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 【白きキャンバス・ロボの受難】

 

パイオニア2の市街を一人トボトボと歩く、シンプルに真っ白な
ボディカラーの、高性能レイキャストであるchance−8(通
称エイト)は、最近あることで悩み、疲れ果てていた。
その悩みとは・・・
カキカキ、キュッキュッ♪
ここ最近おなじみになり過ぎた、背中を走る嫌な感触に、
「うがぁっ!!またですか?!もう止めてくださいっ!!」
エイトが急いで振り向くと、物凄いスピードで逃げていく紫の影
が、遠く彼方に消え去っていくところだった。
そしてエイトの背中には、太陽だの花だのラッピーだのといった
稚拙な絵が、色鮮やかに残されていた・・・。

       ※

事の始まりは、知り合いのフォーマル、ファーンからの頼みで、
高価に売れる「竜の牙」を手に入れる為にラグオルの森へとおもむ
いたことに端を発していた。
詳しい事情は、ファーン本人の名誉にも関わる事なので省略する
が、その時他にファーンの友人であるスイという心優しきフォーマ
ルも一緒で、メンバーがその3人だけならば、エイトの悩みは始ま
らなかっただろう。
後から、なんにでも首を突っ込みたがる、性悪お子様フォニュエ
ールとして有名なミウが、チームに割り込んで来たが為に全ては始
まった。
エイトはその時、ある故障から、事故診断、修復モードに入り、
身動きも取れず、外部センサーも働かない状態になった時があった。
その時に、あの恐ろしい悪戯書きの最初の被害にあったのだった。
しかもその時はミウだけでなく、事もあろうかその件の依頼者で
あるファーンまでもが加わってのものだった。
当然エイトはその事で怒り、当事者たちを捕まえてこっぴどく叱
った。それに加え、友人であるスイの説教とお叱りも効いたのか、
ファーンの方はちゃんとその件で謝罪してくれたのだが、問題は、
事を起こした張本人であるミウのほうだった。
叱られても、まるで平気な顔で、
「真っ白で広いキャンバスが目の前にあって、自分が描くもの(ペ
ン)を持っていたら、誰だってそこに何か描きたくなる。それが、
「にんげんしんり」ってものじゃない?」
などと生意気にもへ理屈をこねて開き直り、頭をちょっとでも下
げようとはしなかったのだ。おまけにそれ以来、なにが気に入った
のか、連日のようにエイトのところに忍びより、悪戯書きを繰り返
すようになってしまったのだった。

       ※   

「・・・という訳なんです。なんとかしてください!ゼファ隊長!
!」
エイトはそう怒鳴って、RPハンターズのまとめ役である中年レ
イマーのゼファに詰め寄った。
ここは、パイオニア2の、とある喫茶店のカフェテラス。
「なんとかしてくれ、って言われてもなあ・・・」
ゼファは、困惑気味に、目の前の白いレイキャストの姿から目を
そらす。ミウ絡みの厄介事は、正直聞き飽きていた。
「あの悪戯娘に、隊長のほうからきつく注意してください!でない
と私は、夜もおちおちスリープ・モードに入れません・・・」

