ギャラリートップへ

 


【お子様恋愛講座・番外編】


    ☆

お話の注意事項:
このSSは、タイトルから分かるかもしれませんが、90さんの書
かれた「お子様恋愛講座」の、すぐ後に起きた事として書かれてい
ます。(つまり、続きという位置付けの物になります(爆))
リリ&キュージュの恋愛RPのごく初期の話。
今のお二人のRPの状況からすると、昔話に該当する話と
なっております。
その点をご理解の上、お読み下さい。

    ☆


  リリが入った喫茶店は、彼女にしては珍しくシックでモダンな感
じのする、時代がかった内装の店だった。
  そしてもっと珍しいのは、彼女が髪をいつものように二つにくく
っておらず、おろしているところだった。
  その為にいつもと雰囲気が違って、知人が見てもすぐに彼女とは
気付かないかもしれなかった。

  明度の低い、暗い照明の店内には人陰はまばらで、少し考え事を
したかった彼女にとっておあつらえむきの場所と言えた。
  店の中央には、オブジェとしての暖炉があり、赤い炎が揺らめい
ていたが、勿論これはホログラフの、偽物の炎だった。
  リリはその熱さのない暖炉の脇の席を選び、無難な注文として紅
茶をオーダーした。
  紅茶がくると、思わず人工甘味料に伸ばした手を途中で引っ込め
、一口すすってみる。
  世間一般の女の子と変わらず、甘党な彼女にとってそれは旨くも
なんともない代物だったが、我慢しなければならない事情があった。

  それに、今はそんな事よりも大事な事があるのだから。
  普段は明るいリリにしては珍しく大きなため息をつき、
物思いにふける。
(なんか、らしくないよなぁ、あたし。どうしたんだろう?)
  自問自答するが、その答えは自分でもよく分かっている。
(キュージュの事が気になって、頭から離れない。あたし、本気な
のかしら?父さんの面影を、あいつに重ねてる訳ではなく?)
  なんとなく、素直に認めたくない苛立ちがあった。
(そりゃ、まあ確かにあいつはそれなりにいい男で、責任感もある
し、仲間思いだし、頼れるし、って、あわわわわっ。(汗)な、な
に誉めちぎってんのよ、あたしは!そーじゃないでしょ!)
  一人で顔を赤らめ、あたふたと慌てふためいてしまうリリだった。
  ふと、暖炉の炎を見て考える。
  過去の悲惨な記憶を背負った、大柄なフォニュームの心を。
(あたしに、あいつの心の傷が癒せるのかしら?)
(強がってばかりで、仲間に辛い顔を、絶対に見せようとしないあ
いつ・・・)
  パクパク、むしゃむしゃ。
(あたしじゃ、あいつの事を支えられない?)
  モグモグ、ごっくん。
  じーー。(視線)
(あたしにとって、あいつって?それに、あいつにとってのあたし
はなに?)

  リリは、今まで女と生まれたからには、とっびきり最高の、自分
がその人の為なら「死ねる」と思える男性と恋がしたい、という信
念があって、その為にリスト等をつけて、生涯のベストパトナーを
見つけようとしていたのだが・・・。
  リリには彼女なりに恋愛経験があり、自分でもウブなつもりはま
るでなかったが、今回のは今までとはまるで勝手が違った。
  今まで集めたリストの男性たちが、すっかり色褪せてしまった。
  それなりに苦労して(?)作成したリストだったのだが、今やそ
の存在も意味のない、無用の長物となりかけている。
  自分でももう分かっている。気付かないフリをしているだけだ。
  でも何故だか、キュージュの前では素直ななれないリリだった。
(自分に正直に、か・・・。そういえば、あのお気楽娘がなんか、
無責任なことを言ってたわね・・・)
  パクパク、むしゃむしゃ、あ〜〜、おいち〜〜♪
(・・・・ん?)
  それまで周囲の雑音など、気にも止めていなかったリリだったの
だが、考えがそこに及ぶにいたって、すぐ側から、そのよく聞き知
った声が聞こえてきたがために、暖炉の炎から目を離し、顔を前に
戻した。

