FODOPOLIO
「描・写」:松井宏方/写真展 Photo after oil


「油絵の具で描く、そしてそれを写しとり、拡大する」
松井宏方の−FODOPOLIOという名の写真アート

 油絵の具で小さな画布上に「描く」、そしてそれを「写しとる」。その行為は蛇腹写真機(ビューカメラ)を使って、太陽光の下で行われる。さらに、それは10倍にも20倍にも「拡大される」。そのプロもスを経て、そこには何が見えてくるのか?それは、油彩の厚み、魂がつくり出す陰影であり、光の反映である。蛇腹写真機特有の性向と戯れるような繰作の中から、作者自身がお気に入りの映像の瞬間を選択し、定着する。
そこでは「絵の具が形に奉仕するのではなく、絵の具こそが主体となって平面の上で躍動している」。
 被写体の素材はカンヴァスと絵の具に限定し、「素材のミニマリズム」が光によってまるでランドのように焼き付けられる。プリントはタブローよりはるかに大きく拡大されることで、もとのスケールや意味は消失し、それ自体が「自立した新たなタブロー」へと姿を変える。
 松井宏方の製作プロセスを含めた作品群は、素材の限定、最小限の手法、直感的判断、モノ自体がもつ力の顕在化などの特敷からは、60年代後半にイタリアで興った芸術運動である「アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)」の影響も見えがくれする。
 カンヴァス作品であるタブローにおける制作者の視点と鑑賞者の視点、写真における撮影者の視点と鑑賞者の視点。これらを関係づけていた慣習を逆手にとり、捜査することによって生ずる一種のアイロニーでもあり、また製作プロセス自体を作品として意識化する契機をも与えてくれる。

FODOPOLIOについて
松井宏方

建築家としてイタリアと日本で建築設計に携わり、加えて日本では大学で教鞭をとる立場でもあり、常に建築の空間構成ということを興味の中心としてきた。現在のようなコンピュータ技術を駆使する設計以前の、限と脳と手先を駆使して二次元上に自分の意図を表現していく設計行為への強い思いが私をこのような表現行為へと駆り立てた。画布上の繰作、「描」の局面において、「写」の効果を予想しながら、その作業は姶まる。ここに意識的に時間と空間を思憔した建築的思考からくる計画行為の介入があるように思われる。
 この制作プロセスは言うなれば、‘photo after oil’、イタリア語では、‘foto dopo olio’である。私はこの手法を造語として‘FODOPOLIO’(フォドポリオ)と呼称したい。
 鹿児島の澄みわたる空気の中に放たれる強い太陽光線、ギラリと輝く積乱雲。
海老原喜之助、吉井淳二の両氏発案になる南日本美術展、その建築部門に発表の場を得た私。この鹿児島の自然環境と人文的環境が「描・写」の作意を即した。
有軽く思う。

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