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 【Alita's report】

 一人前のハンターズの条件はただひとつだ。どんな状況に直面し
てもそれが自分の責任だと認識できるか否か。それだけだ。
 いつだったかそう言っていたのは誰だっただろう・・・
 ハニュエールのアリタは書きかけの報告書を前に、ふとそんなこ
とを考えていた。
 「はあ、締め切りに追われながら、腹の立つ事件の報告書を書く
羽目になったのも、自分の責任か」
 アリタは空間キーボードに向き直る。せめて音声入力装置くらい
は用意してほしいものだと思いながら、キーに触れていく。
 「確かに、危険な命懸けの依頼とは聞いてたけど」
 せっかく動き出したアリタの指がまた止まる。武器を扱う時のし
なやかで、優美な動きはこの作業には生かされないようだ。
 「あんな酷い目にあわせておいて、デスクワークまで付いてくる
なんて! あぁっ! もう!!」
 「短気はいけないなり。落ち着かないとオーバーヒートするよん」
 さっきからずっと隣に座っていた黄色いアンドロイドがアリタを
諌めると、当のアリタは形のよい眉をひそめ半眼で、そのアンドロ
イド、ロボ−9をにらみつける。
 (依頼も依頼だけど、メンバーも特殊だったのが運の尽きなのか)
 にらまれたまま微動だにしないロボに、アリタは独り言に近い愚
痴をこぼす。
 「あなたがまともなデータの外部出力装置をもってれば、いや、
せめて言語機能エラーなんて起こさない程度に優秀ならば」
 「失礼なりね。ロボはそこそこ優秀なりよ。まったり・・・」
 「それは、“まったく”じゃないか?」
 間違いをきっちり指摘されてロボは拗ねたのか部屋の隅っこに座
りなおした。
 「君、悪いが早く報告書を仕上げてくれないか?」
 いつの間に戻ってきたのか、扉のところから男が声をかける。パ
イオニア2の軍属であることを示す制服に身を固めたその男は、や
れやれといった表情を浮かべていた。

 「結局、君以外にまともな報告書を書いてくれそうな人間がいな
いのだからね」
 「デュランとシャウ-エッセンは捉まらなかったの?」
 「調べてみたんだが、デュランというハンターは現在またラグオ
ルに降りているようだな。それに連絡がついたとしても、我々に報
告をしてくれるかはわからん」
 「どうしてなりか?」
 もう立ち直ったのかロボが首をかしげて聞いてくる。
 「彼は冒険中に騎士(ナイト)と自分を表したんだろう? 例外
もあるが大体そういう連中は資産家や名家、政治的重要人物なんか
の専属部隊に所属してることが多いんだよ」
 「なるほど、それなら、独自にあの事件を調査してたことも考え
られる。情報をわざわざ軍にまわしてくれるとは限らないって事か」
 「そういうことだな」
 その初老の軍人は苦笑いを浮かべた。
 「事件ってなんなりか?」
 話についていけていないロボが、ちょんちょんとアリタの服を引
っ張る。
 「ロボ、この前、軍の依頼ってことで装備品没収されて、ラグオ
ルに放り出されたこと、もうメモリーから削除したのか?」
 アリタはちょっとした頭痛を覚えながら、ロボに問う。
 「あれはお仕事なりよ? 軍からの依頼だったなり」
 「あんたねぇ。なんでわたしがこんな仕事をしてるか、まったく
わかってないってことだな? ようするに、喧嘩を売ってるのかこ
のスクラップ寸前ロボ・・・!」
 肩を捉まれがくがくと揺すられるとロボは目を回したのか(正確
にはバランサー機能に異常を起こしたのだろう)ふらふらとさまよ
った後、壁にぶつかって停止する。
 「わたしが書いてるのは報告書兼被害届なんだ」
 「そう、あれは軍の依頼に見せかけた真っ赤な偽依頼さ」
 アリタに続いて初老の男は肩をすくめて言った。
 「メンバーの選考もわざとテクニックの使える人間を減らしたよ
うだったし。性質が悪いったらない」
 アリタはため息混じりにぼやく。組んでいたのは接近武器の使い
手である騎士のデュランに、アンドロイドのロボ、それに打撃武器
で戦う少女、シャウ-エッセンだったのだ。
 「そうそう、もうひとりシャウという少女も調べてみたが、こっ
ちもよくわからなかったよ」
 初老の男は手元の資料を見ながら、その偽依頼に参加していた最
後の一人、シャウ-エッセンのことを口にした。
 「シャウは帽子型宇宙人に頭噛まれてたよー」
 まったく突然口をはさむロボに男は唖然とする。
 「いらん冗談をメモリーしとくな。あれはただのファッションだ」
 アリタはロボを制して男の言葉を促す。
 「まあ、何のことかよくわからんが、そのシャウって言う少女の
データも不明瞭な部分が多い。プロジェクト“ドワーフ”っという
ものに関わってるようだが、詳細が不明で連絡もつかない」
 「うん、シャウはドワーフだって言ってたなりよ」
 なぜか満足げにうなずくロボを無視してアリタは本格的にため息
をつく。
 「要するに、結局のところわたし以外にこの報告書を書ける人間
はいないってことか」
 「悪いがそうなるね」
 初老の男は気の毒そうに同意する。
 「いいさ、これも一人前のハンターの義務ってやつだと思うよ」
 アリタは空間キーボードに向き直る。
 「悪いが頼むよ。ラグオルの事故以来、パイオニア2とラグオル
の双方で怪しい動きが活発化している。ブラックペーパーとか言わ
れるやつら以外にも、何かたくらんでるやつらがいるのかもしれな
い」
 男は初めて厳しい目をどこか遠くへと向けた。軍人らしいどこか
凄味を帯びた瞳がアリタには印象的だった。
 「できる限り正確に報告するよ。わたしも犯人がわかったなら、
痛い目にあわせてやりたいからな。とんでもないサバイバルにご招
待してくれたお礼をしなければ」
 ロボがぽんと手を打つ。アリタと男が注目すると、ロボは首だけ
そっちに向けて一言言った。
 「お礼には生活必需品がベターだそうなりよ」
 アリタはロボを別室に監禁するようその男に頼むことにした・・・。