  そしてそこに、無気味なくらい巨大なプリン・ア・ラモードにパ
クつく、緑色の髪のお子様フォニュエールが、自分の向かいの席に
ちゃっかりと居座っているのを見て、思わず椅子からずり落ちてし
まった。
「な、な、な、なにしてんのよ、ミウ!!」
  リリが血相を変えて怒鳴るとミウは、
「プリン食べてる」
  と簡潔に答えた。
「そ、そんなことは、見れば分かるわよ!あたしは、なんであんた
が、いつからここにいるのか聞いてんのよ!!」
「ありゃりゃ?それはボクのセリフなんだけどなあ。
  ボクは、リリちゃんがお店に入ってくる前から、この店の中にい
たよ。
  ちゃんと手を振ったのに、リリちゃんってば、気が付かないんだ
もん。ボクって、そんなに存在感薄いかな?」
「え?え?、嘘ぉ?!」
「嘘じゃありませーん。知り合いがいるのに、別の席にいるのも変
だから、わざわざ移ってきたのに、リリちゃん一人でニヤニヤ笑っ
たり、顔を赤くしたり怒ったりで、あっちの世界に行っちゃって、
百面相してるんだもんな」
  それはある意味嘘だった。
  確かに店に入って来たリリに対して、手を振ったまでは本当の話
だったが、様子のおかしいリリを見て、これは何かあるぞ、と思い
、視線を暖炉の炎に移している間に、こっそりと忍んで来ただけだ
った。

(何?何?なに?!つまりもしかして、最初っからずっと見られて
いた訳?)
  リリは動揺して、その部分的な嘘には気付かない。
(あ、でも別に、なにかを口走ってた訳じゃないんだから、そんな
に焦ることもないんじゃない?
  でも待って!
  この子は、今のあたしたちの状況をかなりよく知ってて、悪魔の
ように勘がいいから・・・・)
  恐る恐るリリがミウの顔色をうかがうと、まるで彼女の予想を全
面肯定でもするかのように、ミウはニヤニヤと、意味ありげな笑顔
を浮かべていた。
「ね〜〜え、何考えてたの?」
  猫なで声をだすが、この場合はチェシャ猫を連想させられる不吉
な声、不吉な笑顔だ。
「な、なんだっていいでしょ、別に・・・」
「トボケたって無駄なんだけどなあ。どうせ、キュージュのことで
しょ?」
「・・・・」
「ホログラフの炎なんかボーっと見つめちゃってさあ。「キュージ
ュ、あなたの悲しみを、あたしにも分けて」とかなんとか思ってた
りなんかして」
  その、当らずとも遠からずな内容に、リリは、
「あたしがなに考えてよーと、あんたみたいなお子様に関係ないで
しょ!いい加減にしてちょ・・・・」
  と思わず怒鳴りかけたが、ウェイターロボットがこの席に運んで
きた物を見て、思わず絶句してしまった。
  トレイに乗った、色とりどりのカラフルなケーキたち。
  その数は恐らく20個近くあっただろう。
  ベーシックな苺ショートにモンブラン、キャロットにパンプキン
、ムースにババロア、タルトにパイにミルフィーユ。
  それらが全部、「ミウの前」に丁寧に並べられた。

「ミウ様、ゴ注文ノ品ハ、コレデ全部オ揃イデゴザイマスデショウ
カ?」
 と、他の客とは完全に別格の、バカ丁寧な態度でウェイターロボ
はミウに尋ねる。
「うん、そうだね。揃ったみたい。少し遅かったけど、ま、いっか
。追加あったら呼ぶから、すぐ来てよね」
  と、ミウの方も、何やら横柄に対応する。
  ウェイターロボは、やたらとかしこまり、頭を何度も下げてから
戻っていった。
  リリはこの意外な一連の、意味不明なやり取りに、すっかり毒気
を抜かれてしまい、とりあえず話題をそらして、こちらの不可思議
な疑問の方を晴らす事にした。
「あんた、ここの店に知り合いでもいるの?」
「へへえ♪ちょっとね」
  また意味ありげに笑う。
  素直に答えるつもりはないようだ。
「・・・・。
  それにしても、一人で全部それ食べるの?お腹こわさない?」
「?これくらい、いつもだけど」
(いつも、ねぇ・・・)
  リリとて甘いものは別腹。かなり食べる方だが、さすがに、いっ
ぺんにこれだけの量を食べ切る事は出来ない。
  しかも、追加をするかも、とまで言っているのだ。
(このちっちゃい身体の、どこにあれだけ入る余地があるんだか。
この子の胃って、別次元にでも通じてるんじゃないかしら?)
  呆れてしまう。