エイトに「泣く」という機能があれば、彼は確実に泣いていただ
ろう。それくらいにせっぱ詰まっていた。
「だがなあ、エイト。最初のはともかくとしてだな、その後のは全
部、パイオニア2での出来事なんだろ?するとそれは、仕事上の事
ではなく、プライベートでの話になる。俺もさすがに、そこまで口
出しする訳にはいかんぞ?」
「た、確かに、理屈ではそうですが・・・」
ゼファの正論にひるむエイト。
「子供のする事だと思って、我慢してやれよ。どうせあの飽きっぽ
いミウの事だ。そのうちに他の遊びでも見つけるだろうよ」
「その間、私は泣き寝入りですか?」
それに、その「飽き」がいつ来ると、誰が保証してくれるのか、
とエイトは内心考える。
だがエイトは話に夢中になり、それに気を取られる余り、自分に
今現在起きている事に気付いてはいなかった。
(カキカキカキ)
「まあ、そう言うな。落書きぐらい、洗って流せば済むだろう?そ
りゃあ、多少は手間かもしれんが・・・」
「多少どころではありません・・・」
(カキカキ、ちょんちょん、ゴシゴシ)
「ミウの使っているペンは、じゃっくさんから貰った特別性のもの
だそうで、洗っても擦っても落ちないんですよ!だから私は落書き
されるたびにわざわざ整備工場まで行って、特殊な薬品を使ったり
研摩したりして、ようやく落としているんです。その費用だって、
決して安くはないんです!」
「そ、そうか。どうりで、背中のほうが妙に輝いてるわけだ」
ゼファは思わず吹き出してしまった。
(カキカキ、塗り塗り)
「笑い事でありません!このままだと、私は背後の装甲だけ極度に
貧弱な、大きな弱点を抱えたキャストになってしまいます」
「う〜〜ん。だったらどうだ?いっそのことボディを黒く塗り替え
るってのは。白いキャンバスみたいだから描きたくなるってんなら
、それでミウも書く気を起こさなくなるんじゃないのか?」
「それでミウは今度は、黒板みたいだって言って、白いペンで落書
きするのでは?」
エイトの指摘は極めて正しい。ミウとはそういうひねくれ者だっ
た。ゼファは絶句するしかない。
二人とも、密かに進行中の事にはまるで気付いていない。
(カキカキ)
「増してや私は、この白いボディカラーが気に入っています。塗り
替えたくなどありません!
それに問題は、今やミウ一人の事ではないんです。あの悪戯好き
がなにを吹聴したのか知りませんが、私はギルドのロビーで伝言板
扱いされて、他の大勢のハンターズにまで書き込まれそうになった
んですよ?」
その件ついてはゼファの耳にも届いていたし、他のハンターズか
ら前もって事情も聞いてあった。
それによると、なんでもミウが、「エイトは今お金に困っていて、
ギルドから伝言板として使用してもらうアルバイトを引き受けた。
しかもそれは、書き込まれた件数が多い程たくさんの給料が出る歩
合制なので、みんなに協力して欲しい」とわざわざ頼んできたそう
なのだ。
だがその情報をエイトに明かして、これ以上エイトの怒りをあお
る事もない、とゼファは判断して初めてその事を聞いたような顔を
しながらトボケた。
「そいつは確かに度が過ぎるなぁ」
「でしょう?ですから・・・」
なにかを言いかけたエイトの口が止まった。それは、ゼファがエ
イトの後ろのほうを見て、急に驚愕の表情を浮かべたからだ。
と同時に、毎度おなじみのあの感覚が、少し前からエイトの背中
に「複数」生じていたのだが、話に夢中になっていたエイトは、こ
こで初めてそのことに気が付いたのだった。
「だぁ〜〜〜っ!!性懲りもなくまたですか?!いったいなにを考
えて・・・」
勢い良く椅子から立ち上がり、後ろを振り向いたエイトはそこで
言葉を止めた。
そこには、意外なことに、目を丸くして驚いている、小さな身体
に何故かじいさん言葉を使うフォニュエールのじゃっくと、こちら
はじいさんそのままなフォニュームのテツじいさんがいた。
「え?え?なんで、あなた方が・・・?」
エイトが意外な成り行きに戸惑っていると、最初にその状況から
立ち直ったじゃっくが、
「なんでじゃないわい!急に動きおって。せっかくのわしの渾身の
力作となる自画像を描いておったのに、あやうく駄目になるところ
じゃったわい!!ういおおぉ〜〜!!」
と逆に大声で抗議してきた。
「そうじゃそうじゃ。ワシも、いろいろと描いてる途中じゃったぞ
い。その変化のとぼしい顔にも、ヒゲでもとも思っとったに」
テツじいさんも同意する。
エイトには勿論見えないが、ゼファのほうでは後ろを向いて立っ
ているエイトの背中の状況が、いまやよく見えた。
(こいつが自画像?)
そこには、いろいろな意味不明の落書きの中心に、ひときわ異彩
を放つアニメ調の絵があった。
何故か妙にうまい、素晴らしい笑顔をたたえたとびきり美少女の
フォニュエールがそこにえがかれている。
それを見てゼファは思う。
(こんなに可愛いニューマンの少女には、これまで一度もお目にか
かったことがないぜ。少なくとも今現在、半径百メートル四方に、
それに該当する人物は見当たらないんだがな)と。
無論、それを口にする程ゼファは間抜けではなかった。
「わしらはミウに頼まれて来たんじゃが、なんじゃ聞いとらんのか
のう?」
テツじいさんが、ようやくエイトの様子がおかしい事に気付き、
不思議そうに質問をしてきた。
「いったいなにをですか?」
凄まじく嫌な予感が、エイトの陽電子頭脳を駆け巡る。
「ワシらはミウに、エイトが自分の地味なボディに悩んでおって、
なにか素敵な模様でも描いて欲しがっておると聞かされたんじゃ」
「そうじゃい。みうみうが、あんまりにも一生懸命なんで、このじ
ゃっく画伯さまが、せっかくごりやくのある、女神の絵姿を背負わ
せてやろうと頑張っておったのに!」
じゃっくは余程絵を描くのを中断されたのが気に入らないのか、
かなりご立腹の様子だ。
「・・・それで、当のミウ本人は、どこにいるんですか?」
エイトは怒りに震えるのを押し隠し、諸悪の根源のことを、怖い
くらい静かに尋ねた。
「ありゃ?さっきまで、ワシらと一緒に絵を描いておった筈なのじ
ゃがな、いったいどこに行ったのかのう?」
テツじいさんが不思議そうに首をひねる。
じゃっくはどうやらこの状況を、いち早く理解したらしく、腹を
立てていたのも忘れたのか、
「ひひひひひ」
と人の悪い笑みを浮かべている。
ミウはどうやら、とっくのとうに逃走してしまったようだ。
「あンの小悪魔ぁ〜〜!!もう許しません!!」
いきなり街中だというのにエイトは、右手にショット、左手には
Wセイバーという装備基準を無視した完全フル装備をし、戦闘用に
マグをつけると、地響きを立てて獲物の追走に向かった。
表情のでないアンドロイドの顔に、怒りのバッテン・マークが見
えたのは、ゼファの気のせいではないだろう。
挨拶もなしに、去り行くエイトをみながら、ゼファは一人考えて
いた。
(結局のところ、台風に対する一番マシな対応ってのは、それが通
り過ぎるまで大人しく待つってのが、先人たちの古き良き知恵なん
だがな・・・)
エイトの後ろ姿を見送るゼファの眼差しは、憐れみに満ち満ちて
いた・・・。

      ※

もしあなたが、背中に微笑ましい落書きをされた、白いレイキャス
トをロビーで見かけたのなら、それはchance8氏であるのか
もしれない・・・。


(HAPPY END)♪♪

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