●東京フィルハーモニー交響楽団・定期演奏会
2000年5月26日(金)19:00/オーチャードホール
(プログラム)
ワーグナー :『タンホイザー』より「殿堂の入場」
グルリット :『軍人たち』より第1幕第3場/第3幕第3・4場/
第3幕間奏曲と終幕
R.シュトラウス:『サロメ』より間奏音楽と七つのヴェールの踊り
グルリット :『ヴォツェック』より第1・13・14・17景と
エピローグ
−休憩−
ワーグナー :『ローエングリン』より「聖堂への入場」
グルリット :『ナナ』より第1幕第1景/第1幕小序曲と第3景
R.シュトラウス:『ばらの騎士』より第2幕「ばらの献呈」/第3幕終景
の三重唱と二重唱
ワーグナー :『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より第3幕の
五重唱/職人たちの入場・徒弟たちの踊り・目覚めよ
朝日は近し・終幕
(出演)
指揮 :若杉 弘
ソプラノ :天羽明恵・岩井理花
メゾ・ソプラノ :井坂 恵
テノール :松浦 健・大間知覚
バリトン :多田羅迪夫・大島幾雄
合唱 :東京オペラシンガーズ
(ソリスト配役一覧)
軍人たち
マリー :天羽明恵
デポルト :大間知覚
ヴェーゼナー :多田羅迪夫
シュトルツィウス:大島幾雄
マリ :松浦 健
ひとつの声 :井坂 恵
ヴォツェック
大尉 :大島幾雄
ヴォツェック :多田羅迪夫
マリー :岩井理花
ユダヤ商人 :松浦 健
ナナ
ナナ :天羽明恵
フォンタン :多田羅迪夫
ボードナーヴ :大島幾雄
ゼウスの者 :松浦 健
劇作家 :大間知覚
ばらの騎士
ゾフィー :天羽明恵
オクタヴィアン :井坂 恵
元帥夫人 :岩井理花
ファーニナル :多田羅迪夫
マイスタージンガー
エヴァ :岩井理花
マグダレーネ :井坂 恵
ワルター :大間知覚
ダヴィッド :松浦 健
ザックス :大島幾雄
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東フィルの常任指揮者でもあったグルリットをテーマにしたコンサート。彼は作曲家としても有名だそうで、今日はその中から三つのオペラが抜粋で紹介された。「軍人たち」はレンツの原作によるもので、これはツィンマーマン作曲による作品が若杉&東響で昨年の2月定期で演奏されたのが記憶に新しいところ。また「ヴォツェック」はビュヒナー原作によるもの。何とベルクと同じ時期に作曲され、彼ら二つのヴォツェックは1年以内の同時初演だったとか。そして「ナナ」はエミール・ゾラ原作のオペラ。と、珍しい作品が聴けるとは大変貴重である。
若杉氏はグルリットに学び、グルリットと共にドイツオペラ作品の日本初演を携わってきたそうで、彼の指揮ぶりもグルリットへの共感はひとしお。そういったこともあり、始めて聴くグルリットのオペラの断片であっても、熱い想い入れが伺え、大いにその作品の素晴らしさを実感できた。
ステージは東フィルのオペラコンチェルタンテ風にオーケストラ後方に段を組み、合唱とソリストたちが登場して、まさにオペラを楽しませてくれるという趣向。最初のタンホイザーでの威勢のよいトランペットと小編成でも素晴らしい合唱のオペラシンガーズ。これを序曲代わりとして、いきなりグルリットの「軍人たち」となった訳だが、この作品はあまり馴染みが無いため、対訳を見ながら聴くのはちょっと辛い。一方ヴォツェックでは、ベルクで良く知ったストーリーのため、こちらは安心して聴くことができた。グルリットのヴォツェックはベルクに比べて緊密度は薄いものの、耳には馴染みやすい音楽。バックステージからの合唱「私たちは貧乏人」とソリストの重なりが凄くリアルな効果を生んでいた。ちなみにこのオペラの全曲は秋のアルブレヒト&読響で聴く予定。「ナナ」もストーリーは全く無知な訳であるが、多少コミック調をまじえたドラマで、音楽も素晴らしい。ヴォツェックとならびナナは大きな喝采を浴びていた。
今日は、R.シュトラウスの「サロメ」、「ばらの騎士」も演奏され、若杉得意のシュトラウスが存分に聴けた。七つのヴェールの踊りでは、東フィルから粘りとしなりのあるサウンドが聴けたし、「ばらの騎士」でのソリスト達の歌も絶品であった。よくを言えば、ソリスト達の声量がもう少しあればと願うのだが。そしてフィナーレのマイスタージンガー。こちらもソリスト達が頑張っているが、若杉&東フィルのアンサンブルがすこぶる素晴らしく、マイスタージンガーらしいマイスタージンガーを聴くことができた。3時間近くに及ぶ演奏となったが、時間の経過は全く感じさせない。それよりもよくもこれだけサービス万点のプログラミングを充実した演奏で楽しませてくれたことに感謝。