  そこで閃く小さな疑問。
「あら?でもあんた、確か「洞窟のケーキ屋」以外のものは、もう
マズくて食べられない、とかって言ってなかった?」
  ラグオルの洞窟の地下深く、求める食材の為に危険な場所に開か
れた店。そこはラグオル降下を許されたハンターズや、一部の総督
府関係者以外には知られていないケーキ店。
  そこにあししげく通うお子様フォニュエールの存在は、一部のハ
ンターズの間では有名な話だ。(爆)
「うんうん。もうあそこの以外は食べられないよね。比べもんにな
らないもの」
  プリンより、後から来たケーキを先に片付ける事にしたらしいミ
ウは(好きな物は最後派らしい)、すでにその内の二個をペロリと
平げてから答えた。
「??じゃ、それはなんなのよ」
  もっともな疑問。
  リリの不思議しそうな顔に満足したのか、ミウは種明かしをする
気になったようだ。
「もちろん、あそこのケーキだよ。これ全部」
「はあ?」
「つまりですねー」
 そこでミウは、何故だか教師口調になって語り始める。
「あのお店のおねーさん達は、自分達の理想の為に、あんなとこに
店を作った訳だけど、実際問題、ケーキを作れればいいってもんじ
ゃあないよね。あんなとこに行く人は、今現在限られている訳だし
。その上でケーキが好きな人だって、その中の全員がそうじゃない
んだし。
  はっきし言っちゃえば、採算が取れなくなったの。
  で、おねーさん達は考えた訳。パイオニア2の方に、なんとかこ
れを持ち込んで、売れないものかってさ。
  でもそれには問題がいろいろあります。
1、パイオニア2ではまだ一応食事制限があるから、おおっぴらに
これを持ち込んで売れない。
2、また、持ち込む事そのものも、軍が監視していて難しい。
3、運搬そのものも、危険な洞窟を往復するんだから、普通の人に
は困難なのです。
  で、おねーさんたちは、まず知り合いのこの店で、常連相手だけ
に秘密に売る事を考えて、持ち込みの件、つまり運搬のほうは、自
分達のケーキ屋に頻繁に通っている、可愛いフォースちゃんに目を
つけたのです」
  そこで得意げに、「ボクボク」と親指で自分を指差してアピール
する。
「そうして救いの天使運搬屋さんは、その話を快くOKしてくれま
したとさ。おしまい」
  しかし、その説明ではまだ不十分なところがあった。
「え?でも待ってよ。あそこって確か、大人気で、一人一個までし
か買えなかったんじゃなかったの?それが赤字?」
「あ、それはね、ちょっと前までの話。
  今さー、転位ゲートの監視が前よりずーっと厳しくなったんだよ
ね。気付いてなかった?(他に気掛かりがあるからかな?(笑))
  なんせ、不動産屋のおっちゃんは降りるは、学者先生は降りるは
、新聞記者まで降りてるし、果ては妙な犯罪組織まで出入りして、
なんでも高価な武器や防具の模造密造なんかもしてるらしくてさ、
さすがに総督府も、重い腰を上げたみたい。
(頑張れソニチ!(^^;))
  前までは、ハンターズライセンスを持ってる人なら、誰でもフリ
ーパスだったけど、今はちゃんとした許可証が必要なの。所持品検
査まであって、変なもん持ってたらその場で没収。
  お陰で、降りるだけでも時間かかってしょうがないよ。
  だから、お客さんが激減しちゃったって訳さ。
  ボクは、ケーキの方は、なんとかリューカを応用した裏技で持ち
込んでるけどね」
  ミウはやたらと得意げだ。
「・・・・一応事情は分かったけど、じゃ、もしかしてそのケーキ
の山は・・・・」
「そう。このお仕事の報酬にボクは、ここと洞窟の両方の、いつで
もなんでも食べ放題の権利を貰ったんだよ」
  リリは更に呆れてしまう。
  一応は正規のハンターズが、ギルドを通さない仕事だとしても、
そんなに破格の安い条件で、危険な仕事を普通は受けないだろうと。
(ま、この子は普通じゃないけどさ)
  でもしかし、確かあそこの売り物はみな、場所が場所だけにかな
り高価な値が付けられていた筈だ。それをこの量、このペースで食
べられては、もしかしたら店の方が赤字なのでは?
  そこまで考えて、むしろお店の方が気の毒になってしまったリリ
だった。
「だけどそれも、あの爆発事件の一件が全部片付いて、ラグオルに
みんなの上陸許可がおりたらお終いだけどね。
そしたら、溜めたお金で転位ゲートを、自前で設置するとかって言
ったたよ」
(それまでお店がもてばいいけど・・・・)
  リリはミウに気付かれないように小さくため息をついた。

