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 【酔っ払いマグ失踪、その真相】

 

お読みになる前の諸注意:
このSSは、オフ・クエの「鋼の心」の森で起きた出来事です。
「鋼の心」をプレイされてからお読みになる事をお薦めします。
また、このSSの主な登場人物として、3人のRPキャラが出演し
ています。このキャラのキャラ紹介をお読みになる事もお薦めしま
す。特に、主人公キャラのキャラ紹介は必読です。(爆)
その設定から、この物語は生まれましたので。(^0^)

(舞台:オフラインクエスト「鋼の心」の森)

「ふう・・・」
大木の根元にドカッと腰をおろした中年のレイマーは、少し辛そ
うに顔を歪め、酒臭い息を辺り一面に吐き出した。
「ちっ、昨夜飲み過ぎちまったか?俺としたことが、あの程度の量
で二日酔いたあ、泣けてくるぜ、ったく」
彼の名はゼファ。
数あるハンターズの中でも、その内のいくつかの部隊を束ねる、
言わば中隊長、大隊長クラスの、トップレベルのハンターズなのだ
が、今の彼を見てもその事を連想出来る人はいないだろう。
そんなカリスマ性や統率力は、その外見からはとても想像がつか
ない。二日酔いの、少々情けない様子だった。
「やはり、仕事の前の夜はひかえんといかんな」
一人ボヤくと、自分の側をフラフラと浮かぶマグに目をやる。
「おまえもみたいだな」
思わず苦笑してしまう。
好奇心から自分のマグに酒を飲ませたところ、すっかり味を覚え
てしまい、もしかしたら今や主人よりも飲む量が増えてしまったか
もしれないゼファのマグは、すっかり酒豪マグになってしまった。
ゼファが一休みして、水筒の水を飲んでいると、キーキー、と彼
のすぐそばで小さく騒ぐ音がする。マグの鳴き声だった。
「そうか、おまえも食事の時間だったな」
荷物の中からムーンアトマイザーを取り出し、それをやろうとす
ると、マグはプイっと横を向いてしまう。
「なんだ、気に入らんのか?仕方がない」
それからゼファは、次々とマグの餌となるものを取り出し、与え
ようとするのだが、マグはいっこうにそれを食べようとはしない。
モノメイト、ディメイト、トリメイト。
モノフルイド、ディフルイド、トリフルイド。
アンティドートにアンティパラライズ、ソルトアトマイザー。
まるで見向きもしない。
「これならどうだ!」
と出したスターアトマイザーには砂をかけられる始末。
「・・・。わかっちゃいたんだがな・・・」
ゼファは大きくため息をついて、ある物を取り出した。
それは・・・、ウィスキーの小瓶だった。
それが出された途端、マグが嬉しそうにピョンピョンと跳ねる仕
草を繰り返す。
「まいったな。俺は仕事中は飲まん主義なんだぞ。そういうところ
で、主人を見習って欲しいところなんだがな・・・」
と言ってみても、マグはまるで聞く耳持たず、ゼファの手にある
小瓶にピッタリと張り付いている。
ゼファはもう一度大きくため息をつくと、瓶の蓋を開ける。
純度の高そうな、きついアルコールの匂いがそこから溢れ出て、
爽やかな筈の森の雰囲気を一変させてしまう。
マグはすぐにその飲み口にくっつき、どこか口だか不明だが、音
を立てて一気に半分近くの量を、その小さな身体に飲み入れてしま
った。
<マグのアル中度が上がった!>
<でもパラメーターは何も上がらなかった!>
「マズイ癖をつけちまったかもしれんな。しかし、止めさせように
も、こいつを禁酒させるには、俺もそれに付き合わんと、こいつが
納得せんだろうしな。どうしたものか・・・」
ゼファは、アルコールを充分補給して満足したらしい、それまで
よりも更にフラフラになって浮かんでいるマグを見やり、これから
の事を思いやると、頭痛がこみあげてくるのだった・・・。


木漏れ日の光が、森をきらびやかにいろどっている。
どこからか、小鳥のさえずる鳴き声が聞こえる。
穏やかな風景。
心のどこかで懐かしさがこみあげてくるような、不思議な感触。
「しっかしまあ、こうして見ると、この森ものどかで、平和そのも
のって感じなんだがな。あんな化け物どもさえいなければ・・・。
昨日遅かったせいか?なんだか、眠くなってきたぜ・・・、ふあ
あぁ・・・・。」
と言っているそばから、ゼファはいつの間にやら静かな寝息をた
てて、すっかり眠り始めてしまった。
だがその手は愛用のライフルの上にしっかり置かれており、何か
少しでもおかしな気配を感じれば、即座に起き上がって、そのライ
フルの銃口は不幸な獲物の姿を的確にとらえる・・・・筈だ。
マグはそんな主人の姿を、プカプカ浮かびながら眺めていたが、
その内に飽きたのか、主人と同じ青いボディの目元(?)を赤くさ
せながら、フラフラ森の奥のほうへとさまよい出て行ってしまった。


