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 【チキンハート・メタルビート】

 ハンターズには休息がない。
 移民先ラグオルはすべてが謎に包まれ、また徹底管理されている
はずの移民船パイオニア2は7年の年月の間に、混沌を内包した。
 だから、謎な物には謎な者達を、混沌には混沌とした人種をぶつ
けるのが常套手段というものだろう。
 くりかえすが、ハンターズに休息なんてありはしない。

 フォニュエールのエンジェルが受けた通信はきっちりと依頼だった。
 場所はギルドではない。たまたま他のハンターズと立ち話をして
いたら、全く突然依頼が転送されてきたのだ。
 赤と白のリボンを揺らしてエンジェルはナギの方をみる。新人で
ある彼女にとってフォニュームのナギは頼れる先輩なのだ。
 「ラケルからか。断ると後が怖そうだな」
 ナギは柔和な顔立ちに苦笑いを浮かべる。
 「ナギさんに手伝ってもらえって通信にもありますの。不安だっ
たら、メンバーもつどえってありますのよ」
 照れ笑いを浮かべながらエンジェルは言う。
 「じゃあ、ついでということでいかがです?」
 ナギはそこにいた、アンドロイドとフォニュームに声をかけた。

 仕事はとある企業の施設の暴走事故停止だった。
 もちろんここでその企業の名を知らされることはない。ハンター
ズには知る権利すら適用されない。だが、代わりに彼らには彼らの
権利が存在する。
 「なにやってるんですか?」
 最初の部屋を制圧してあたりを調べていたウォンにナギが声をか
ける。
 フォニュームのウォンは突然かけられた声にびくりとして振り返
ると、愛想笑いを浮かべた。手に警備ロボのチップを握り込みながら。
 「なるほど、副業ですか」
 不思議そうな顔をするエンジェルと、意味を悟ってちょっぴりど
きどきしているアンドロイドのロボ-9の視線にウォンはなんだか居
心地が悪そうだ。
 「まあ、僕は気にしませんがね」
 ナギはその一言で場を和ませる。
 「さあ、まだ序盤です。進みましょう」
 「はいですのー!」
 エンジェルは素直にうなずくとさっきのことを、ころっと忘れた
ように元気に走り出す。
 それに続きながらロボ-9は(倒れて部品を拾われないように戦う
なりよ!)と、密かに決意していた。

