2001年6月の私淑言

 


2001. 6. 26

生きてるだけでラッキーだ。
と歌う曲をご存じだろうか。
某局『笑う犬の冒険』の番組企画から生まれた、はっぱ隊のデビュー曲である。
最近これがシャレにならない。
5月、レッサーパンダ男が見ず知らずの女子学生を刺殺する事件が起こった。6月頭、大阪の小学校に男が乱入して児童8人を刺殺、15人に怪我を負わせ、これに触発された模倣犯が各地で騒ぎを起こしてもいる。東京では宅配業者を装ってドアを開けさせ、家人を射殺する事件が2件。冬に人為ミスで死傷事故を起こした京福電車はまた人為ミスから事故を起こした。かと思えば北海道で、こんどは自衛隊機の機関砲誤射だ。
小説やゲームの架空世界を見るまでもない。
今、この世界に生きている、それだけで十分サバイバルだ。

 


2001. 6. 23

23日放送のNHKスペシャルに、古代の技術の素晴らしさを見た。
古事記ほかの文献に寄れば、奈良東大寺の大仏殿を凌駕する十六丈(48m)もの高さを誇ったという、古代出雲大社。
伝説だろうと思われていたその巨大神殿の、今年3月に発見された柱の遺跡が、存在の可能性を示した。今回の番組は、その検証である。
掘っ建て柱にしては、柱を埋める深さが2mと浅すぎるのは何故か。3本の大きな柱をどうやって1つにまとめたのか。30mもある柱をどうやって立てたのか。
専門家が集まって浮かび上がった疑問は、発見された柱の周囲を調べ、出土品を調べることで、次々と解明されていった。
そのどれもが、当時の出雲の技術の高さと、神殿建設にあたった人々の発想の素晴らしさを証明している。
そういえば先日放送された同枠でも、やはり古代の奈良の技術の高さを見せつけられた。
古代日本の技術力は我々の想像を遙かに超えて高く、また、当時の人々は、その土地の特徴を利用することにも長けていたのだと、畏敬の念すら、覚えた。

興味の湧いた方、25日か26日にあるだろう深夜の再放送をどうぞ。
見る目変わりますよ本当に。

 


2001. 6. 20 『贋作・桜の森の満開の下』

翠條さんと、野田秀樹作・演出の『贋作・桜の森の満開の下』を見に行く。
出来れば週末の公演を見たかったのだが、人気作で平日のチケットしか取れなかったのだ。
『贋作』とあるように、ベースは坂口安吾の『桜の森の満開の下』なのだが、そこに同じく坂口安吾の『夜長姫と耳男』を絡め、まったくオリジナルな芝居を作り上げているのが、野田秀樹氏のこの芝居。

パンフレットのあらすじには、こうある。
 ヒダの匠の弟子・耳男は、師匠を殺害してしまうが、その直後にヒダのお受けに匠と間違えられ連れ去られる。そこには、やはり名人の匠を殺害し、匠と間違えられて連れてこられた山賊のマナコと、その素性を黙して語らないオオアマと名乗る名人も集められる。
 この3人にヒダの王が命じたのは、3年の後に王家の姫の夜長姫と早寝姫の身を護るミホトケの仏像を彫ることであった。それぞれの部屋で仕事を始める3人だが、一向に進む様子はない。やがて歳月は流れ、約束の3年。夜長姫の十六の正月がやってくる。

『桜の森の満開の下』とは、遠いストーリーである。
それでも、早い台詞回しやテンポのいいストーリー展開、目まぐるしい動きや織り込まれる言葉遊びの合間合間に現れるのは、『桜の森の満開の下』の不思議な静けさと荒々しさと、美しさと恐ろしさなのだ。
あの雰囲気を作り上げる野田氏や俳優さんはじめスタッフの方々を、スゴイと思った。

それにしても、これに限らず、芝居やコンサート、もっとチケットが手に入りやすくなればいいのに。

 


2001. 6. 19 Give and take

最近仕事でちょっと細かくて時間と手間のかかることを、マウスを使いキーを叩きながらやっているので、頭も目も疲れるが、手も疲れる。
気分転換だけならお茶でも淹れてくればいいが、指の疲れはそれでは取れない。
そんな時。
私は椅子から立ち上がり、友人の背後に立って、声をかける。
「ねぇ。肩、揉ませて?」
万年肩こりの友人がこれを断ることはまずない。
かくしてここに謎のマッサージャーが出現するのだ。
私は指の疲れを解消できて、友人は肩こりから一時的にであれ解放される。
『Give and take』の成立である。
まー、こんな『Give and take』、滅多にないだろうけれど。