「だから、これは全部タダなのです。リリちゃんもどう?遠慮なく
食べていいよ。リリちゃんも好きでしょ?こーいうの」
「え?そ、そう?」
  言われて、ついつい手が伸びそうになるが、リリは鋼の精神力で
それを押さえ込んだ。
(駄目よダメダメ!なんのために、今まで我慢してきたの?
  こんなに美味しいそうなケーキなんか食べたら、それこそ歯止め
が効かなくなって、一個や二個じゃ済まないわ。
  そうしたら、今までの苦労が水の泡よ!)
  一人苦悩するリリを見るミウの顔に、またあのチェシャ猫笑いが
蘇ってきた。
「やっぱりねえ。食べないじゃないかあ、って思ってたけどさ。甘
さゼロの紅茶なんか、マズそーに飲んでたしね」
「え?!」
  リリがギクリとする。
  ミウの追い討ちが迫る!
「リリちゃんズバリ、ダイエット中でしょう!
けなげだよねー、リリちゃんってば見かけによらず。
  どうしてそれなのに、あのニブチンは気付いてくれないのかな?
  こーいうリリちゃんの「乙女」なとこに」
「な、なにバカ言ってるの?!あたしは、キュージュの為なんかに
ダイエットしてる訳じゃないわよ!」
「あ、やっぱりダイエット中だったんだ」
  悪魔のように巧妙なかまかけだった。
  リリは墓穴を掘りまくっている。それも二重に。
「しかも「キュージュ」ね。ボク今のは、「ニブチン」としか言っ
てないのに、わざわざ自分から出すもんなあ。熱い熱い。
  あれ?ここの空調壊れたかな?」
  ミウはわざとらしく、手で団扇をつくって自分を扇ぐ。
  その人を食った態度に、リリの我慢は、もはや限界値を大きく越
えてしまっていた。
「あんたね、いい加減にしなさいよ!黙って聞いてれば、好き勝手
言ってくれちゃって!
  だいたいねえ、そんなに偉そうな口をきける程に、あんたは恋愛
経験豊富な訳?!」
「ええ?!あ、うん、そりゃまあ、「恋愛」のひとつやふたつは・
・・・」
  意外な反撃に、ミウはごにょごにょと言葉を濁す。
  初めて見たような気すらする、ミウの弱気な態度に、リリは反撃
の活路を見い出した!
「へえ?じゃあ、聞かせてもらおうかしら?恋愛経験豊富な、百戦
錬磨のミウ様が、今までにどんなロマンスをしてきたかを」
「あう・・・・、それは、その、だから、あの・・・・」
  しどろもどろになったミウは、それまでとは違って、なんだか年
相応に見えて少し可哀想だったが、ここで攻撃の手を緩めると、後
でどんな報復が待っているか分からない。
  やるからには徹底的にやらなくては。
  リリは心を鬼にした。
「どうせねぇ、ミーハーなあんたの事だから、チームの格好いい隊
長を見てはポーっとのぼせあがって、次に組んだチームにいい男が
いれば、こっちもいいかも、なんて事を、繰り返しでもしてたんで
しょう?!」
 と言いながらもリリは、
(なんかこれって、あたしの事も言ってるような?)
  と自分にツッコミつつ、耳が痛いのは我慢して続けた。
  ミウにとってこれは、的確に急所をつかれたものらしく、口をパ
クパクさせるだけで、言葉は一言も出てこない。
「そういう、「淡い憧れ」だの「空想っぽい恋愛ごっこ」だのとを
、大人の、本物の恋愛とを一緒にされちゃ、たまんないのよ!」
 そして、テーブルに所狭しと並べられたケーキを指差し、
「そんな、ケーキだのお菓子だのの甘さで満足しているような、本
物の恋愛の、例えようのない甘さ、素敵さを知らないお子様が、き
いた風な事言わないで!
  いい?!今後一切、あたし達の恋愛事に、適当な口をはさまない
でよね!」
  リリはここで、ついつい調子にのって、余計な事を口走ってしま
った。
「それからね!この際だからはっきり言っとくけど、あたしはキュ
ージュの事なんか、少しも、これっぽっちも、まるで、完全に、全
然、ちっとも!なん〜〜とも、思ってないんだからね!!
  それだけは覚えておきなさいよ!」
  リリは周囲の人目も気にせずに、そう思いっきり怒鳴ると、勢い
よく席を立って店を出ようとした。
「あ!キュージュだあ!!」
  背後で急にミウが大声をあげたが、リリはもう振り向こうとすら
しなかった。
「ばっかみたい。同じ手に二度もひっかるようなリリ様じゃござい
ません」
  そう言うと、リリはささっと店を出て行ってしまった。

