おたく今昔

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おたくの俺が「おたくは自分のことをおたくと認めない」という法則を発見してから10年経った。大して親しくもない相手に「劇マク」だの「押井守」だのの話をするので「○○さんって、おたくなんですね」と言ったら必ず「いやぁ、僕はおたくじゃないよ。僕の友達にもっとすごいおたくがいるよ」などと非論理的なアンサーをぶちかますクソおたくが昔はゴロゴロいたもんだ。あれから10年、10年だ。そんなものがあるかどうかは別にして、「おたくシーン」も随分と変化した。

そのころはまだ宮崎勤の事件もなく、従っておたくという言葉もお茶の間レベルではなかった。事実上、おたくという言葉はおたくしか知らなかったのだ。しかも、当時からこの言葉は否定的なニュアンスを身にまとっていた。当時僕は田舎の高校生で、中森明夫による命名のいきさつなんかは知らなかったけど、それでもおたくという言葉はある種の「悪口」として使っていた。「おまえ、それじゃまるでおたくだよ」「やめろよー、そんなことないよー」。そんな会話をおたく同士で楽しんだもんだ。それは今でも基本的に変わらないようであるけど。

おたくも変わった。本当に変わった。その頃おたくをバカにする主な論点として、「ファッションがダサイ」とか「聞いてる音楽がダサイ」というのがあったけど、今はもう全っ然そんなことない。茶髪でロンゲでピアスして下唇の下んとこだけヒゲ伸ばしてるようなあんちゃんがニコニコして綾波のフィギア持ってたりする。アニメや特撮のサントラとかせいぜい頑張って谷山浩子しか聞かなかった奴等もちゃんとAVEX TRACS聞いてる。隔世の感がある。

つっても「スポーン」みたいなアメコミフィギアの「レア物」を「即GET!」したりとか、おたく御用達だったTMネットワークさんからコムロという偉大な「アーティスト」が化けて出たりで、むしろ世間の方がおたくに近づいてきたようでもある。おたくであることが昔ほど恥ずかしくはなくなっているようだ。「一億総おたく」とか頭の悪いことは言いたかないが、そう言いたくなる奴の気持ちもよくわかる。今まで抑圧されていた分、少しばかりでも認められることはとても嬉しいことだし、そんな風に感じてもおかしくはない状況というのも確かに存在するからなぁ。

で、基本的に俺のスタンスなんだけど、「いじめられてる方がよかった、というか楽。」だな。おたくっておたくのことを嫌悪しがちだよね。それは自己嫌悪というか近親憎悪なんだろうけど。そんでマイノリティであることを都合よくエリート意識にすりかえて変に一般人を見下しちゃったり。そうやっておたく同士で小さなコミュニティ形成しつつ他人を小馬鹿にして楽しく知識ひけらかしあって生きてくの。

や、本当ダメな奴等だけどなんつーかそこに愛着が湧くっつーかさ。あーもう、なんかどんどんわかんなくなって来ちゃった。要するにおたくはそーいう気質を持ってて、俺もそんなおたくの一人で、でもそういうおたくの気質が大嫌いで、でもそういうおたくコミュニティでおたく談義するのがやっぱり楽しくて、あーもう、本当「生まれてきてすいません」て感じだ、どーすんだよ。やさしく許すしかないよな、自分も含めて。すいません、もうちょっと考え直してまた来ます。


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