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BURLY BRAWL

部屋に耳障りな電子音が鳴り響く。BEEにメールが着信した事を知らせる為だ。
「んだよ、ったく…こんな朝っぱらに」
不機嫌そうに頭を掻きむしりベッドから身を起こす赤毛の少年、名前はベルファー。
上半身裸のままテーブルの上に無造作に置かれているBEEの端末を取り内容を確認する。
「今日暇ならちょっと顔を貸してくれ。FromJINROH」
「ゲッ、何かアイツの気に障ることでもしたか?でもそんな覚えもねぇしな」
間をおかず再び人狼からメールが届く。
「言い忘れたが、戦える格好で転送装置前に来てくれ」
「…?」
ギルドからの依頼の手伝いか?もしくはアイツのことだからもっとヤバイ「何か」か。
さまざまな憶測をしてみるものの皆目見当がつかない。
「ま、行けばわかるか」
そういうとテーブルにホルスターに入れずそのままになっている大口径の
リボルバー式拳銃を手に取り再びベッドにドカっと腰をおろす。ベッド下に
保管されている弾薬箱を取り出し、ひっくり返し床に弾薬をばら撒いた。
シリンダーをスイングアウトさせ、床に転がっている弾薬を拾い一発ずつ
弾を込めていく。弾を込め終わるとシリンダーを勢い良く回転させ、右手首にスナップを
利かせながら返すとバチンッという音とともにシリンダーがフレームに納められた。
装弾し終わったリボルバーを傍らに置き、次は枕の下に隠してあった2丁の拳銃を
取り出し、マガジンを抜くとスライドを引き薬室内に残弾が無いかを確認すると再び
マガジンを装填しスライドストップを解除して弾薬を装填した。
愛銃たちの準備が整い、床に脱いでそのままになっている男性ハンター用の
コンバットスーツに着替えようとしたその時だった。