そのしばらく後。
(マズイ、マズイことになったぜ、クソッ!)
先程とはうって変わったような真剣な表情でゼファは、森の中を
小走りに移動していた。
自分の大事な相棒であるマグの姿を追い求めて。
木陰から突然ブーマがうなり声をあげ襲い掛かってきたが、ぜふ
ぁはそちらには目もくれず、ライフルの台座で殴りつけ、あっさり
と昏倒させると、何事もなかったかのようにそのまま進み続ける。
(仕事中にだらしなく居眠りこいた上に、マグを酔わせてて迷子に
させちまった、なんて部下どもに知られてみろ、しばらく人通りの
多い所は歩けんぞ、おいおい・・・)
だがその彼の心配は、一瞬の間すら与えられず現実のものとなる。
「あ〜〜〜〜っ、隊長だあ!!」
森の静寂をものともせぬ素頓狂な声に、ゼファは振り向きたくな
かった。が、振り向かない訳にもいかなかった。
そこには、森にいると妙に目立つ紫の服に、森の緑そのままのよ
うな深い緑色の長髪をしたフォニュエールの少女が、ばかみたいに
ブンブンと、大袈裟な身ぶりで手を振って立っていた。
その後ろにもう一人、小柄な身体に似合わぬ大剣を軽々と肩にか
ついだ、エメラルドグリーンの髪をしたハニュエールが、フォニュ
エールの少女とは余りにも対称的に、こちらを無感動な顔をして眺
めていた。
以前ゼファが直接指揮をした隊にいた、ミウ(フォニュ)とアセ
ルス(ハニュ)だった。
(よりによって、とんでもないのに見つかっちまったぜ。
おいおい、俺の今日の運勢は大凶か?まいったぜ・・・)
二人の内、ミウの方はある意味とんでもない厄病神だった。
暗く沈みがちな戦いの場でその存在は、いい意味では隊を明るく
盛り上げるムードメーカにもなる得るのだが、その明るさ、という
よりもふざけた言動、行動で隊が振り回され、メンバーが翻弄させ
られたのも一度や二度ではない。
そのたびにきつく注意し、叱ってはいるものの、その場では素直
に反省し、謝るのだが、その行動が直った試しがまるでない。
隊にとってもろ刃の剣、とでも言うべき危険な存在だ。
そんな小悪魔に弱味を握られるのは、ある意味死よりも恐ろしい
運命が待ち受けているのかもしれない。
そんな内心はおくびにも出さず、ゼファは平静をよそおって答え
た。
「よお、奇遇だな。二人揃ってどうした?」
ゼファの心配をよそに、彼の所に歩み寄ってくる二人。
「うん、ちょっとね。ん??
隊長、なんか顔色悪くない?
それに、どこかいつもと違うような・・・?違和感がない?」
ミウは、いぶかしそうな顔で、ゼファを下から見上げる。
ゼファはなるべく二人の正面に立ち、後ろを見せないよう心掛け
つつ、
「な、なんの事だ?
俺は健康そのものだぜ?いつもと何も変わっちゃいない」
とりつくろうのに必死だ。だがそれも無駄な努力に過ぎなかった。
「・・・マグを付けていないようだが、どうしたんだ?」
アセルスの鋭い観察眼は、ゼファの徒労を瞬時に終わらせてくれ
た。
「あぁっ!ホントだ!!どうしたの?いったい」
容赦ないミウの追求。もしこの場にいたのがお気楽なミウ一人な
ら、ゼファもなんとか言いつくろい、誤魔化すことが可能であった
かしれない。
だがアセルスがいる以上、それは不可能に近かった。
アセルスは、余り経験が多いとは思えない年令の少女とは思えぬ
程に優秀なハンターで、その戦場での実力、行動力、決断力、判断
力、全ての面において他の名だたるハンターズと比べてもひけを取
らず、ゼファが安心して信頼出来る、数少ない部下の内の一人だっ
た。
ただ少し、ミウとは正反対に感情を表に出さな過ぎるのが気にな
る点ではあったが。
そうした、優秀なアセルスの能力が、この場合は裏目になってし
まうのだった。
しばし、脂汗を流しながら考えをめぐらせたゼファは、とても誤
魔化しきれないと観念して、大まかな事情を二人に打ち明けた。
結果・・・、
「・・・マグ、酔・・・、迷子・・・・くくくっ、居眠・・・ププ
ププ、も、駄目、ぐるじい、し、死ぬぅ〜〜〜・・・」
聞いたとたんミウは、腹を抱え、目に涙まで溜めて地面を、文字
通り派手に笑い転げ回った。
ご自慢の長髪や服が汚れるのもまるで気にならないようだ。
ゼファは頭痛をこらえ、そちらを見ないようにした。
一方アセルスの方は、聞いた後もまるで表情を変えず、しばらく
地面を転がるミウの様子を眺めていたが、急にゼファに顔を向ける
と、
「無様だな」
ボソと呟いた。
これには流石のゼファも、ラゾンデをまともに受けたようなショ
ックが全身を駆け抜けた。
「ア、アセルスさん、それってば、言い過ぎだよお〜」
いつのまに笑いの発作から立ち直ったのか、ミウがアセルスのか
たわらで、珍しくフォローにまわってくれていた。
目が笑ったままなのは、気になるところだったが・・・。