 


2001. 6. 17

折しも梅雨の時期を迎えて、まったく正反対の現象に対する番組が放送された。
渇水と、集中豪雨による浸水。
起こる事象は正反対に見えるが、その実これらは共通の原因を持っている。
人口の集中、宅地開発、アスファルトで覆われ降る雨を蓄えられない街、荒れてやはり雨水を蓄える力の衰えてしまった山々。
降った雨がそのまま流れて水路に集まってしまうから、下水が溢れ、川が溢れて浸水を招く。同じ理由で、せっかく降った雨が蓄えられずに流れ去り、晴天が続くと渇水になる。
新設されたドーム球場などの施設の中には、その地下に雨水を蓄えるプールを持つものがあるそうだ。
雨の多いこの国。
自然には所詮敵うべくもないけれど、工夫一つで、ある程度は、災害も減らせるのだろう、と、思ったり。

 


2001. 6. 10

サッカーコンフェデレーションカップで、全日本が準優勝した。
王者フランスを相手に、1−0。
フランスは主力が出場していなかったけれど、日本もポイントゲッター不在で、この結果だ。
FIFA公認の国際試合で決勝戦を戦えるようになったのだ。
たいしたものだと、心から思う。
敗れて授与されるのが準優勝、ではあるけれど。
おめでとう全日本。
来年のワールドカップが楽しみだ。

 


2001. 6. 9

今回かなり怒っているので口調がいつにも増して荒い。ご容赦いただきたい。
何にそんなに怒っているかというと、それはもちろん大阪の事件だ。
たった15分の間に、8人もの子供の命が奪われた。その場にいた子供たち、教師、親。直接その場にいなくても、全国の子供たちが、親たちが心に受けた衝撃は計り知れない。
犯人は呟いたそうだ。
「世の中の何もかもが嫌になった。捕まえて死刑にして欲しい」。
この手の『犯行動機』を耳にする度に、いつも思う。
世の中の何もかもが嫌なら、死にたいのなら、他人をどうこうしないでひとりで死ねよ、と。
また、本当かどうか定かではないが、件の犯人、「精神科に通っているから何をしても罪は問われない」と漏らしたとか漏らさないとか。
思い出す。少年法があるから何をしても無罪だと、過去、凶行に及んだ少年たちを。
ふざけろ。
彼らが盾にしようとしているものと、それらが生まれた本来の理由と目的は、違う。
理不尽に、勝手に、ワガママに、命を奪っていい道理など、どこにもない。

 


2001. 6. 6 こんなところで突発。

──『冬咲く花』メンバーにご登場願って、こんなところで突発SS(笑)──

 