           同時刻

 ラグオルの地下に広がる坑道の一角でデュランは一人の男を叩き
のめしたところだった。
 「せっかく再会できて喜んでたのに!」
 そのデュランと対峙しているのは、一見するとフォニュエールに
見える少女だった。
 「いきなり依頼人を殴り倒すなんて、ひっどーい! ことと次第
によっては許してあげないんだから!」
 少女、シャウ-エッセンはスタッフを構えて倒れた男を背にかばう。
 「この前の事件、酷い目にあったよな」
 デュランは唐突に口を開いた。
 「場合によっては、俺たちも調査中の事故で行方不明ってことに
なってたかもしれない・・・」
 デュランはセイバーを収めてシャウに向き直る。
 「それとこれと何の関係が・・・」
 たじろぐシャウにデュランは無言で歩み寄る。一歩一歩ゆっくりと。
 「あるんだよ。なぜなら品定めをしていたのさ!」
 突然、シャウが背にかばっていた男が起き上がりシャウ達に向か
って手を突き出す。常温とは明らかに違う熱量がそこに瞬時に蓄積
され灼熱の炎が唸りと共に発射される。
 同時にデュランは収めたセイバーの柄を炎にぶつけ、開いた左手
でシャウを手元に引き寄せ、後ろへと跳躍する。
 鈍い音と激しい振動、そして肌を焦がす熱気が男とデュラン達の
中心で巻き起こる。腕の中でシャウが叫んだようだが、轟音にかき
消されている。
 (逃げたか・・・)
 荒れ狂う炎が視界から消えたときにはその男はすでに姿を消して
いた。
 「なに? なになになにーーー!?」
 シャウがデュランに興奮気味に詰め寄る。
 「言葉通りさ。この前の事件は高く売れる有能な人体を品定めし
てたんだ。人身売買組織がな」
 デュランの言葉にシャウがあんぐりと口をあける。
 「で、ある人の依頼で組織の人間を捕まえに来たんだけど」
 そこで、デュランはふと笑顔を見せる。
 「奇遇だな。シャウ!」
 シャウは問答無用で、そのあまりにも爽やか過ぎて、憎さ百倍の
顔面にパンチを食らわせておいたのだった。




<注釈>
▼騎士(ナイト)▼
 デュランさんの設定を生かすために作ったオリジナル設定。ハンターズに所属しながらも実際は、特定の主人や組織に貢献する特殊部隊の一員を指す。ただ、礼をただし、弱きものを守り、正義に尽くす精神を持つことを自らに義務付けた者たちが、自分達のことをナイトと呼ぶこともある。

▼プロジェクト“ドワーフ”▼ シャウ-エッセンさんのドワーフという設定をPSOに持ち込むために作ったオリジナル設定。ニューマンのように人工的に種を改革する計画で、コンパクトでハイパワーな生命体を作り出す計画。ごく一部で研究されており、詳細は非公開となっている。

★さらに一言 後半部分の坑道の場面は、デュランさんに好きに使ってといわれたので加筆した分です。ロールプレイの妨げや、設定の矛盾になる場合はご連絡ください。削除など対処させていただきます。

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