ミウが唐突に、ポンと手をうって言い出した。
「実はさ、ボクたち調度いいことに、マグ探しの依頼で森に来てた
んだ。だっだ広い森を一人で探すのも面倒だし疲れるしかったるい
しで、だから、アセルスさんにもつき合ってもらって」
<注意>このクエストは二人では出来ません。(笑)
「だからついでに、隊長のマグも探してあげるよ。どうせ隊長のな
ら、なんかもの凄いのになってんでしょ?簡単、簡単」
ありがたい申し出ではあったが、事情はそれ程簡単ではなかった。
「それが、その、だな・・・・。確かに一時期はそうだったんだが、
ここんとこずっと酒を飲ませていたらだな、なんでか姿は初期型に
戻っちまってな。能力なんかはそのまんまなんだが・・・。」
一瞬の静寂と間。
ミウが、腹を抱えてうずくまってしまうのに、さして時間はかか
らなかった。
今度は笑いを必死にこらえているようだが、身体が小刻みに震え
ている。
これにはさすがのアセルスも目を丸くし、言葉も出ないようだっ
た。
だがすぐ表情を戻すと、意味深なため息をつき、手荷物の中から
何か取り出すと、ゼファのほうに投げてよこした。
ゼファが条件反射的に左手でそれを受け止めると、それは彼のマ
グと姿かたちはそのままな、初期マグそのものだった。
「前に坑道で拾ったものだ。私にはまだたくさん予備があるからな。
やるよ」
「あ、いや、しかし・・・」
戸惑うゼファにアセルスは続ける。
「勘違いするな。別にそれとすげ替えろ、と言っている訳ではない。
マグが戻ってくる間にだけ、それを付けていた方が、しばらく取
り繕えると言っているだけだ。人の上にたつ者が、マグなしでうろ
うろされては、部下である私達の名誉にも関わる」
正論であった。ライセンスを持った正規のハンターズが、仕事中
にマグを外している事などあり得ない。
マグは、餌だけでなく、主人の仕事を間近で観察する事によって
も成長するものだから。
マグをつけないハンターズは、極論すればモグリのハンターズと
言われても文句は言えない。
「別に堅いこと考えないで、使わせてもらえば?」
またもやいつの間に立ち直ったのか、今度はゼファの横でミウが、
ニコニコと邪気のない笑顔を見せている。
その笑顔に真実邪気がないかどうかを判別するのはいつも難しい。
しかし、この場合に裏はないだろう。
ミウにしろアセルスにしろ、本当にゼファの事を気づかってくれ
ているようだった。
「じゃ、ボクたち行くからね。隊長のマグ見つけたら、ちゃんと連
れてくるから、隊長も頑張って探してね。ばいび〜〜」
お騒がせな超小型台風とアセルスは、そう言って去っていった。


二人と別れてしばらく、ゼファは手の中のマグを睨んでいた。
本来なら、慣れ親しんだ相棒以外付けたくはなかったが、部下の
好意を無にするのも気がひけるものだ。
「仕方がない。少しの辛抱だ・・・・」
そのマグを付け、迷子の捜索を再開する。
まさか、そうした部下の好意が裏目に出るとも知らず・・・。


