【キュージュ・リリ編】

 「さむいねぇ」
 いっこうに弱まる気配のない雨足。濡れて額に張り付いた髪の毛
を恨めしそうにかき上げてリリはつぶやく。
 「そうだなだいぶ体温も奪われてしまった。だいじょうぶか?」
 「そっちは厚着でうらやましい」
 力ではなく技とスピードで戦うため、動き安さを重視したリリと
比べて、たしかにキュージュの服は厚着だった。
 どこか道化じみた服装はフォース、そのなかでも特にニューマン
達に半ば義務づけられた服装である。何一つの武装をせずに、やす
やすと人を壊すほどの力に対する恐怖が生んだ差別。
 こいつにはそんなことお構いなしだろうな。キュージュは思いな
がら上着を脱ぐ。
 「敵も減っただろうし、使っておけ」
 リリは嬉しげに頷くと早速袖を通す。
 「へぇ、キュージュってほんとにがたいいいねぇ。この上着おっきぃ」

 だぶだぶの黄色の刺繍で飾られた青い上着を着たままくるりと回
ってリリは感心する。
 「炎が使えない分、体を鍛えていたからな」
 苦笑するキュージュの顔を見つめてリリは思い出す。
 キュージュは炎を恐れる。幼い頃のトラウマが彼の中で未だくす
ぶっていて、それが自らのテクニックで操る炎すら拒絶させるのだ。
 「まだ、苦手?」
 遠慮がちに聞くリリにキュージュは困った顔をした。実際やはり
炎を操ることは、いまだに体が拒否を示す。
 「そうだな。だが、前ほど無意味に恐れることはなくなったかも
しれない。自分では使えずとも、立ち向かうことはできるよ」
 「そっか。よかったね!」
 何気ない笑顔でリリは言う。屈託のない笑顔。同情だとか、道徳
だとか、そういうのとは別に、ただ嬉しいから見せる笑顔。それが
愛しくて、そして大切でキュージュは言葉を失う。
 「リリ達のおかげだ。感謝している」
 「えへへ」
 絞り出した言葉にリリが照れ笑いを浮かべる。少し先に進み、先
へ行こうと促すリリ。
 「ずっと感謝している・・・ また、守りたい大切なものが俺に
は出来たんだから・・・」
 「ん? なんていったの?」
 「なんでもないよ」
 駆け戻ってきて訪ねるリリの頭にぽんと手をおいて、キュージュ
は微笑んだ。


合流するサクラ・フローラ編