2001年5月の私淑言

 


2001. 5. 28

母から物資が届いた。魚に貝に山菜、野菜、そして、小夏(こなつ)という名の柑橘類。
この小夏が、例によって例の如く大量だった。段ボール箱の2/3を占めていた。
数えてみたら、全部で23個。しかも大玉。
小夏は好きだ。大好きだ。だが、1度に1個がせいぜいだ。
とりあえずいくつかは会社に持参するとして、それでも重いからあまりたくさんは持って行けない。
(……まーた、もー……)
軽く頭を抱えた私に、母はさらなる追い打ちをかけた。
届いたことを報告する私に、電話の向こうの母はそれはそれはほがらかに
「あの小夏ねー、○○さんに分けてもらったのが美味しかったから頼んどいたの。もうないかも、って言ってたんだけど、この間届けてくれたの。でね。あれ、ホントに完熟に近いから、早めに食べてねv
──『早めに食べてね』って。
私の胃袋の許容量を一体どのくらいだと思っているんだ?
私は悟空じゃないんだぞーーっ!(←『最遊記』読者にしか判らない叫び・笑)
これはイジメか、イヤガラセか、母っ!?
沈没しそうになる私に、母の声が無情に響いた。
「だって会社に持ってくでしょ?」
────確信犯だ。
ありがとう母よ。
そして私はまた『食料運び人』と化すのであった。

 


2001. 5. 27

先月三軒茶屋駅で、銀行員が同じ列車に乗り合わせた若者から暴行を受け死亡したのは記憶に新しいが、今度は西武線西武球場前で会社員が同様の被害に遭ってしまったらしい。
自首したフリーター青年は言う。
会社員の「もう少し詰めてくれたら」という言葉を自分たちへの因縁と思った、と。
それで殴ろうと思う、思考回路が怖くてならない。
『自由』と『ワガママ』をはき違えた『お子さま』が、今、街を闊歩している。

 


2001. 5. 23

最近流行りの『出会い系メール』が届いた。
「○○子でーす♪」なんてタイトルで、試しに開いてみたら案の定エロサイトのURLが羅列されていた、というのは2日に1通くらいの割合で届いていたのだが、今度のはちょっと変わり種。
曰く

■ 早速ですが今回は20名の女性から
  貴方様へ逆指名の御連絡が『xxxxx』にありました。
  なるべく会える男性・電話で話せる男性、
  せめてメールだけでも女性の相手をして頂ける男性を求めています。

…………って、求められてもなあ(爆)。
ちなみに逆指名したという女性陣の詳しいアドレスその他は、指定口座に、キャンペーン中につき特別に1件5000円を振り込めば教えてもらえるのだそうだ。
逆指名なんじゃないのか? どうして金を取るんだ?(笑)
でもこれ、ひっかかる男性陣も、世の中にはいるんだろうなあ、やっぱり(苦笑)。

 


2001. 5. 20

今夜のNHKスペシャルは『消えた国宝』。
内乱に揺れるアフガニスタンから盗み出された国宝の行方を追ったドキュメントだ。
武装勢力タリバーンによってバーミヤンの大石仏が破壊されたのは記憶に新しい。
その、国の、博物館から。国宝の展示品が、内乱に紛れて盗み出されている。
盗難は罪だ。盗品の売買もまた、罪だ。美術品や文化財は、基本的に、もとあった国で保護されるのが正しい。
けれど、この話はそれで割り切れるほど簡単ではないのだ。
盗み出された国宝は、盗まれ、国外に持ち出されたことで、結果的に破壊を免れた。翻って国内に残されたものは、破壊されてしまったか、その危機にあるかのどちらかだ。
今、日本やヨーロッパに、アフガニスタンから盗み出された国宝が、数多く、ある。
正論に従ってそれらを返還するか、それとも、国内情勢が落ち着いて文化財を保護する余力が出来るまで、盗品と知りながら、返還せずにおくか。
壊され、永遠に喪われてしまうよりは、非合法だろうとどこかに在る方がまだいい、と、思えてしまうのは、当事者でない者のエゴイズムだろうか。

 


2001. 5. 18

翠條さんと、上野は東京都美術館で開催中の『アールヌーボー展』に行って来た。
アールヌーボーに影響を与えた世界各地の美術品の展示から、絵画、アクセサリー、家具、食器・道具類から建築物まで、総展示数260数点。
バロックの装飾、ロココの曲線。イスラムのガラス、モザイク、幾何学模様。ケルトの装飾文字、ヴァイキングの簡潔な線。浮世絵のデフォルメ、緻密に再現された昆虫、花、刀の鍔や織物の文様。
いろんなものを取り込んで、生かして、産業革命直後のヨーロッパで生まれたのが、アールヌーボーだ。
エミール=ガレのガラス器。ルネ=ラリックの装飾品。ミュシャのポスター。ガラスや鉄といった新しい素材から生まれた新しい芸術は、生き生きとして美しかった。
ゆっくりと眺めて約3時間。
7月8日まで開催されているこの『アールヌーボー展』。どの展示会でも思うことだけれど、出来るなら図録ではなく、美術館に足を運んで眺めて欲しいと、思った。

