●サントリーホール・メンバーズ・クラブ・コンサート
 −1740年代。移りゆく時代に響いた音楽−
 2000年6月17日(土)14:00/サントリーホール・小ホール

(演奏)
 チェンバロとお話:武久源蔵
 アンサンブル1740
 ヴァイオリン:桐山健志、大西律子、竹嶋祐子
 ヴィオラ  :森田芳子
 チェロ   :諸岡範澄
 ヴィオローネ:諸岡典経
 チェンバロ :平井み帆

(プログラム)
 J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第3番ニ長調BWV1054
 J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV1041
 お楽しみコーナー
 −休憩−
 ラモー    :軽はずみ、ラ・リヴリ(クラブサンのための合奏曲集)
 フォルクレ  :ラ・ブーロン(クラブサン曲集から第2組曲)
 ロワイエ   :スキタイ人の行進
 J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調BWV1015
 J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第4番イ長調BWV1055
(アンコール)
 J.S.バッハ:2台のチェンバロのための協奏曲第1番より第2楽章




武久源蔵はかねてより聴きたかったチェンバリスト。今日これを3000円で、
しかもバロックアンサンブル付きで聞けるとあっては聞き逃すわけには行かない。
しかもドリンク付きなので、開演前にオレンジ・ジュース、休憩時にコート・デ
ュ・フォレ1999を頂く。チケットは発売日にゲットしたので、もちろん最前
列の良く見えるポジション。

ちなみに今日のアンサンブル1740とはオーケストラ・シンポシオンやBCJ
のメンバーが武久のために結成したアンサンブルで、良く見かける人達ばかりで
あった。最初のバッハではドイツ・チェンバロが用いられ、とても伸びやかなア
ンサンブルが繰り広げられた。ドイツ・チェンバロの繊細な響きも隈なく聞き取
れる。メンバーが常に呼吸を合わせている様子も良く伝わってくる。続くバッハ
の有名なヴァイオリン協奏曲1番では桐山が絶妙な音楽の流れを作る。

普通ならこの2曲で休憩となるのだが、お楽しみコーナーが続く。武久のユーモ
ア一杯のお喋りが会場を笑わせてくれる。ステージには最初に用いられたドイツ
・チェンバロに加えて、フレンチ・チェンバロ、ラウテンベルク・チェンバロと
ピアノ・フォルテが登場した。所狭しと並べられたチェンバロ群とステージの際
までオーケストラのメンバーが勢ぞろいし、それぞれのチェンバロとバロック楽
器についての紹介と演奏が披露される。

ここから武久のレクチャーが始るのであるが、まずバロック・ヴァイオリンとモ
ダン・ヴァイオリンの違いは何かについて。これを理解するためヴァイオリン協
奏曲1番の第2楽章を題材に、ある実験が行われる。途中までソロはモダン・ヴ
ァイオリンで演奏し、アンサンブルは超モダン風に。そして途中からソロはバロ
ック・ヴァイオリンに持ち替え、アンサンブルも超バロック風に。とても面白い
試みで、モダンとバロックの違いが一目瞭然。ただし武久のコメントによると、
ここ10年でバロックとモダンの奏法の違いな無くなるだろうとのこと。かなり
ユニークな持論を聴かせて頂いた。なおこの時の通奏低音にはラウテンベルク・
チェンバロが用いられた。ちなみに、これはガット弦を張ったものでリュートの
響きを醸し出す。しかしチェンバロ専用のガットは無いそうで、テニス・ラケッ
トのガットを張っているとのこと。ガットにはいろんなテニス・メーカーのもの
も使っているとか。音色はとても渋い。

レクチャーとお笑いトークはまだまだ続く。バロック・チェロの紹介に続き、フ
レンチ・チェンバロとピアノ・フォルテのお話。フレンチ・チェンバロは一際大
型で克明な装飾が施されている。蓋には風景画が描かれている。ちなみにこの絵
は昨日出来あがったとのこと。響きは立派でまさにチェンバロの王者という風格。
ピアノ・フォルテは現代のピアノというよりはやはりチェンバロに近い。しかし
名前の如く音の強弱を出せるのが特徴。ここでバッハのヴァイオリンとオーボエ
のための協奏曲を編曲した2台のチェンバロのための協奏曲第1番の第1楽章が
演奏される。第1ソロはフレンチ・チェンバロで平井が弾く。第2ソロはピアノ
・フォルテで武久が弾く。まさに実験とも思えるアレンジでの演奏は、とてもユ
ニーク。ピアノ・フォルテのくすんだ音色がオーボエを思わせる。

後半はフレンチ・チェンバロを用いたソロが3曲つづく。ラモー、フォルクレと
優雅でいて、どこか渋さを感じさせる。ロワイエのスキタイ人の行進では、これ
また武久の実験が行われる。チェンバロはピアノ・フォルテと違い、強弱を出せ
ないのであるが、蓋の開閉加減で強弱を出そうと言うのである。すなわち完全に
蓋をした状態でピアニッシモ、全開でフォルティッシモという具合に。これはと
ても成功していたようで、1700年代に作曲の作品が生命力豊かに際立つ。ま
さにチェンバロの醍醐味を200%にアップしたといっても良いくらい。

再びドイツ・チェンバロに交換し、バッハのヴァイオリンとチェンバロのためソ
ナタ第2番。桐山氏のバロック・ヴァイオリンはとても澄み切った音色で、聴く
ものを魅了する。ちなみに彼のソナタ全曲演奏は10/1(奏楽堂)、10/5
(近江楽堂)が予定されている。

再びソロとしてピアノ・フォルテが登場し、バッハのチェンバロ交響曲第4番が
演奏された。通常ならチェンバロがソロなのが、ここであえてピアノ・フォルテ。
まるで古風なピアノ・コンチェルトの風合いがあり、渋い仕上がりになっていた。
ついにアンコールは、これまたチェンバロを取り替え、ソロにフレンチを、通奏
低音にピアノ・フォルテといった趣向でお楽しみコーナーで演奏された2台のチ
ェンバロ・コンチェルトから第2楽章が演奏された。実に2時間45分にわたる
充実の演奏とレクチャーにトークと盛り沢山であった。

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