 施設の規模が大きいがために暴走したロボット達の数もかなりの
ものである。
 新人の域を出ていないエンジェルと、性能に疑問の残るロボ-9を
サポートするウォンとナギ達の疲労は少しづつ蓄積していく。
 「浮遊監視機に、凡庸ガーディアン、そして今度は中機動型か!」
 ウォンは床に落ちた二つの影に気づいて天井を見上げる。
 同時にブルーとゴールドでカラーリングされた中型のロボットが
くるりと身を翻して、フロアに着地する。
 「はやいですよ!」
 ナギが注意を促しながら牽制に一条の紫電を放つ。
 それを二機の中型機は素早く飛びすさってかわすと、両腕のブレ
ードを解き放ち大きく跳躍する。
 「やーですのー!!」
 「ちっ。このぉ!!」
 自分の頭上を大きく飛び越しその先のエンジェルへと襲いかかる
ブルーの機体にウォンは銃口をすばやく向ける。
 一発、二発、フォトンの弾丸がブルーの装甲をかすめて、工場の
壁をうがつ。
 (こいつで決まってくれ・・・)
 エンジェルに迫る凶刃の光に半ば魅せられるように、ひどく落ち
着いた気持ちで祈りを込めた弾丸は、それが当然であるかのように
エンジェルに届く寸前のブレードを叩き折る。
 ドシュンッ!!
 今一度、ナギが稲妻を放ち、着地と同時にブルーの機体は崩れ落
ちる。だが助かったはずのエンジェルは焦った様子でわたわたとナ
ギ達の後ろを指さす。
 「あ、あぶないですのー!」
 「こ、こいつ堅いなり!」
 もう一機の中型機にマシンガンをたたき込みながらロボ-9は叫ぶ。
確かにゴールドの機体は火花を散らしながらもフォトンの弾丸の嵐
の中を進んでいく。
 「ロボさんがあぶないですのー。はやくはやく!」
 「おちついて。ウォンさん足を!」
 分かったという返事の代わりにウォンは素早くゴールドの機体の
足を打ち抜く。
 「さあ、エンジェル。君も」
 ナギの言おうとしたことを悟って、エンジェルはうなずくとバト
ンを構え精神を一つの領域へと導く。テクニックと呼ばれる技術。
ナギが放った紫電。敵の影と刃の光。四方の工場の壁。それらのイ
メージが無形のモノへと混ざり合い力に、電撃に変わる。
 「それでいいのです」
 ナギとエンジェルの電撃が同時にゴールドの機体を駆けめぐり、
詰め込まれた電子部品を破壊していく。
 「助かったなり。もうちょっとで連射の反動でボルトが抜けると
ころだったなり」
 目の前で活動を停止した中型機を確認して、ロボ-9は構えた両手
のマシンガンの銃口をやっとおろせたことに安堵する。
 「何だ、ボルトがどうしたんだって?」
 耳ざとく聞きつけたウォンがロボ-9の背中に回る。わたわたと慌
てるロボ-9の後ろに、ウォンをはじめナギやエンジェルも集まって
くる。
 「なるほど、こいつだな」
 ウォンは慣れた手つきでポケットから簡単な工具を取り出すと、
素早くロボ-9のボルトを絞め始める。
 「手慣れたものですね」
 ナギが感心するとエンジェルもうんうんと頷いている。
 「やめろよ。そんな大層なものじゃないって」
 「そんなことないなりよ。熟練なりね」
 謙遜するウォンをロボ-9は否定する。
 (バラされるんじゃないかと心配したけど、失礼だったなりねぇ)
 そんなふうにウォンに謝りながらロボ-9はボルトの調子を確かめ
る。バランスも全く問題ないことにロボ-9は満足する。
 「なんならついでにホバーでもつけて空を飛んでみるか。パーツ
ならあるぜ」
 「それは素敵ですのー」
 ウォンの言葉にエンジェルが瞳を輝かせるが、当の本人は慌てて
首を横に振った。
 「だめなりよー。あんまり改造されたら誰に造られたかがわから
なくなるなり」
 「おまえ、自分の制作者がわからないのか?」
 びっくりしたように問うウォンにロボ-9はうなずく。
 「それじゃあ、下手にいじれないな。手がかりがなくなるかもし
れないし」
 「そうなり。だからかんべんなり」
 「わかるといいですね。ロボさんを造った人」
 エンジェルがほんの少し寂しげに笑顔を向ける。そんなふうに打
ち解けていく仲間を見守っていたナギは笑顔を浮かべて皆を先へと
促す。
 「しかし、俺らしくない雰囲気だぜ。こんな馴れ合い・・・」
 「お嫌ですか? 僕は似合うと思いますが。エンジェル達へのフ
ォローも的確ですし」
 最後尾に位置したウォンの無意識のつぶやきにナギが問う。
 「ガラじゃないぜ。フォローしてるのも、自分のためだ。目の前
に人に死なれるのが嫌いなだけだ。俺の知らないところでのたれ死
んだって、気にはしないぜ。第一そんなんじゃ裏道の人生はやって
いけねぇ。それに俺は臆病者なんだからな」
 「では足を洗ってみるのもいいのではないですか?」
 ナギの言葉にウォンは複雑な表情を浮かべる。
 「ち、だいたいこんな話をしてるのが変なんだ」
 ウォンはそのまま、黙り込んでしまった。だが、ナギは何も言わ
ずに前を進む二人へと視線を戻した。ウォンに並んだままで。