  残されたミウは、
「ボクだって、おんなじ嘘なんかつかないのになあ」
  と呟くと、食べかけのプリンののった器を持って、リリのいた席
の背後にあたる、壁際の席に歩み寄る。
  そこに、何故かメニューを顔の前に広げて微動だにしない、見る
からに怪しげな人物がいた。
  メニューを持つ左手の、白い包帯が痛々しい。
  ミウはその向かいに当然のように座ると、
「ねぇー、キュージュ?」
  と声をかけた。
  メニューがゆっくりと下がると、そこには、たった今まで話題の
中心だったフォニュームのキュージュ(三十路前・独身(笑))が
気まずそうな顔を覗かせた。
「や、やあ、ミウ。なんだいたのかい?ちっとも・・・・」
「言っててむなしくならない?ずーっと聞いてたくせに。目が涙目
になってるよ?」
「こ、これは・・・、いや、別に・・・」
  慌てて拭っても遅すぎる。
「さっきのあれは、気にすることないと思うよ。リリちゃんってほ
ーんとに、あまのじゃっくなんだから」
  先程のウェイターロボが、慌てて前の席に残ったミウのケーキの
残りを、全部この席に運んで来て、綺麗に並べ直している。
  男性であるキュージュは、リリより尚更それを、心の中でだけウ
ンザリした顔をして見やる。
「いったい、いつから気が付いていたんだい?」
「リリちゃんと、おんなじこと聞くんだね。答えもおんなじなんだ
けどさ。あのね、「ボク」が、一番最初にこのお店に来てたの!
  その次にキュージュ、そのまた次にリリちゃんが来たんだよ。
  まったくもう・・・。
  二人ともまわりのことなんか、まるで目にはいってないんだね。
「恋はもうもく」ってやつ?」
「そ、そうなのか?そいつは悪いことしたな。声をかけてくれれば
良かったのに」
  あえて最後の言葉は無視してキュージュは言った。
「リリちゃんはともかく、キュージュの方は、邪魔しちゃ悪いかな
あ、と思ってさ」
  ミウは意味ありげに、チラっとキュージュを見上げる。
「じゃ、邪魔って、何をだい?」
「さっきの話聞いてたら分かると思うんだけど、ボクね、ここの大
切な常連さんなの。だからってわけでもないけど、店長さんとも仲
良しで、おんなじハンターズだしって相談されたことがあるの。
  青い服来たフォニュームが、コーヒー一杯で2、3時間粘るんだ
けど、その様子がいつも変だって。いっつもコーヒーも飲まずに、
暖炉のホログラフの炎を、離れた席からずーっと睨み付けてる、っ
てね。
  店長さん、心配してたよ。思い詰めた顔してるから、その内なに
かしでかすんじゃないかってさ。
  ボクは事情を知っているから、ちゃんととりなしてあげてたんだ
よ。その意味は、もちろん内緒にして。
「とらうまのこくふく」ってやつ?キュージュって、ほーんとに真
面目だよねえ。リリちゃんなら、そんなに慌てなくても、待ってて
くれると思うけどなあ、ボクは」
  ミウは生意気にも、ふうと肩をすくめてみせた。
  以前にキュージュは、自分の過去についてのあらましを、ミウに
語って聞かせた事があったのだ。
  それは、自分の弱味をミウのような子供にまでさらす事で、それ
を克服するための、自戒の意味があったのだが。
  その時ミウは、大粒の涙をボロボロとこぼし、キュージュに心底
同情してくれていたように見えた。