グウゥゥッ

腹が鳴った。
「そういやまだ朝飯食ってなかったな。急がないと人狼のことだから五月蝿そうだけど
腹が減っては戦は出来ぬって言うしな」
そう言うとキッチンへ向かい冷蔵庫から紙パックに入った賞味期限ギリギリの牛乳と食べかけの歯形が付いた
大きなハムを取り出した。ハムをかじりつつそれを牛乳で胃へと流し込み
簡単な朝食が終わるとコンバットスーツに着替え、ホルスターに愛銃を納めた。
「準備OK、っと」
そう言い玄関のドアノブに手をかけたちょうどそのとき
大事な物を忘れていることに気が付いた。
「お〜危ね、アレがねぇと話になんねぇよ」
そう言うと再び部屋に戻り、壁に立て掛けてある巨大な剣、いや、鉄塊といった方が
的を射ているかもしれない。ともかくその巨大な剣を背負うと部屋を出て行った。
待ち合わせ場所である転送装置前に着くと、そこには全身を銃火器で身を固めた
人狼の姿があった。
「相変わらず物騒な格好してるね、アンタは」
「お前だって人のことを言えんだろうが。そんな鉄の塊みたいな物を背負って」
この二人の格好、ハンターズ特区だから許されるものの、ここが一般人にも
開放されている区域だったらすぐにでも軍警が飛んでくるだろう。
「で、何の用だい?依頼の手伝いか、それとも愛の告白でもしようってか…?」
「馬鹿言え。前々からお前と戦ってみたくてな。VRでじゃなく、現実世界で真剣勝負をな」
「はぇ?」
ベルファーは思わず素っ頓狂な声を発してしまった。
VRでならどんな致命傷を負っても死ぬことは無い。だが、人狼はあえて現実世界で戦うことを望んだ。
「部下たちとはいつもVRで市街戦のトレーニングをするがどうも物足りなくてな。
それでお前を呼んだわけだ」
「俺じゃなくてそのお前の部下とやればいいだろうが」
「俺とあいつらとでは実力に差がありすぎる。だからお前を呼んだのだ」
「嬉しいんだか悲しいんだか・・・ま、いいか。別に嫌いじゃないぜ。
そういう下手すりゃ死ぬって勝負」
「決まりだな」
「で、どこで暴れるんだ… 」
「森で付近のエネミーを掃討してから始める」
「OK」
そう言葉を交わすと二人の屈強な男たちは転送装置によりラグオル地表へと転送された。
森へ転送されると二人は自分の装備を確認し二手に分かれエネミーの掃討を開始した。
人狼の重火器群が火を噴き、ベルファーの大剣が暴れまわる恐竜のごとく猛威を振るい
10分程度でエネミーの掃討が完了した。
「ベル、そっちはどうだ…?」
「終わったぜ、そういうアンタは…?」
「こちらも完了した。それじゃ、始めるか」
「おう」
お互いBEEの電源を切り、レーダーを使わない有視界戦闘状態になった。
頼りなのは己の目だけである。
「あっちは全身重火器で身を固めているから長引くと厄介だな…」
愛銃を見つめながら呟いたその時、頬を一発の銃弾が掠めた。
「な…!」
突然の事態に驚き、すぐに辺りを見回すが狙撃者の姿は見えない。
「今のはワザと外した、次は外さんぞ…!」
森に人狼の声が響くが、それでも位置は特定できない。
愛用のマグナムリボルバーをホルスターから抜き応戦準備を整えるが
人狼はボルトアクション式のライフルを使っている為ベルファーの射程距離外から
一方的に射撃を行える。ベルファーにとっては圧倒的に不利な状況だ。
巨木に身を隠し、射撃時のマズルフラッシュで人狼の狙撃位置を特定しようと
するが、最初の一発だけで2発目の射撃が無い。
「どういうつもりだ…?」
不思議に思い様子を見ようと顔をだすと、目に映ったのは人狼の愛銃である大口径拳銃の
銃口だった。人狼は何のためらいも無くトリガーを引き銃弾が
ベルファーの額に狙いを定め発射された。常人ならばここでその人生を終えるが
超人的な動体視力を持つベルファーは銃弾を頬に掠めながらも避け、人狼の腕を取り
一本背負いの要領で人狼を地面に叩き付けた。が、人狼は受身を取り逆に自分を
掴んでいたベルファーの腕を取り腕十時を決め、地面に倒した。
「クソっ、レンジャーのくせして肉弾戦なんて挑みやがって…!」
そう言うと勢い良く立ち上がり、背中の大剣を抜刀し人狼に襲い掛かった。
「もう怒ったぞゴルァッ」
超人的な瞬発力で人狼との間合いを一気に縮め、野球でバットを振るように
大剣の刃ではなく平らな刀身で人狼を思い切り殴りつけた。
「ガッ…!」
人狼は身をくの字によじりながら宙へと吹き飛ばされた。
だが、そのまま地面に落ちることは無く空中で1回転して着地し
転送されてきたNug2000を構えベルファーに向け発射した。
ベルファーは自分めがけ飛んでくる弾頭を避けず、大剣を盾代わりにし爆風と
溶けた鉄の破片から身を防いだ。
「やはりその大剣にはH.E.A.Tも無駄か…ならばこれはどうだ…?」
そう言うと人狼は左腕の義手をベルファーに向けた。
次の瞬間、義手の手首が内側に折れ、レールガンの銃口が現れた。
「ヤバイ…!」
雷のような轟音と共に秒速五kmで特殊合金製の弾丸が発射され
盾代わりにしていた大剣に直撃した。
「グァ…!」
凄まじい衝撃によりベルファーは吹き飛ばされ、木に思い切り叩きつけられた。
「とんでもねぇ物を腕に仕込みやがって…」
そう言うと姿勢を地面スレスレにまで低くし、再び人狼の懐へ飛び込んだ。
「この距離なら俺の独壇場だぜ…?」
人狼はナイフしか近接戦用武器を持ち合わせていなかった。
横薙ぎに振られた大剣を一対のナイフでどうにか受けるが
その重さとベルファー自身のパワーによって吹き飛ばされてしまった。
人狼も転んでもただでは起きぬと言わんばかりに両足のレッグホルスターから
ダブル・イーグルを抜き発射した。それに対しベルファーもマグナムリボルバーを
ホルスターから抜き弾の間をすり抜けながら応戦した。
二人とも弾を撃ちつくすと二人の間には弾同士がぶつかり、つぶれたマッシュルーム状になった物が転がっていた。
互いの銃弾を撃ち落したのだ。超人的技量をもつ二人だから成しえた神業だ。
「もうそろそろ決着付けねぇとどっちかが死んじまうぜ…?」
「そうだな、次でカタを付ける」
そう言うと、ベルファーは腰を据え、大剣を構え、人狼はダブル・イーグルのマガジンを
交換し、独特の型で構えた。その場の空気が一気に張り詰める。
次の瞬間、お互いゆっくりと走り始め徐々にスピードをあげた。人狼はダブル・イーグルの3バーストで弾幕を張り、ベルファーはそれを大剣で弾き返しながら
互いの間合いを詰めた。ベルファーは人狼の懐に入ると、大剣を人狼の首めがけ
振り下ろし、人狼は白熱化した銃口をベルファーの額に突きつけた。
しかし、ベルファーの大剣が人狼の首を跳ね飛ばし、人狼の銃弾がベルファーの脳漿を
ぶち撒けることは無かった。
「死んだな?二人とも。」
「実践ならな。」
そう言うと二人は愛用の得物を下ろした。
「あ〜ぁ、腹減っちまったぜ。とっとと家帰ってメシ食おっと」
「何なら奢ってやっても良いぞ。付き合ってくれた礼にな」
「お、珍しいな。自分からそんな事言うなんて。喜んでゴチになるぜ」
「何が食いたい?」
「そ〜だな・・・ケーキバイキングに行きてぇな」
「はぁ、男の癖にか?」
「悪ぃかよ、甘い物が好きなんだよ。」
「こんな物騒な格好した男二人組がケーキバイキングかよ・・・仕様が無いか」
そう言うとリューカーで簡易転送装置を開きP2に帰還し、二人そろって
ケーキバイキングのあるスィーツの店へと足を運んだ。

End



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