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 とくとくと。
とくとくと早鐘のように。

戦いの果てに何があるのかを知りたい。全ての事象の果てに何が
あるのかを考えたい。俺はソイツをずっと追いかけている。


【命の狭間・心の隙間】

両手には強大な鎌。半獣半人の黒い闇。閃光を放つ捉えどころのない
四足の怪物。今俺は生きている。
「うがあああ!!」
バキバキ
両手に広がる衝撃、心地良い痺れにも似た感触。俺の剣は敵の頭蓋を二つに割る。
生と死のぎりぎりの瞬間。
紫の返り血が俺に降り注ぎ、流血する俺の血と混ざる。
パイオニア計画から7年。その間延々と俺は剣を振るっていた。
一人危険な戦地へ赴き、ただ剣を振るっていた。
俺のわがままで一人寂しく過ごしている、あの子の事をただ考え。
「メイフォア・・・俺はまだ生きているよ」


メディカルセンターのとある一室。ごろりと横になり、無くしたはずの腕を
さすりながらふと無想する一人の男。
彼の名はオケユキ。どこにも所属していないフリーのハンターヒューマン。
19の頃にパイオニア計画に参加、現在パイオニア2のセクションPINKALに
あるおんぼろ宿で生活している25歳独身。
そしてパイオニア1の生存者でもある。
現在パイオニア1の生存者は目下捜索中。にも関わらず彼はその捜索に
引っ掛かってはいない。それは彼が偽のIDで計画に参加した為で、
データ上では『死亡もしくは行方不明』と表示されている。
なぜそんな真似をしたのかは不明だ。機会があれば書くことにしよう。

「やっぱり最新鋭のメディカルシステムはたいしたもんだ」
手を握る。手を開く。まだ新品同様の為、多少の違和感はあるが問題
ないだろう。
「にしても・・・ばけもんだな」
両手に死神のような鎌を持ち、それはとても素早く、大量に向かってくる。
当然データベースにはデータはない。メインにもそうそう転がっていない。
おそらく上層部もしくはパイオニア1搭載のブラックボックスぐらいにしか
『それらの名前』を見つけることはできないだろう。
俺のように生きて戻ってこれたのもまだまだレアなケースに入る事だろう。
別に報告義務はない。ただのフリーのハンターの自分には関係ない。
せいぜいうまい具合に転がして、日銭を稼ぐのが無難なところだ。
だが俺にはそんなはした金ではだめだ。資源不足から吊りあがっていく母星の物価。
置いてきたあの子に、ひもじい思いをさせないように・・・俺には金がいる。
「とりあえず飯でも食いますかね」
誰に言うでもなく呟いて、疲弊した身体を起こす苦労人がそこにいた。

遺跡の知名度はまだまだ低い。パイオニア1爆発時に散らばった大量
の物資は未だ未回収だ。
「まあ、だから行くんだけども・・・」
こつん
「おっと・・・」
右足に少し重めの感触が伝わる。
「ご愁傷さま・・・」
若い、自分と同じ頃合いの、ハンターの死体だった。下半身のみだが
部屋に目をやると残りは簡単に見つかる。
「・・・」
未来の己の姿を垣間見た気がする。
ぴりぴり
「・・・!」
曲りなりにも彼は凄腕のハンターでもある。本能が伝えてくれる。
シールドの展開されている左手を背中に回す。
ガキン
少し強めの衝撃。
「・・・っと」
距離を取る。
後ろからは斬撃をお見舞いしてくれたのは、一度自分の左手を切り落として
くれたタイプのエネミーだった。
「・・・確かディメニアンだったっけか・・・」
一応メディカルセンターの後に、ハッキングに強い知人を通してメイン
からデータを引き落としておいた。
「・・・はっ!!」
ソードのフォトンを起動、攻撃。
「・・・!!」
なんとも言えない断末魔。それにひきよせられる新しいエネミー。
「・・・軽くひねってやるか!!」
オケユキは一人ごちた。
戦いに酔える。それもハンター必須の才能なのだ。

エネミーのどろりとした体液をこそぎ落とし、オケユキは先へ進む。そして
探索時に必ず目に付くものがある。
死体が増えた。
それだけエネミーの強さを物語る証拠だが、一抹の不安を感じる自分が
いる。少年、もしくは少女のハンターズの死体。
「遠足じゃ・・・ないんだぜ」
恐怖を感じる、畏怖を感じる。失うことへの恐れ。
少し重なる。遠い日に別れたあの子供。
『メイフォア・・・』

その時だ。

ぞくり
強烈な殺意が身体を、魂を貫いた。
「が・・・」
寒さ。
痛み。
喪失感。
「・・・こ、これは」
身体が何か、目に見えない何かに包まれて行く。
「く、くそ・・・!」
溶けていく何か。
身体を揺する。少し震えたぐらいの動き。
『な、なんなんだよ・・・』
闇を感じる。
暗い暗い闇。

声が響いた。
抗うな。
重い声。包み込むような重い、黒い声。
我にその魂を捧げよ。
『・・・?』
その体を渡せ。
『なんだ・・・?』
抗えば苦しむだけだ。
・・・・。
『・・・ヘビーだな・・・』
夢なのか現なのか、その境界は限りなく薄っぺらい。今どこにいるのか
何をしているのかも・・・俺の思考は、流れる水が形をとめどなく変えて
いくようにゆらゆらとゆらめいていく。
「オケユキ!!」
そんな中聞き慣れた声がしんと。ただしんしんと響いた。
空耳。
あいつがいるハズがない。
「オケユキ!!」
もう一度。

ああ・・・。
きっとこれは・・・俺の声なんだ。
気持ちなんだ。
抜け殻の俺に生きる意味をくれる、大切な声なんだ。
あの子の為に・・・俺はまだ・・・生きる事を諦めるわけにはいかないんだ。
震える俺の魂。
急激に気持ちと身体が結び付いていく、そんな感じだ。
誰に言うでもなく。
「俺の体は俺の・・・もんだ・・・そうだろう?」

声の質が変わった。
『そうか・・・抗い、魂の精彩を欠けるのなら・・・必要ない』
『死ぬがいい』
目の前に突如現れる、黒い巨馬・・・カオスブリンガーだったか。
命をかける事になれた者は、命を失う。
心を失う者は何も考えない機械になる。
グオオオオオ・・・・
エネミーの咆哮。
「この・・・腕は・・・」
エネミーが走り込んでくる。
「悪を倒す為・・・」
ジャキリ
ソードを握り込む。
「この心は・・・」
交錯。
「ただ心を・・・」
噴出す鮮血。
「救う為」

霧のように消えていく殺意。
俺の中に芽生える晴れやかな気持ち。
戦う為に生きるでなく、ただ生きる為に戦うのだ。生きてあの子に出会う
為に。全ては己自身に。

血濡れの己。ただ思う。
「メイフォア・・・俺は・・・まだ・・・生きて・・・・・・いる・・・よ」
その声はとてもかぼそく。


<OKEYUKI出稼ぎ編・閉幕>

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