●紀尾井アンサンブル『わが心のボヘミア』〜哀愁のストリングス〜
2000年6月24日(土)18:00/紀尾井ホール
(演奏)
ヴァイオリン:小川有紀子、鎌田 泉、澤 和樹、玉井菜採
山本はづき、米谷彩子
ヴィオラ :澤 和樹、篠崎友美、中村智香子、馬渕昌子
チェロ :林 俊昭
コントラバス:河原泰則
(プログラム)
ドヴォルザーク
弦楽三重奏曲 ハ長調op.74
弦楽五重奏曲 第3番 変ホ長調op.97
−休憩−
弦楽五重奏曲 第2番 ト長調op.77
(アンコール)
ドヴォルザーク:ワルツop.54の4
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今日のコンサートは紀尾井シンフォニエッタのメンバーによるボヘミア室内楽と
いうことで楽しみにしていた。驚いたことに、ロビーはチェコ大使館と田園調布
にあるギャラリーによってボヘミアン・グラスの展示会場と化している。一階の
ロビーは展示販売。二階はちょっとしたアート風で、ボヘミア絵画も壁を飾り立
てる。照明で鮮やかに輝くグラス美術を見ていると心が和み、演奏会への雰囲気
も高まる。
そんな気分を存分に満足させてくれるかのように、今日の演奏全てが素晴らしか
った。プログラムは全てドヴォルザーク。最初の弦楽トリオは2本のヴァイオリ
ンにヴィオラという取り合わせながら、実にしっかりとした構築力を見せる。加
えてドヴォルザーク特有の美しい調べがたった3本の弦で鮮やかに描かれた。紀
尾井アンサンブルの面々は素晴らしいテクニックだ。弦3本だけで4楽章形式の
長大なトリオを心行くまで聴かせてくれる。特にフィナーレの第1ヴァイオリン
は凄かった。
続く弦楽五重奏第3番。それぞれ2本のヴァイオリンとヴィオラにチェロという
編成である。この曲は弦楽四重奏「アメリカ」と同様にインディアンのメロディ
を取り入れた作品。その音楽の美しさは絶品であり、冒頭から最後まで耳を捉え
て離さない。何とインディアンのリズムにボヘミアンのメロディが折り重なる!
インディアンの調べはどこかボヘミアンに似ている。その為かインディアンとボ
ヘミアンという素材が溶け合う時の響きは本当に素晴らしい。情熱を秘めた哀愁
もしみじみと伝わってくる。アダージョでのヴィオラとチェロは異郷アメリカに
居るドヴォルザークの郷愁を描写しているようだ。続くヴァイオリンの新たな展
開。忘我の状態から躍動する音楽へ。全ての音楽にドヴォルザークの想いが込め
られている。紀尾井アンサンブルはそんな微妙なニュアンスまでをもくっきりと
聴かせてくれた。
弦楽五重奏第2番は弦楽四重奏にコントラバスが加わり、音楽の重心はぐっと下
がって安定感を増す。そのためか全体の響きもやや渋い。柔らかい木質の響きが
5本の弦で醸し出された。この曲も哀愁を帯びているが3番に比べるとよりシン
フォニックさを呈している。すなわちコントラバスのリズムが推進力の源となり、
あえて表現すれば弦楽セレナード風の要素を含んでいる。それだけに室内楽と弦
楽アンサンブルの良さを兼ね備えているようだ。音楽の起伏は大きく華麗でもあ
る。アンコールも同じメンバーでワルツが演奏された。3000円というコスト
パフォーマンスの素晴らしさもさることながら、ドヴォルザークの魅力を200
%味わえた。