●モンテカルロ歌劇場日本公演/ヴェルディ作曲 歌劇「椿姫」
2000年6月10日(土)15:00/東京文化会館
指揮:リチャード・ボニング
演出:ピエール=ルイジ・ピッツィ
演出助手:マリオ・ポンティジャ
モンテカルロ歌劇場管弦楽団
モンテカルロ歌劇場合唱団
(キャスト)
ヴィオレッタ・ヴァレリー:アンジェラ・ゲオルギュー
アルフレード・ジェルモン:ジュゼッペ・フィリアノーティ
ジョルジョ・ジェルモン :レナート・ブルゾン
フローラ・ベルヴォア :エルシェベット・エルデリィ
ガストン子爵 :ジョン・ヌッツォ
ドビニー公爵 :ホアン・ヘスス・ロドリゲス
ドゥフォール男爵 :ミケーレ・ゴヴィ
Dr.グランヴィル :エンリコ・トゥルコ
ジュゼッペ :ジャンニ・コッス
アンニーナ :マリー・ホセ・ドロリアン
フローラの友人ほか :ルチアーノ・メディチ
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久しぶりの東京文化会館。はっきり言ってこの劇場は好きになれない。今日は開演20分前に到着したが、入り口は長蛇の列になっている。これは一体どうしたことか。この劇場は時々30分前でも開場していなこともある。それに入り口が狭い。これは新国立も同じだ。オペラの場合、開演30分前の開場は世界の非常識と思う。
慌しい思いのまま席に着く。今回は発売日の電話予約で運良く平土間最前列をゲットできた。大指揮者ボニングが登場。彼は実に貫禄がある。最初の序曲ではヴァイオリン群がややもどかしい印象を受けた。オーケストラのレベルは並。決してウィーンのような上手さは無い。しかし幕が開き、ドラマが始ると俄然調子が上がってくる。
さすがにかぶりつきの席は文化会館の狭い間口でも迫力ある舞台が楽しめる。絢爛とした乾杯の場面。ゲオルギューのヴィオレッタは本当に美しく、素晴らしい歌だ。若干25歳のフィリアノーティのアルフレートも信じがたいほど歌が上手い。伸びのあるテノールで酔わせてくれる。舞台はいわゆる古典的なもので、純粋に椿姫というドラマを見せてくれる。
ブルゾンのジェルモンが圧倒的に素晴らしく、特にゲオルギューと対面する場面では二人のドラマは火花を散らす緊迫さとなる。ブルゾンの歌が上手いという以上にゲオルギューの強い女性と対面することで、ジェルモンとヴィオレッタの感情のうねりがまざまざを目の当たりにされる。
第2幕パリの舞踏会の場面では派手な踊りが繰り広げられる。南欧的な雰囲気も漂っている。フラメンコや闘牛士も登場し、かなりのエンターテイメントさである。椿姫という悲劇にはちょっと疑問な振りつけではないかとも思う。が、ここで派手に盛り上げることで第3幕のヴィオレッタの死とコントラストさせる演出かも知れない。
第3幕、これは凄い迫真のドラマであった。何と言ってもゲオルギューが凄い。嘆き悲しむ歌。あくまでも生きることへの望みと絶望。すごい演技だ。幕切れまじか、ゲオルギュー、フィリアノーティとブルゾンの3人のドラマは圧巻。この感動はオペラをはるかに超越ほどのもの。こういった素晴らしいドラマを見ることが出来たのは、大歌手たちもさることながら、大指揮者ボニングの力量によることも明かである。全てのドラマが終了し、熱い感動がこみ上げてくる。周囲は大喝采となるが、ここはしばらく余韻が欲しい。ちょうど目の前のカーテンの割れ目から歌手たちが登場したときに拍手を始める。今日は実に良いオペラを見ることができた。