えてね、ツボ」
・・・散々な言われようである。
それでも、『埴輪の背中に乗る狐の図』などという怪しい絵を出現させつつ、京都の夜は更けていった。
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