 ぼんやりよどんで街の明かりを鈍く反射する曇り空を見上げて歩いて、帰宅すると、テレビを見ていた清流が、振り向いて、告げた。
「おかえりなさい紅尾さん。梅雨入りしたらしいですよ、東京」
「へえ」
 沖縄、九州、四国と続いて、確かにそろそろ関東だと、気象予報士がニュースで言っていた。
 バッグを肩から下ろして、煎茶を淹れる準備をする。
 湯飲みは、3つ。
 綺麗に注ぎ分けた途端、残る1人が現れた。
 やって来たのは桜の精霊。
 家主の紅尾、居候の大地の化身・清流と、桜里で、これがいつものメンバーだ。
「こんばんは、桜里。はいお茶。」
「ほほほ、気がきくの、紅尾」
「よく言いますよまったく。タイミング見計らって来たくせに」
 苦笑混じりに紅尾が言うと、否定もせずに桜里は笑った。
 ひとくち煎茶を口に含んで、一息ついて紅尾が訊ねる。
「で、梅雨入りしたって、清流?」
「ええ。夕方のニュースで。関東地方は今日梅雨入りした模様です、って。……どうして判るんでしょうね、そんなこと?」
 答えのついでに清流からも。
「そりゃあ、気圧配置とか前線とか。梅雨時期の気圧配置って判りやすいし」
 言うと今度は桜里が。
「しかし、面白いものよの。この季節雨が続けば梅雨と判りきっておろうに、なにゆえわざわざ役所が発表するのやら?」
「いつからやってるんでしょうね、こういうの」
 2人の疑問に紅尾は笑って、
「梅雨入り・梅雨明けを発表するのは、農業なんかの関係もあるんでしょう。いつからか、ってのは……調べてみようか」
 言ってパソコンの電源を入れた。
 インターネットにアクセスし、検索サイトでキーワードを入力して、関連サイトを巡ること数分。
「出たよ。梅雨明けとか梅雨入りとか、発表するのは気象庁、ってのは判るよな。で。
 昭和60年以前は梅雨明け・梅雨入りを非公式の『お知らせ』として発表、これが一般に『梅雨入り宣言』『梅雨明け宣言』と呼ばれる。
 昭和61年、日付を特定した梅雨入り・梅雨明けの発表を正式な気象情報として採用、これが平成6年まで続く、と。
 で、この平成4年とか5年・6年てのがまたクセモノの年で、梅雨入り宣言しても晴れ続き、梅雨明け宣言しても雨続きで、苦情が出たワケだ。『梅雨明けはしていませんでした』なんて発表もあったみたいだしね。
 頭を悩ませた気象庁が次に考え出したのが、時期を『上旬』『下旬』って感じに大雑把にして、ついでに1週間くらい雨や晴れが続いてからやっと『梅雨明けしていた模様です』なんて言うようにする方法。これが平成7・8年。
 ところが今度はこれにも判りにくいと苦情が出た。まあ1週間も雨が続きゃー、ダレだって梅雨だなって判らあな。
 それで、気圧配置やら前線の位置やらをにらみつつ、『梅雨入りしたものと見られる』ってちょっとぼかして発表する、今の形に落ち着いた、と、こういうことらしい」
 大変だねえ気象庁も。
 クスクス笑いながら紅尾が言うのに、桜里と清流も苦笑いで応える。
「でも、僕、好きです、この時期」
「それはもちろん妾もじゃ。なにしろ妾は樹木ゆえ」
「私だって嫌いじゃないですよ。それにこの時期雨がちゃんと降らないと後々困るし、何より梅雨がないと、なんだか夏が来た気がしない」
 まあ、降りすぎるのも問題ですけど。
 言うと桜里と清流も「確かに」と頷いて、
 ──なんでも適度が一番。
 で落ちが着いた。

 

 2001年6月6日。
 関東甲信越地方が梅雨入りした日のことである。

 


2001. 6. 3

常日頃「ネタはねぇか〜?」とナマハゲのように呟く私に、友人がネタをくれた。
というわけで、今回は彼女の元に届いたそれはそれはアヤシイ葉書のお話。
先月末、友人宅に届いたその葉書には、こんな言葉が羅列されていた。曰く、

『雑誌・マスコミ等で発表致しましたNASAプロムナードの全国一斉公開に先立ち、東京ショールーム会場に於いて制作完成発表記念コマーシャルイベントを開催しておりますが、その完成発表を記念して、このたび○○様を、ペアで豪華海外旅行(ハワイ、グアム、ロサンゼルス等)に無料ご招待できることになりましたので、お手数ですが、下記まで至急ご連絡下さい。
二度ほどお知らせしたのですが連絡が取れず再度送らせていただきました。

UNITED JAPAN Co.』

……アヤシイ。アヤシすぎる。
だいたい、『NASAプロムナード』って一体何だ。雑誌・マスコミで発表って、そんなこといつしたんだ? でもって東京ショールーム会場なんてドコにあるのだ。東京に住んで私もいい加減長いが、そんな会場未だかつて聞いたことがない。
制作完成発表記念コマーシャルイベントの完成発表を記念して海外旅行に無料ご招待というが、そんなこと出来るくらい金があるならどうしてこんなに知名度が低いんだ『NASAプロムナード』?(いや別の意味で知名度は高いが・笑)
豪華海外旅行というワリに、行き先がハワイやグアムで何泊何日なのか不明ってあたりもなんだかセコいぞUNITED JAPAN。
そもそも社名からして胡散臭いぞUNITED JAPAN!(大笑)
あたりまえだがこの友人、こんな企画に応募などしたこともなければ、『2度ほどした』という『お知らせ』も受けていない。
「○○に当選しましたのでご連絡ください」という葉書や電話は私も何度も受けたことがあるが、いっそキモチイイくらいにここまでアヤシイのは初めて見たので、友人の許可を得てネタにしてみた。

で。まさかとは思いますが。
こんなステキにアヤシイ悪徳商法に、ひっかかるような無邪気に素直な天然さんは、十六夜茶寮のお客様にはいらっしゃいませんよね?

 


 

 

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