  だからキュージュは、その汚れなき無垢な涙を見て、自分がほん
の少しだけ救われたような気になったものだった。
  だが、今は、
(打ち明けるんじゃなかった!!)(爆)
  と強く心の中で後悔していた。
  そんなキュージュの内心を知るはずもないミウは、さらに非情な
セリフを言う。
「ま、そっちはどーでもいいや。(←鬼)
  ところで、どう思った?今日のリリちゃん?」
「ど、どうって、何を?」
  いきなりの話題転換に、キュージュは戸惑うばかりだ。
  そんな彼に苛立つようにミウは続ける。
「髪型だよ、髪型!いくらニブいキュージュでも、気付いたでしょ
う?いつもと違ってたのにさ!」
「あ、ああ、そりゃ勿論!」
「綺麗だと思わなかった?いつもと違って、な〜〜んか大人っぽか
ったよねえ・・・」
  ミウはちょっと羨ましそうだ。
「え?あ、うん。確かに、ああいうのも似合うんだな、リリは・・
・・」
「ボクも今度、髪型変えてみようかな?」
  ミウが自分の長髪を、手で後ろにまとめてポニーテールのように
してみる。
「あ、うん。いいんじゃないかい?とても似合っているよ」
  キュージュは如才なく誉めるのだが、
「ふーん。なんだか気のない言い方。意中の人意外だと、男の人っ
て、みんなそうなの?」
  ミウの反応は手厳しい。
「そ、そんな事ないさ!本当によく似合っているよ。でも、ミウは
可愛いから、どんな髪型でも似合うと思うけどね」
 と仕方なくフォローを増やしても、
「なるほどなるほど〜〜。そーいうセリフで、あのリリちゃんを恋
に落としちゃった訳だ。
  けっこう口がうまいんだねえ。知らなかったよ、ボク」
「・・・・」
  ああ言えばこう言う。こう言えば、ああ言い返す。
  相手にしていると、はっきり言ってキリがなかった。
  もはや戦線離脱しかない。
  キュージュは席を立って、「用を思い出した」と古典的な逃げセ
リフを言うが、まだ敵さんは、彼を逃がしてはくれなかった。
「あ、帰るんならさあ、ひとつ質問したい事があるんだけど、いい
かな?」
  キュージュを引き止めるミウは、何故だか真剣な口調だ。
  ほんとに一つだけなんだろうな、と思いながらキュージュは、一
度立った席に仕方なく座り直した。
「リリちゃんが、さっき言ってたけど、「恋」って、そんなに甘い
ものなのかな?」
  唐突な質問。
  意外な事に、ミウはかなり真面目な表情だ。
  その真剣な問いに、キュージュは思わず、
「ああそうだな。例えようのないくらい甘い・・・・」
  なにやら恥ずかしい事を告白しかけて、途中でハッと正気に戻っ
た彼は、ごにょごにょと口の中で意味不明の呟きを洩らすと、真っ
赤な顔をして店を飛び出してしまった。


  それを少しあっけに取られて見ていたミウだったのだが、
「でもそれって結局のところ、「心理的」な「錯覚」に過ぎないん
じゃないかな?」
  とつぶやき、プリンを一口、さも美味しそうにパクつく。
「こういう「現実的」な「味覚」にうったえる甘さに、勝てるとは
、とうてい思えないけどね♪
  う〜〜ん、おいち〜〜〜♪♪」
  花より団子、色気よりも食い気。
  ませた口をきいてもいても結局のところ、ミウはまだまだお子様
なのでした。


(おしまい)

ギャラリートップへ