 施設の奥にあったのは転送装置だった。
 暴走の原因を突き止めるために、その先に向かった四人を迎えた
のは、明らかにただの暴走事故とは思えない状態の施設だった。年
月と、熱と、衝撃によって朽ちかけた壁や床に、かろうじて残った
電力ケーブルが光を投げかけている様は、今までの近代的な施設と
ほど遠かった。
 そして警備のために配置されたはずのロボット達は、明らかにそ
の目的を逸脱した凶悪な悪意を刷り込まれた殺人機としてナギ達に
襲いかかっていた。
 「無事ですか皆さん!?」
 ナギの叫びと共に今まで闇に覆われていたフロアの天井にライト
が灯っていく。その淡い光に照らされて凄惨な戦場は色彩を取り戻す。
 古びてひび割れたフロアにはロボット達の装甲の破片や青白い火
花を散らす電子部品が散乱し、壁と言わず天井と言わず、そこかし
こに血痕のようにオイルが飛び散っている。
 「何とか大丈夫だぜ。明かりが点かなきゃやばかったけどな」
 フロアの奥、おそらく配電室か何かから顔を出しているナギを見
つけてウォンはわずかに緊張を緩める。
 ィィィィィィン・・・・
 瞬間、甲高い音が響く。無かったはずの質量がフロアの濁った空
気を押し流す。
 「そんな、この大きさ・・・ またですの!」
 額に張り付いた血をこすりながら華奢な少女であるエンジェルは、
しばらく前に出会った巨大なグリーンの殲滅戦用多重ミサイル搭載
機を思い出す。
 「またあの、人殺しの道具ですの。そんなのやぁですのぉ・・・」
 甲高い転送装置の音が消えて、代わりに無数の機械音が混ざり合
った大音響が、獣の威嚇のように吠える。エンジェル達の前後で同
時に。
 「これはまずいですよ! 二体も出てくるなんてっ」
 ナギは走り出した。自分のいる場所は戦場から一番遠い。二体の
巨大な鉄の塊は獲物を見つけてあぎとを開く。その奥には無数の小
型追尾ミサイルが、獣の牙のごとく並んでいる。
 「やらせないなりよ。人殺しなんて!」
 ロボ-9は両手のマシンガンの出力を最大にして撃ちまくるが、分
厚い装甲がそれを阻む。多重金属の装甲が着弾の衝撃でひしゃげ、
砕かれ、ばらまかれても、グリーンの装甲の奥に眠る中枢には届か
ない。
 牙はちょうど二体の中心にいたエンジェルに向かって放たれる。
ハンターズとしての知識より、生物としての本能が、エンジェルの
左腕に装着された防衛装置を作動させる。だがそれは、まるで紙の
ように薄く脆い抵抗でしかない。
 「ばかやろ! そんなところで!!」
 自分に向かってきたミサイルを凍りづけにしたウォンは、すぐさ
ま身を翻す。なにか考えるよりも先に動いてしまっていた。テクニ
ックを使うには時間が足りない。ミサイルの第二射はすでに発射さ
れている。
 ナギにはウォンがエンジェルの元に飛び込むのと、第二射がその
二人に直撃したのはまったくの同時に見えた。
 「「とまれーー!」」
 ナギとロボ-9の叫びが同時に響く。突き出したナギの両腕からは、
電撃が続けざまに放たれ途切れることなく装甲を通り抜け内部を焼
き切り、ロボ-9のマシンガンは限界を超え火花を散らしながらフォ
トンを放ち、ついには装甲を叩き割り中枢部に雨のように降り注ぐ。
 同時に二体の巨大な鉄の塊は停止し、辺りに瞬間の沈黙がおとず
れる。
 「似合わねぇ・・・ ほんとに似合わねぇぜ。ほらみろ、手の震
えがとまっらねぇ。心臓が今にも止まっちまいそうだ・・・」
 ウォンは気を失ったエンジェルを片腕で抱き留め、焼けこげ炭化
した黒と、皮膚を破りしたたり落ちる血でまだらになった自分の左
腕を、シールドがあったはずの左腕をうつろな瞳で見つめてつぶやく。
 「何でこんなことやってんだよ俺は・・・」
 治療のために目の前にしゃがみ込んだナギに問うているのかすら
わからないその言葉に、ナギは自分の行動を悔いる。先行するべき
ではなかったと。だが、その後悔を贖罪として心に封じ、言葉を返す。
 「それも、あなたに似合う一つの姿だからと、僕は思いますよ」
 淡い緑の光がナギの手から放たれゆっくりとウォンの左腕を包ん
でいく。それを見守りながらウォンもまた意識を失う。
 (ゆるせないなりよ・・・ こんなこと、こんなことをさせるた
めだけに生み出されたなんて)
 仲間の顔を、煤と血とで汚れたその顔と辺りに散らばる無数の部
品をアイレンズに映し込んで、ロボ-9は怒りを感じる。形容のしよ
うのない、押し寄せるなにかを封じてロボ-9は無言でマシンガンの
パーツを交換する。
 (こんなこと・・・ するために生まれたら・・・ あいつら壊
れることしか望めないなりよ・・・)
 金属でできた自分の指が、金属でできた武器を操り、金属で創ら
れた兵器を壊す。その矛盾にわずかに手が止まった時に、エンジェ
ルの声が聞こえた。
 「また、足手まといになってしまったんですの・・・?」
 震える声は傍らに眠るウォンに気づいたからなのだろう。なにが
あったのか、はっきりしだした意識と共に、記憶も鮮明になっていく。
 「そういう風に言うものではありませんよ。誰だって最初から完
璧ではいられません。いえ、誰だって、完璧になどなれはしないん
ですよ」
 ナギは今にも泣きそうなその後輩に優しく微笑む。
 「でも、でも! 私のせいで」
 「おまえなんて関係ない。回避しようとしたら、思ってた以上に
焦ってて、ぶつかっちまったんだ」
 顔を覆って泣こうとしたエンジェルの手を掴まえて、むくりと体
を起こしたウォンは言い放つ。
 「大丈夫なりか」
 立ち上がろうとするウォンを心配してのぞきこむロボ-9を、逆に
じっと見つめてウォンは問う。
 「そっちこそ、顔色が悪いぜ」
 ロボ-9がきょとんとするとウォンは苦笑する。
 「気にするな。そう見えたってだけの話だ」
 完全に立ち上がろうとして、膝に思いのほか力が入らずにエンジ
ェルとロボ-9に支えられる。
 「もう少し休んでいきましょう。体力の回復と、心の整理をしな
いとね。僕を含めて」
 ナギは言うと静かに腰を下ろした。


