恐いと思った事3

1999年7月24日  天気晴れ  通算584本目
ポイント:越前・壁石岩(かぶしいわ)  目的:ファンダイブの引率・ガイド

この日、僕が引率したのは4人のお客さん、オープンウォーター講習後、
初めてのファンダイブの人が3人、2回目の人が一人、つまり超ビギナー4人です。
4人共、僕がオープンウォーター講習を行った人達でした。
午前中1本目は米野ビーチ(駐車場の左)で潜り、午後からは壁石岩で潜る事にしました。
壁石岩のポイントで潜るのは17回目、自分としては”いつも通るコース”
が頭に入っていました。うねりが大きい時がありますが、その時を除けば
初心者からファンダイブが楽しめて、オープンウォーター講習も行うポイントです。

ブリーフィング(はぐれたら1分待って浮上。残圧申告の指示など)を行い、
ビーチからエントリーして、水面移動でテトラポットの出口まで行き
そこで潜降しました。透明度は5メートル「わりとにごっている」と感じましたが
「この時期、この辺では、よくある程度」と思いました。

最初の目標地点”第一トンネル”を目指します。度々ちらちらと後ろを確認。
4人は僕の後ろを横一列で泳ぎ付いてきていました。
第一トンネルに着き、短い穴をくぐりました。
穴を出た所で残圧チェック、4人の中で極端に減っている人はいません。
予定通り、次の目標地点”壁石岩”を目指し方向転換しました。

しばらく進んだ所で、後ろを見ると3人しかいません。
少し上を見上げると一人(Gさん)が浮き上がって行くのが見えました。
手足はバタついていません。BCへのエアの入れ過ぎだろう、
ビギナーにはよくある事だと思い、BCのエアを抜かさせて、すぐに再度潜降させようと考えました。
この時、僕は「よくあるトラブル」ですぐに対処出来る事と考えていました。
残りの3人に”ここで待て”のシグナルを出し、
浮いた人を追って、僕も浮上を開始しました。
その場所は水深13メートルくらいだったと思います。

僕がGさんに追いついた時には2人共、水面に到達していました。
GさんのBCは満タンにふくらみ、なおもエアが入り続けていました。
パワーインフレーターのインフレーションボタンの”塩かみ”です。
バネが戻らなくなっているボタンを手で引っ張って戻してもエアが止まりません。
午前中は何とも無かったのに、と思っても、現に今、エアーが止まらないのです。
しかたなくパワーインフレーターからインフレーターホースを取り外しました。
これではダイビング続行は不可能です。
僕はあきらめ下に残してきた3人も浮上させようと考え
Gさんに、このまま水面で待つように指示し潜降しました。

再度、潜降しましたが3人の姿が見当たりません。
水面に行っていたのは1〜2分だったと思います。
その間に僕は水面を流され、3人の真上からずれてしまったのです。
水面に一人を残して3人を探す事は不可能です。
僕は、すぐにまた浮上しGさんの所に行きました。
まわりを見渡すと10メートル程離れた所に白いブイが浮かんでるのが見つかりました。
そのブイは常時その場所に水底からロープで結び付けられているものでした。
水面移動でブイまで行き、それにGさんをつかまらせて待つように指示しました。
これで少なくともGさんの居場所は確認できて、3人を探す時間が、
何分間か確保出来ると考えました。

潜降し、はぐれたと思われる辺りを2〜3分探しましたが見つかりません。
ここに至り「完全にはぐれた」と認識しました。
通常ならば「はぐれたら1分待って浮上」ですが、僕は3人に
「ここで待て」と指示しています。3人は僕が戻るのを待っているでしょう。

探すのには時間がかかると考えました。
迷いましたがGさんを浜へ帰らせる事にしました。
浮上してGさんのウェイトを捨てさせ、BCの空気は絶対抜かないように言い、
水面移動で浜に戻るように指示しました。
たとえ水面でも、自分の指示でバディシステムを解除させ、
ひとりで戻るように指示しました。
水面で、Gさんが浜に向かって泳いで行き、テトラポットの入口まで
泳ぎつくのを待ちました。そこまで泳ぎついたのを確認してから
また潜降しました。

さらに4〜5分探しましたが見つかりません。
探してる間に「たいへんな事になった」「何で”待て”なんて言ってしまったんだろ」
「全員で浮上すれば良かった」「そもそもビギナー4人なんて無理だった」
とか後悔していました。もしかしたら浮上しているかも、と思い
浮上してみました。
このまま水面で待つか?また水中を探すか?
僕は迷っていました。
講習が終わったばかりのダイバーは「待て」の指示を正直に守るだろうか?
それとも自分達で残圧を判断して浮上するだろうか?
1〜2分水面で待った頃、20メートルほど離れた水面に
頭が3つ浮かんで来ました。3人が浮上したのです。
3人の方へ大きく声をかけると、3人もこちらに気づき手を振り返しました。
水面移動で合流し、エアも少なくなっていたため4人共
水面移動で浜まで戻りました。
僕は、ほっとして目まいがしそうでした。

後で3人に聞くと「あんまり僕らが戻って来ないので、3人で相談して
”とりあえず浮上しよう”と思い浮上した」という事でした。
Gさんは危うい事が起きたという認識もなく、先に戻った浜でのんびり待っていました。

ログ付けをしている時に、4人に一部始終を説明しました。
水中で起きた事と、水面で起きた事の両方の関係を知っているのは
僕だけだったからです。4人のうちの一人は、不安な想いをして、
楽しむべきファンダイビングが、中途半端なものに終わってしまったにもかかわらず
「貴重な経験をした」と言ってくれました。頭が上がりません。

後から考えれば、このような事が起きないようにする為に、
しておくべきだった事はたくさん有ったと思います。
また、事が起きてからの対応も、いろんな方法が有ったと思います。
後悔する内容はありますが、ほんとの正解は今もわかりません。
ただ”恐いと思った1本”は、その条件のもとでは
”潜るべきで無かった1本”だったと思ってます。

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