The Tony Williams Lifetime

TURN IT OVER (1970)

  1. To Whom It May Concern - Them
  2. To Whom It May Concern - Us
  3. This Night Thi Song
  4. Big Nick
  5. Right On
  6. Once I Loved
  7. Vuelta Abajo
  8. A Famous Blues
  9. Allah Be Praised
  10. One Word (*Bonus 1997)

Personnel :

Tony Willams: Drums & Vocals
John McLaughlin: Guitars & Vocals
Khalid Yasin (Larry Young): Organ
Jack Bruce: Bass & Lead Vocal on "One Word"

 

このサイトで最初に取り上げる記念すべきアルバムは、まさにこのサイトの内容を凝縮したような一枚ということで、これにしました。トニーのライフタイムというと、一般的には第一作の"Emergnecy!" が取り上げられますが、あえてこちらを選んだ理由は、そのパーソネルにジャック・ブルースの名前があるからです。

ジャック・ブルースはクリーム結成前に英国のブルース、ジャズシーンで活躍していたアーティストですので、その経歴を知っている者にとっては、彼がジャズグループに参加したこと自体は驚くようなことではありません。ただ世間一般の認識でいえば、彼は史上最強のロック・トリオといわれたクリームのジャック・ブルースに他ならないでしょう。その彼が、これまたマイルススクールの優等生として当時飛ぶ鳥を落とす勢いのトニーのグループに加入したわけですから、これはジャズとロックの垣根を越えたスーパーグループの誕生、とも呼べる側面があります。

このようにジャズとロックのミュージシャンが混じるのは、他にもフランク・ザッパやジョニ・ミッチェル、スティングのグループなどが有名ですし、スティーリー・ダンの諸作に代表されるように、レコーディングのゲストとして参加した例まで含めるとそう珍しいことではありません。ただこのアルバムをそれらの例と同列に置いてみたときに、私は少なからず違和感を感じます。思うにこの違和感は、おそらくこのアルバムが、ジャズ・コンボにロック・ミュージシャンが参加したものであるという点に、その理由がある思います。

ジャズとロックが混じる場合、ロック側からアプローチされる際にはジャズ・ミュージシャンの演奏技術が必要とされ、逆にジャズ側がロックに求めるものは主に楽曲であることが一般的構図です。ジャズ側がロック・ミュージシャンを必要とするケースは少なく、ましてやパーマネントグループのメンバーになることなど、ほとんど無いと言っても良いでしょう。つまりこのアルバムはその希有な一例であり、しかもジャック・ブルースほどの有名なロック・ミュージシャンが加入した衝撃は、かなり大きいものではなかったでしょうか。この時、こんな前例のない人選によってトニーがロックに(ジャック・ブルースに)求めたもの、それは正直言って演奏技術ではなく、ロックが持つパワーとスピリットではなかったかと思います。そしてこの、ジャズがロックのパワーを得ようとした時代が、このサイトがとりあげる5年間を中心とした数年間なのです。

さてこの演奏は、前作 "Emergency!"の流れを汲む緊張感溢れたサウンドが展開されていますが、ベースが加わったことによって標準的なバンド編成になったため、前作よりも聴きやすい音になっています。各人が高い演奏技術を持っていながら、それをひけらかしてきっちり合わせていくようなことはせず、まさに奔放なパワーとパワーのぶつかり合い、という演奏が繰り広げられます。この演奏を形容するには、トニーがジャケットに記しているように、"Play It Very Very LOUD" が最も相応しい言葉でしょう。

ただ、ひとつだけ正直に言わせてもらえれば、やっぱりトニーのボーカルだけは勘弁してほしかったなぁ。(笑)

(2001.1.1 記)


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