数分後。
そのゼファの姿を木陰から覗く影があった。
それは、ゼファの探し求めているマグ、「ゼファマグ」であった。
自分が本来いる場所に、堂々と浮かぶ真新しいマグ。
それを見た衝撃は、計りしれないものがあった。
ゼファマグは、森で酔っている間に迷った後、あるレンジャーに
捕まり、自分と話の通じるアンドロイド「エルノア」に助けてもら
い、その後楽しくおしゃべりまでしていた。
その時まだ酔いが残っいて、エルノアについていくなどと言って
しまったが、酔いが醒めてから正気に戻り、こうして主人のもとに
戻ってきたのだが・・・。
(一度主人を持ったマグは、感覚的に主人の居場所が分かるように
なるのです。帰巣本能のように。)
ゼファマグは、すっかり勘違いしてしまっていた。
自分が主人に見捨てられ、用済みにされてしまったと。
うるうる(TT)
(サヨウナラ、ゴ主人サマ)
(毎日毎日オ酒ヲ飲マセテモラッタ楽シイ日々。決シテ忘レマセン)
(新シイマグニモ、オ酒ヲ飲マセテアゲテクダサイネ)
(イツマデモオ元気デ・・・)
ぐすん・・・
ゼファマグは、泣きながら主人に別れを告げ、その場を離れて行
ってしまった・・・。


それからしばらく後。
ミウとアセルスは、エルノアと出会ってマグ捜索に協力してもら
い、ようやく一体のマグを回収する事が出来たのだが・・・。
その帰り道で、ミウはおずおずと切り出した。
「・・・ねえ、アセルスさん。このマグ、お酒臭くない?」
「・・・そうだね」
なんでもない事のようにアセルスは答える。
「そうだねって、このマグもしかして、ゼファ隊長のなんじゃない
の?!」
「かもしれないね」
「うわ、なんでそんなに落ち着いてるの?だったら、隊長に連絡と
って、返してあげなくちゃ!」
ミウは即座にギルドカードを取り出し、ゼファと連絡をとろうと
した。
(カードは通信機としても使用可能。検索に使用するので思い付き
ました。(^^))
その手をアセルスは軽く押さえて言った。
「ミウは、エルノアの言ったことを聞いていなかったのか?」
「?、言ったこと?」
ミウは取りあえず動きを止めて、アセルスの言うことに耳を傾け
た。
「うん。エルノアは、このマグが「主人にお別れを言ってきた」と
言ってただろ?」
「あ、うん。そう言ってたね」
「つまり、このマグと隊長は、私達がいなかった間に再会できてい
て、その時に、二人(?)の間でなんらかのやり取りがあったんじ
ゃないかな?」
「え〜〜っと、そうなるのかな?」
「私の推測にすぎないけどね。おそらくは。
二人の間で、どんな事が起きたかまでは、さすがによく分からな
い。
喧嘩でもしたのか、マグの方が隊長に愛想を尽かしたのか。
これは、想像の域を出ないけど・・・。」
冷静に、理路整然とアセルスは、身も蓋もない推理を展開する。
「でもその結果、このマグは「隊長に別れを告げてきた」んだ。
これは、もう二人の間で決着がついてしまった事じゃないかな?
なのに、私達がわざわざマグを届けてしまうのは、少し配慮に欠
けていると思うな」
「むうぅ〜〜。そうなの?」
ミウは頭をひねって考え、それでもまだ納得がいかないようだっ
た。
「うん。それが大人の気づかい、思いやりだと、私は思う。」
「大人?」
ピクっとミウの長い耳が反応する。ミウは大人という言葉に弱い。
逆に言えば、子供扱いされるのが嫌いな、難しい年頃の女の子だ
った。
「大人・・・。大人ねえ。
ムフフ♪そりゃあ、ボクももう一人前のハンターズ。大人だから
ね。隊長のことを考えてあげて、ここは知らないフリをするのが、
オトナのはいりょってもんだよね、うん。
わかった、りょーかいであります♪♪」
大人大人と連呼するたびに、ミウの耳はピクピクと、面白いよう
に反応する。
はたから見ていると、ひどく滑稽な様子なのだが、本人はまるで
気付かないでいるようだ。
そんなミウのユニークな反応、単純な物言いに、アセルスは珍し
く、少しだけ笑みを浮かべるのであった・・・。


こうして、哀れGSKぜふぁの大切なマグは、心優しき部下の行動
が裏目裏目へと作用し、強欲商人ガロンの元にいってしまったので
した。



(ドナドナド〜ナド〜〜ナ♪♪ 売られていくよ〜〜♪♪♪)


(おしまい)

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