Sly And The Family Stone

STAND! (1969)

  1. Stand!
  2. Don't Call Me Nigger, Whitey
  3. I Want to Take You Higher
  4. Somebody's Watching You
  5. Sing a Simple Song
  6. Everyday People
  7. Sex Machine
  8. You Can Make It If You Try

Personnel :

Sylvester "Sly Stone" Stewart:
Guitar, Keyboards, Vocals
Freddie Stewart: Guitar
Rose Stone: Piano, Vocals
Larry Graham: Bass, Vocals
Greg Errico: Drums
Jerry Martini: Saxophones
Cynthia Robinson: Trumpet

 

今回はスライ&ザ・ファミリーストーンの4作目、1969年発表の"STAND!"を取り上げます。一般的には、この次の "There's A Riot Goin' On" のほうが代表作として取り上げられており、もちろんどちらのアルバムも私は大好きなんですが、ここではあえてこちらを選んでおきましょう。やっぱり上げ潮の時のバンドは、出てくる音の勢いが違いますからね。ビートルズでたとえるなら、"Sgt.Peppers"より "Revolver"のほうが好きだ、というのと同じ論理です。

ロックとジャズの混交、イギリスとアメリカのコラボレーションと、この時代のキーワードはまさに「異種混合」そのものなんですが、スライ・ストーンの場合のそれは、ロックとファンクの融合です。それも、他のように同時多発的に多数の人がかかわって起こった現象と違い、この融合はスライ・ストーン個人、あるいはファミリー・ストーンというグループがほぼ単独で成し遂げたと評価されています。

実は、恥を忍んで告白しますけれども、私がこのアルバムを初めて聴いたのはほんの2年ほど前で、もちろんそれまで何度もスライの名前や名声は耳にしていたものの、実際に手にとって聴いてみるには至っていなかったのです。このサイトを立ち上げようと思いつき、さすがにスライを未聴というわけにはいかんだろう、と思ってやっと手にしたわけですが、「ロックとファンクを融合し、新たなスタイルを確立した革命的音楽家スライ・ストーン」といったキャッチフレーズのほうが先に頭に浮かぶ状況で聴いた第一印象は、あれ?こんなもん? なんか普通じゃん、というのが正直なところだったのです。

よく考えてみれば当たり前です。私はスライ以後の、スライに影響された音楽の方を先にさんざん耳にしていたわけですから。そういった音楽はスライの音楽にさらに手を加えて進化させていったものですので、発展系を聴いた後にオリジナルを聴けば、それは素朴でそっけなく感じられるのもある意味当然です。そうか、今からではもうスライの音楽は楽しめないのかな、ちょっと残念だなぁと思いながら、それでもしばらくの間聴き続けていると……。ある時から突然、じわじわと面白みが滲み出してきたんです。これはもう、どこがどうというように言葉で説明できるようなものではなく、とにかくイイ、素晴らしい。そしてそれから1ヶ月以上、毎日こればかり聴いておりました。

これがオリジナルの底力というものなのかもしれません。あの時代、スライの音楽が爆発的に支持された理由が、その頃の社会的な状況や流行という外回りの環境によるものではなく、スライの音楽まさにそのものの魅力によるものなんだということを体感させられたのです。こういう体験は久しぶり、いや本当に久しぶりだったのは、若い頃に浴びるように音楽を聴いていた頃と違って、つい上辺だけで流し聴きしてしまっていた最近の私に、音楽そのものの持つ力をあらためて感じさせたことでしょう。そういう意味では若い頃には気づくはずのない、初めての体験だったのかもしれません。

スライはこの後、ファンクの原典とも言われる名曲 "Thank You" を挟んで、71年に冒頭にも紹介した 5作目のアルバムを発表しましたが、その頃から徐々に下降線を下っていき、70年代末にはほとんど名前が出てこない存在になってしまいます。ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョップリンのように命を落としたわけではないにもかかわらず、事実上この奇跡の 5年間だけが活動期だったと言ってもほぼ差し支えないでしょう。ですがスライの音楽の持つ魅力は、それから 30年の年月が過ぎても輝きをまったく失わず、今でもしっかりと届くものなんだということを、強烈に思い知らされたわけです。

やっぱりこの時代は奇跡の年月だったんだと、意を強くした一件でありました。

(2001.6.22 記)


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