 施設の最深部。そこにあったのは巨大な転送装置だった。
 「檻ってわけだな」
 その巨大な転送装置に手製の機械を向けて、ウォンは言う。
 「檻ですの?」
 「ああ。強力な電磁波がもれてきてる。この先には、今まで以上
の兵器が閉じ込められてるんだろうぜ」
 ウォンはあたりをゆっくりと見回した。
 「それもかなり前からな。警備のロボットがおかしいのも、漏れ
出した電磁波のせいだったんだろうし、ここの施設がボロボロなの
は年月がたっているってことだろう」
 「手におえなくなって、闇に葬ったつもりがまだ生きていた。そ
れで、ハンターズに後始末をまわしたわけですかね」
 ナギはそっとつぶやく。
 「そんな。ひどいなりよ」
 「かわいそうですの・・・」
 ロボ-9とエンジェルが二人の話に耐えられないというように言う。
 「どうする? この先は危険だぜ。今まで以上の大物が待ってる
はずだ」
 ウォンの問いにロボ-9がすぐさま答える。
 「とめるなりよ。きっとそう望んでるはずなり」
 「わたしもがんばるですの! 悪い子ちゃんのままじゃ、かわい
そうですの!!」
 ぐっと胸の前で両こぶしを握り締めエンジェルが転送装置を見つ
める。その二人を見つめてナギもつぶやく。
 「後には引けないですしね」
 ウォンはだろうなと苦笑いを浮かべる。
 「俺はおりるぜ・・・」
 エンジェルが泣きそうな顔でウォンを見つめる。ウォンは視線を
そらすように下を向く。
 当然かもしれない。そうロボ-9は思う。金属のボディに秘められ
た言葉を発せないモノの叫びは、鼓動は、いかにそれに関する技術
を持とうとも、わからないのかも知れない。
 「それも構いませんね」
 ナギの言葉にエンジェルの瞳に涙が溜まる。仕方ないことかもし
れない。でも、裏切られたような寂しさが、心に忍び寄る。
 「でも、あなたはそうは言えないでしょう?」
 「ち、なんでわかるんだかなぁ・・・」
 ウォンはいまいましげにナギへと視線を向ける。その先でナギは
静かに微笑む。
 「あ、ありがとですのー!」
 「うれしいなりよ」
 駆け寄ってきたエンジェルに手を握られ、ロボ-9からは深々と一
礼を受けて、ウォンは天井を見上げる。
 「ち、まったくらしくねぇ。らしくねぇよなぁ」
 ウォンは口元に小さな笑みを浮かべて、そうぼやいた。


 白衣の男が、デスクに座ったスーツの男にディスクを手渡す。
 「メインカメラは少々揺れていますが、対象のデータ取得に問題
はありません。施設内の設置カメラも合わせておりますので」
 白髪交じりの神経質そうな白衣の男の声で、デスクの男は顔を上
げる。
 「ニューマンが三人。それにアンドロイド・・・ 戦力としては
まあまあだな。ボルオプトタイプの撃破時間は?」
 「23分12秒ですな。商品としてはまあまあといったところですか」
 白衣の男の答えにスーツの男はしばし考えを巡らせる。
 「まあ、今回の獲物はまだ泳がせておこう。最近軍以外にもかぎ
回ってるやつらが多い。ハンターズにはしばらく偽依頼で、我々組
織の仕事をやらせておけばいい」
 「それもよいですな。まったくもってやつらほど便利な存在もあ
りませんな」
 白衣の男はくつくつと押し殺した笑いを漏らす。
 デスクの上の無機質なディスクには一人の少女と二人の青年の写
真が、クリップで無造作に留められていた・・・。




<注釈>
★一言 この前あそんだなりきりプレイを多少改造してつくったSSです。なんか最後になぞの組織とか出てますが気にしないでください(笑)単に趣味ですから。
 で、例によって無許可ですので出演者の方、修正をお申し出ください。問題がなければ、RPする? のほうに投稿しますので。

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