今回は、ディープ・パープルの最高傑作 "Live in Japan" を取り上げます。最近の若い人はどうだかわかりませんが、ある年齢以上の方ならば絶対に避けて通れなかったアルバムですよね。ディープ・パープルは1968年の結成以来、紆余曲折をへて現在にまで至るれっきとした現役バンドですが、今後発表される分も含めて全アルバムの頂点はこれだったと今から断言しても、まず間違いないでしょう。
作品として発表するフォーマットの主流が、60年代半ばあたりを境として徐々にシングルからアルバムへと変遷していくと、その長時間収録の特徴を活かして大作や長尺のライブ演奏を収めたアルバムも増えてきます。アドリブ主体のジャズだけでなく、特にこの頃はブルースやジャズの影響からかロックでも延々と続く即興演奏が脚光を浴びており、ライブに自信のあるバンドはそれをそのまま発表しようと画策するのは至極当然です。このアルバムもCD化によって1枚ものになりましたが、もともとのLPでは2枚組。各面2曲づつ、最後の "Space Truckin'"に至っては1曲しか収録されておらず、お小遣いの少ない中学生としては損したような気分になったものです。(それが今ではCDフルで2〜3曲とかいうのを喜んで聴いてるんですから、人間変われば変わるもんですね)
ライブ盤の醍醐味といえば、スタジオ盤では得られない一発勝負のパフォーマンスです。ジャズのアルバムではスタジオであっても一発録りというのは珍しくありませんが、それでもやはり観客を前にした演奏では失敗してもやり直しがきかない分、演奏にも気合いの入り方が違います。特に即興演奏を得意とするバンドのライブ盤は、演奏する度に同じ曲とは思えないほど変貌してしまうという他では代え難い愉しみがあるので、期待度は上がります。ただ、そこは一発勝負ですからミスをしないとは限りません。でも、そういうミスを単なるミスとしない、逆にミストーンをヒントにして次の展開へ持っていくというような演奏に出くわすと、この上ない快感を感じます。極端に言えばミスなどのハプニングが起きた時が、ライブで一番の聴き所だとも思うのですが。
ところが近年発表されるライブ盤と称するものには、そういったミスの部分を後日スタジオで録音し直して差し替えたという代物がほとんどになってきているようです。こういうのをライブ収録盤と呼ぶのは詐欺まがいなのではないかとも思いますが、イマドキのレコーディング作品は、デジタル技術の発達でトラック差し替えどころかピッチまで修正してしまうのが当たり前のようなので、差し替え程度で文句言ってたらキリがないみたいです。まったく録音技術の進歩も良し悪しだよなぁと思いますよね。
このあたり、まだ録音技術が進化途上だった1970年前後に発表されたライブ盤ではどうだったのか、私には正確なところはわかりません。カットしたり違う場所での演奏を繋ぎ合わせたりということはあるかもしれませんが、ミスパートを差し替えるというようなことはおそらく行われてなかったのではと推察はできますが、断定までは出来ません。でも、ことこの "Live in Japan"に関して言うならば、オーバーダブは一切行われていないと私はきっぱり断言してしまうのです。
その証拠となるのが 1993年に"21st Anniversary"としてリリースされた、3枚組のCDセット。"Live in Japan"というアルバムは、1972年8月15,16日の大阪城ホール及び8月17日の日本武道館における 3回のコンサートから、各曲のベストテイクを選び出したものなのですが、そのコンサート3回分のオリジナル録音をCD1枚ずつに収録するという、ファンには感激かつ涙ものの3枚組でした。
この3枚組に収められた全21曲のうち、ボツになった未発表テイクが16曲、残る5曲が本編に採用されたテイクなのですが、その演奏は各パート間のバランスに若干の違いを感じるものの、本編に収められたものと同じ、あの、"Strange Kind of Woman"でリッチー・ブラックモアがイアン・ギランの音取りを間違える部分まで、全く同一の演奏でありました。これが仮にオーバーダブが施されてたとしたら、ほとんど同じなのに一部だけ違うという演奏になっているはずですし、この3枚組セットはその主旨から言っても敢えてオーバーダブ前の方の演奏を収録するはずなので、演奏を丸ごと差し替えたとも考えにくいです。つまり、ここに収められている演奏が同一であると言うことは、元からこのまんまなんだと考えてほぼ間違いないと思います。
そういうわけで、これは一発録りなんだということを念頭に置いて改めてこのアルバム全編を聴き直してみると、ここに収録されたパフォーマンスが本当に奇跡的なものだということを痛感します。バンドのメンバー全員がお互いの演奏を聴き合い、触発しあって演奏のレベルをより高い次元に昇華していくような化学反応が随所に現れています。二度と取り戻すことの出来ない真剣勝負の貴重な瞬間を、このアルバムは見事に切り取って永遠に残してくれているのです。
加えて3枚組の完全版を聴くと、これが本当に奇跡的だったということがさらによくわかります。一般的に未発表テイクが公開されると本編と甲乙つけ難いという演奏が発掘されたりしますが、"Live in Japan"に関してはそれがほとんどないんですよ。ボツテイクはやっぱりボツ。明らかなミスを連発していたり、どこかちぐはぐで呼吸が合ってなかったりといった感じで、逆に本編に採用された7テイクのレベルの高さのほうが異常に突出していることがわかります。
ったく、"Smoke on the Water"のリフぐらい間違えずに弾けよなー > リッチー
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