恐いと思った事2

1997年4月16日  天気晴れ  通算326本目
ポイント:伊豆海洋公園  目的:ファンダイブ

僕にとっては初めての伊豆海洋公園でした。それまで西伊豆をメインに

越前、串本などでダイビングを楽しんできましたが、東伊豆はほとんど足を踏み入れた事の無い所でした。

伊豆海洋公園は日本では有数の、東伊豆では最も有名なダイビングポイントと言ってよいでしょう。

また、雑誌などではビギナーから楽しめるポイントとしても紹介されています。

その日のメンバーは引率のインストラクター、自分、自分より経験のだいぶ少ない二人、

以上4人でした。

バディの組み合わせは、経験の少ない二人のうちの一人が僕と、

もう一人がインストラクターと、しました。

エントリー前にビーチから海を観察して感じたのは、

1.風はほとんど無いが、うねりが有り、海面は波立っている。

2.波打ち際では、かなり波が有る。

この程度の状況ならば、いつも入っている大瀬崎の外海の、

波が有る時の状況と大差は無い、と自分で判断しました。

しかし、ここでのエントリー方法は、大瀬崎での「フィンは水に入ってから履く」

では無く、「先にフィンを履いて、波うち際の岩に張られたロープにつかまりながら

エントリーする」という今までに経験した事のない方法でした。

他のダイバーグループが、先にエントリーして行く様子を観察し、

エントリーしたら、早めに沖の方へ移動し、波とうねりの強い所を通過して、

沖の水面で一旦集合してから潜降しようと打ち合わせをしました。

他のダイバーグループが沖の水面で、集合してるのを見て、

どの程度、沖まで出なければならないか?の目安も付けました。

エントリーを開始しました。波打ち際の手前で、タンクを担ぎ、フィンを履き、

ロープにつかまりながら、そろそろと歩いて行きました。

膝くらいまで水に入ると、かなり強く、寄せる波と引き波の力を感じました。

ロープをしっかりつかみ踏ん張りました。波と波の間に少しずつロープを

たぐり寄せて進んで行きます。

腰ぐらいの深さになると、ロープをつかんでいても、踏ん張って立っている事は

出来なくなり、足は水底から離れて、体は波で前後に大きく振り回されました。

鯉のぼりが、風向きが変わるたびに、振り回されている状態です。

ロープをつかんでいるのがやっとで、たぐりよせる事が出来ません。

「早く波打ち際を抜け出さなくては」と思い、水底を這って行こうと思いました。

ロープから手を離し、沖に進む方向に体を向けました。

今度は全身が前後に揺すぶられます。水面を泳いでは進めません。

潜降して、水底を這って行きたいのですが、ドライスーツでしたから

すぐには沈みません。まだ足が付くか付かないかの深さだったと思いますが、

懸命に水底に向かって泳ぎました。やっと水底に手が届き、岩をつかんで這って進み始めました。

まだ、うねりは強く、体を前後に揺さぶり、体を水底から引き離そうとしていました。

懸命に水底をつかんで進み、ようやくうねりが弱まり、手を離しても泳いで前進できるようになりました。

この間、自分の事に夢中で、僕の後からエントリーしてきているはずのバディの事は

全く頭の中に有りませんでした。

うねりがだいぶ弱まったので、水面に浮上しました。水面に出て、陸の方を見てみると

陸が遠い、という気がしました。

BCを膨らませて浮かんでいましたが、息が上がり、呼吸は乱れ、疲れていました。

水面ではうねりは、まだ大きく、体が大きく上下に揺らされ、そのたびに陸が見えたり、

見えなくなったりしていました。

その時「恐い」と感じました。「このまま潜るのはやめて、もう上がりたい」と思いました。

インストラクターが水面に来たら「もう帰ろう」と言おうと思いました。

少し横を見ると、わりと近くにバディがいました。バディの顔、様子を見ると

落ち着いているように見えました。

落ち着いているバディを見たら自分も少し落ち着いて来ました。

少しして、近くの水面にインストラクターと、そのバディのもう一人の姿も見えました。

全員がそろったの見て、呼吸も整ってきたら落ち着き、気持ちは治まりました。

その後、潜降しファンダイビングを続けました。しかし、僕は潜っていても魚を見る気はせず、

ずっとエグジットの事を考えていました。

あの、波とうねりの状況でエグジットする時の手順を、頭の中でシュミレートしていました。

そしてエグジットが近づき、考えていた手順でエグジットしました。

やはり、波とうねりに揉まれましたが、気持ちとしては落ち着いてエグジット出来ました。

午後からの2本目は、波とうねりがさらに強くなってきた為、

インストラクターが「やめよう」と言い、僕達3人も同意し、キャンセルしました。

初めてのポイントで、初めてのエントリー方法で、自分の事しか考えられなくなり、

「恐い」と感じた経験です。

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