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 【お子様恋愛講座】

 「この前は、面白かったねー」
 目の前のパフェをつつきながらミウは言う。もちろん、食事制限の義務づけられた
パイオニア2で手に入るのは、外見だけを似せた栄養食だが、ミウの前にあるのは
本物である。
 ハンターズと呼ばれる便利屋、冒険屋たる彼女が、危険あふれる惑星ラグオルに
わざわざ降りていって、これまたそんな場所で好き好んで経営している店で、買っ
てきたものだった。
 「なにが?」
 建て前上、ラグオルに降りるのは調査ということになっており、その場合単独で向
かうことはまれである。
 アセルスは今回の“調査”に付き合ったまま、こうしてご機嫌のミウの向かいに座っ
ていた。
 「ほらこの前、森で迷っちゃったときだよ」
 「迷ったのが面白かったのか? ああいう場所で自分達の位置を見失うのは危険
なことだが?」
 諭すようにいうアセルスに対してミウは、ちちちっと唇の前で指を振る。
 「ボクの言ってるのはあの時一緒だったリリとキュージュのことだよ〜」
 「あの二人がどかしたのか?」
 アセルスは小首を傾げる。そういう仕草はやはり彼女が、女性であることを思わせる。
 「あーん、もう! アセルスさんまで〜」
 ミウはじれったそうに、それこそ、地団駄を踏みそうな位にいやいやをしている。人
目の思いっきりある公園でだ。
 アセルスがどうしたものかと、なにかかけるべき声を探していると、びしっとスプー
ンが目の前に突きつけられる。勢いでわずかにチョコクリームが鼻の頭に飛んでき
たが、無言でハンカチを当てる。
 ・・・・・・・・
 妙な間を経てミウが口を開いた。握りこぶしを作って。
 「リリとキュージュの間には、愛が芽生えたのよ!」
 「そう・・・ なのか?」
 また小首を傾げるアセルス。
 「だめだよアセルスさんー。女の子はこういう話題には敏感でないと苦労するよー」
 まるで、経験豊富な熟年女性のようなことを言うミウ。いったい、この子にこんなこ
とを言わせるような過去とはどんなものだろうと、漠然と考えているアセルスに、ミウ
の講義(?)は続く。
 「今回の例のポイントはね。まず、リリがず−っといらいらしてたことだよ」
 もはや、先生と化したミウはレッスン1を開始する。
 「普通あんな状況で人は落ち着いていられないとおもうが?」
 「最初は、そうだったかもしれないけどね。後半は違うよ〜。あれはキュージュが無
理してたのが、気になってたからだよ。ん、ぜったいそう!」
 自分で言葉にしてさらに確信が増したのか、ミウの調子はどんどんあがっている。
 「じゃあ、えっと、それはリリの片思いってことじゃない?」
 「アセルスさんっ。もっと観察しなくっちゃだめよ」
 ミウは問題を前に困っている生徒であるアセルスに優しく注意する。
 「腕を負傷してまで、前線で戦ってたのは誰? 突出するリリを一番気づかってたのは?」
 「それはキュージュだが。彼は状況ごとに必要なことをしていただけではないのか?」
 アセルスはその日、調査隊のリーダーであったキュージュの行動を順に思い出してみる。
 「それに、リリの態度も、あまり好意を寄せている異性に対するものではなかったと
思う。ほら、キュージュの腕の怪我に気づいた時だって・・・」
 アセルスが言うとおり、キュージュが腕の怪我を隠して戦っていたのに気づいたリリ
の態度は、優しいとは言いがたかった。
 問答無用でづかづかと近づいたかと思うと、むんずと掴んで引っ張ったのだった。
キュージュが絶叫したのは言うまでもない。
 「甘い。このチョコパフェよりも甘い!」
 一瞬その状況を思い出して笑いかけた表情を、真面目な先生顔に戻してミウは言う。
 「あれは、リリがお子様だったからだよ。好きな相手に意地悪しちゃうなんて、てーんで
子供の証拠だよね。もっと、ボクみたいに大人な態度がとれないのかなー」
 「ようするにあれは愛情の裏返しだったってこと?」
 アセルスの言葉ににっこりとミウは微笑む。今まで解けなかった難問を解いた生徒に
よくできましたと、ほほえみかけるようだ。
 だが、アセルスの表情は相反して気まずそうなものに変わっていく。
 「だーれーが、お子様なのかしらー?」
 ミウはその原因を体で実感した。こめかみにぐりぐりと拳がめり込んでくる。頭が固定
されてるので振り向くことができないままミウは聞いてみる?
 「リリお姉さま?」
 アセルスが沈痛な表情で頷いている。
 「はぁーい。元気そうでなによりだわミウ。アセルスもこーんなお子様につき合うのも大変でしょ?」
 「こんにちは、リリ」
 さすがのアセルスも困った顔でとりあえずあいさつだけは返しておく。
 「えーん。リリちゃん痛いってばー。はなしてよー」
 ぐりぐりの刑に処されたミウが目に涙をうかべて許しをこうが、リリの拳は確実に獲物を
捉えてはなさない。
 「まったく、好きかって言ってくれちゃって・・・」
 リリは適当に力加減を弱めながら嘆息する。
 「まあ、キュージュもそこそこいい男だけど、まだまだ本気になるほどじゃないわよ。あい
つってば堅物だし、すぐ無理するし、歳だってもう三十路前だし・・・」
 「あー! キュージュだ!!」
 キュージュの欠点を順に上げていたリリは、ミウの叫びにドキリとする。その一瞬の隙を
ついてミウは拳の呪縛から抜け出すと、素早くリリとの距離を開ける。
 「へへーんだ。やっぱり気になってるんだー」
 してやったりと言う笑顔でミウはそのまま反転して逃げていく。
 「ま、まちなさい!!」
 リリは顔を真っ赤にしたまま、大あわてでミウの後を追っていった。
 ぽつんと一人取り残されるアセルス。
 「苦労するか・・・」
 最初にミウの言った言葉を思いだす。
 「みんな不器用だよな・・・ いつ尽きるか分からない。創られた命だっていうのに・・・」
 アセルスは環境スクリーンに映し出された青空を見上げる。
 作り物の空・・・。そして、創られた命であるニューマンの自分達・・・。
 「だから、気持ちだけは」
 本物でありたい。と、胸中のみでごちた。
 それを言葉にするには自分はあまりに不釣り合いだと知っていたから・・・。
 キリングエンジェルは、死の中で微笑むものだから・・・。
 

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