新作ストーンズ落語
「思うようにはいうにいわれず2001」

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(お囃子)テケテンテンテンテンテンテンツクテンツク………………

えー、言葉というのは便利なものですが、万能ではありませんな。「君が好きだ」と1000回言うよりも

たった一度のキスが全てを語ってしまう、なんてこともございます。ございますけれども

こういう時はたいがい「語った方」も「語られた方」も、お互い自分に都合いいように

解釈しちゃってたりなんかしましてですね……後々また話をややこしくしたりするもんでございます。

「あんたあん時キスしてくれたじゃないの!!」

「だからアレはさあ、そういう意味じゃなくって……」

「きーーーーーっっっっ!!!!」

なんてコトにもなりかねません。

まあ我々はみんな一人では生きていけないもんでして、誰かが隣にいる以上、

好きだのキライだの「仕事しろ」だの「ブッ殺す」だの、いろんなことを伝えにゃならん訳です。

それは我々に限らず、おなじみストーンズの面々も事情は同じようでして…………


「ハーイダリル、ちょうどいいところにあった。こないだ仕入れた新しいジョークがあるんだ。

ちょっと笑っていきなよ」

「………………(まためんどくせえのにひっかかったな、と思ってる)」

「僕の大好きなてんぷらうどんの国、ジャパンのオリエンタル・ラクゴ・ジョークさ。

『思うようにはいうにいわれず』っていうんだけどね」

「あんまり面白くなさそうですね」

「(ひるまずに)娘とその両親の3人家族がいてね。彼らはオミヤゲ・プレゼントでもらった

ボタモチ・ライスケークをぱくぱく食べていたんだ。ところがどうしたことか、最後にひとつだけ

余ってしまった。そりゃ誰だって欲しいよね。そこで3人はタンカ・ソングのコンテストをやって、

一番いいタンカ・ソングを詠んだものがそのボタモチを食べていい、ってことにしたのさ」

「たかがボタモチごときで、最低の家族ですね」

「(無視して)そこでファーザーが、『おもうようにはいうにいわれず』ってアンダー・シモノクを

詠んだのさ。これに合わせて、ナイスなアッパー・カミノクを詠まなきゃいけないって訳」

「アンダー・シモノクって、言葉カブってますよ」

「最初に詠んだのは娘だった。ダリルにはジャパンのオリエンタル・タンカはわからないだろうから

要約するけど『恋人が訪ねてくる前に、身なりを整えようとするけれども、恋心が邪魔をして、

髪を思うようは結うに結われず』って歌を詠んだのさ」

「なかなかいい歌ですね」

「次に詠んだのはファーザーだった。彼は『旅先で故郷はどんなところかと尋ねられても、

様々な想いが去来して、思うようには言うに言われず』って歌を詠んだのさ」

「それも悪くないですね」

「さあ残ったのは母親だ。焦れば焦るほどいい歌が浮かばない。このままではボタモチは

食われてしまう。そこで彼女はボタモチをひっつかみ、自分の口の中に放り込むと、こう詠んだんだ。

『このように 口いっぱいに 頬張れば 思うようには 言うに言われず』ってね。そしてそのまま

もぐもぐ食べちまった、という訳さ」

「…………………………」

ハッハッハッハッハ! どうだい最高だろう、ダリル!?」

「うるせえな、そこでバカ笑いしてるのは誰だ!」

「あっキースさん、おはようございます」

「おはようございますおはようございます!!(米つきバッタ)」

「廊下でバカ笑いしてたのはこの鼻デカ男か、ダリル?」

「いや違うんですよキースさん、僕が新しいジャパニーズ・オリエンタル・ラクゴ・ジョークを

披露してたんです」

(ロニー、同じ話をする)

「ね、面白いでしょう!?」

「そういやロニー、こないだもらったギターはなかなかいい音だったよ」

「え!? いやそりゃあれは僕が2000ドル出して買ったギターですから。ところでさっきの

僕のジョークは……」

「じゃ、俺はこの辺で。雑誌のインタビューが入ってるんだ」

「ここんとこ多いですね、キースさん!?」

「まったくどいつもこいつもくだらねえ質問ばかりしやがる。『90年代のストーンズの総括』とか

『21世紀のストーンズは?』とかな。判で押したように同じモンばっかりだ」

「めんどくさいスね」

「21世紀のストーンズったって、なにも変わらねえよ。今年と来年で、なにかがコロッと

変わるわけないだろう」

「そうですよねそうですよね、あと2年も先の話してもしょうがないですよね」

「……なにを寝ぼけているんだ、ロニー!?」

「え、何がですか? だって今1999年になったばかりなんだから、21世紀までは実質あと

2年近くあるじゃないですか」

「数の勘定もできねえのか、この鳥頭は。今年が1999年だったら、来年は何年だ、ああ!?」

「……2000年です。ですから21世紀は」

「来年ってコトだろうが。デけえ頭して中身はカラッポか、ああ!?」

「なんの話をしてるんだい、ボーイズ!?」

「あっミックさん、おはようございます」

「おはようミック」

「おはようございますおはようございますおはようございます!!(米つきバッタ)」

「なんの話をしていたんだ?」

「いや、21世紀は西暦何年から始まるか、という話なんですけど……」

「そりゃ2001年に決まっている。西暦はイエスが生まれた年を西暦1年として勘定しているからな。

したがって西暦1年から西暦100年までが1世紀、西暦101年からが2世紀という訳だ。

これでいくと21世紀は2001年からになる」

「…………………………」

「もっとも現在の歴史学では、キリストが生まれたのは西暦1年ではない、というのが定説だ。

イエスの生誕年についての研究はかなり早い段階から行われていて、それが西暦1年でないことは

とっくにわかってはいたんだけれども、当時採用されていたグレゴリウス暦がすでに広く普及していた

ことから、あえて修正されなかったんだよ。グレゴリウス暦の前身はユリウス暦、つまり

古代ローマの政治家ジュリアス(ユリウス)・シーザーが制定したものだが、さらにその起源を

辿ると古代エジプトで採用されていた太陽暦に行き着くようだ。いずれにせよ、これは歴史学以前の

純粋に数学的な問題だよ。単純な算数といってもいい。ロンケー大(ロンドン経済大学)卒の

俺じゃなくても、それこそ子供でもわかる話だよ。どこのどいつだ、そんなマヌケなこと

ヌかしているのは?」

「……ロニーだよ」

ええっ!?!?!?

「ローーーニーーーィ、頼むからもーう少し大人になってくれないか。

ストーンズとしての自覚を持てと口を酸っぱくして言ってるだろう。」

「いやだってそれはキースさんが、いやミックさん!? 21世紀? キースさんミックさん!?」

「ほらロニーさん、泡吹かないで」

「ダリル!? ダリルならわかるよね、ねえわかるでしょ!? ねえちゃんと言ってよ」

「もういいじゃないスか、もう」

「だって俺ミックさんに怒られて、でもほんとはキースさんいや僕が悪い? 僕のせい?」

「じゃあなロニー、また後で」

「そういやキース、こないだ話してたアレだけど」

「うんうん」

(二人、立ち去る)

「じゃあロニーさん、僕も忙しいんでこれで」

(ダリル、立ち去る。遠くから)

「鼻血出てますよー!」

「……………………………………」

(ロニー、拭こうともしない。まだ口をパクパクさせている)

 

ストーンズ 入ってずいぶん 経つけれど 思うようには 言うに言われず


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