 


2001. 5. 17

今年の高額納税者ランキング、通称長者番付が発表されて、面白がってスポーツ新聞を買ってきた同僚に、先輩と一緒に、その部門別も含んだランキングを見せてもらっていた時のこと。
横から見ていた営業部の先輩がミュージシャンリストを覗き込んで、こう言った。
「ねえ。この『ゆず』って何?」
「…………何って…………歌手ですよ。聞いたことないですか?」
「うん。知らない」
──ホントかよ。
顔を見合わせた我々は、おそるおそる、訊いてみた。
「あの……B’zは、知ってますよね?」
本当におそるおそるだったのに、件の先輩はあっさりと言ってくれたものである。
「うん、さっき教えてもらった」
『教えてもらった』って、ちょっと待て!
そのワリに、ランクインしている女性歌手は、一応全員判るのであるらしい。
つまるところ、『ヤローに興味はない』ということなのだろうが。
名前すら意識に留めないとは、なんて徹底してるんだ先輩!(^^;)

 


2001. 5. 13

枇杷が来た。
送り主は、先月筍を大量に贈ってくれた母方の伯母。
今回もご多分に漏れず、大量である。
そこらの店で売っているパック10個分くらいは軽く入った箱が、2つ。
枇杷は好きなので非常に嬉しいのだが、その量に、容赦がない(^^;)。
仕事の関係で、普通に買うよりずっと安く手に入るのだと伯母は言うが、これを普通に買えばどのくらいするのやら(苦笑)。
結果的に最低1箱は毎年会社の人たちの味覚を楽しませることになるわけで。
すっかり味を占めたひとりの先輩が、先日、私のデスクにやってきて、宣った。
「ねえ、狐さん(仮)。枇杷、今年まだ来ないの? 俺、毎年あれが枇杷食うたった1回のチャンスなんだけど。」
(…………あのー。ワタシ、食い物運び屋じゃないんすケド? つか、買ってください)
思ったことは口にせず、苦笑混じりに私は答えた。
「まだですねぇ。アレは5月のものですから」
かくして今年も枇杷は届き、私は傍迷惑にも通勤電車に枇杷入りのでっかい箱を持ち込むのである。
我が家の冷蔵庫で枇杷が冷えているのは言うまでもない。
ありがとう伯母上♪

 


2001. 5. 12

高瀬美恵さんのサイト『Water Garden』の部活動(笑)のひとつ、美食倶楽部の第5回活動で、「梅の花」というお豆腐料理専門店にて会食。
この美食倶楽部の活動、昨年5月の「笹の雪」でのお豆腐料理から始まったのだが、今回はその時参加できなかった方々にリベンジしていただくのが当初の目的だったの、だが。結果的に、本当にリベンジしたかった方々は揃って参加できないという哀しいことに。
それでも、総勢13名で、「梅の花」新小岩店に乗り込んだのである。
予約したコースは3800円の梅の花膳。嶺岡豆腐、湯葉揚げ、生麩田楽など、「梅の花」の料理をよく知る方々ご推薦の品が全て揃っていたからこれにしたのだ。
我々の食べる速度にあわせ、タイミングを見計らってお料理を運んでくれるので、美味しいものを美味しい温度でいただくことができる。
食べて、飲んで、話して2時間半。
多少関東風味で醤油の味が強い感もあったが、とても美味しい豆腐料理だった。

 


2001. 5. 5

翠條さんに誘われて、観劇&美術鑑賞に出かけた。
本日の芝居は、西澤保彦さん作・匠千曉シリーズからキャラクターを借りて、LEDという劇団が落語を織り交ぜオリジナルストーリーを展開するもの。
西澤さんご本人が上京なさってのオフ会もあるという豪華な日だ。
開演は6時半なので、それなら、とばかりに見に行ったのが、上野は東京芸大美術館で6月10日まで開催されている『よみがえる日本画展──伝統と継承・1000年の知恵──』。
150近い展示品は、日本の文化財保護の出発点隣った法隆寺金堂壁画の模写に始まり、天候などの影響でどうしても劣化を免れ得ない建造物に描かれた絵画の模写、巨匠たちによる名画の模写から海外の美術品の模写、若手作家たちの模写、原本との比較に、修復の課程の例示、学生たちの研究結果に加えて、コンピューターを使ったデジタル修復にまでおよび、その数は150近い。模写などは、原本を忠実に模しているのだがその描き手によってやはり微妙な線や色に個性があって面白かった。
見終えて、しみじみと思った。
模写も、修復も、ここまでくれば芸術だと。
鑑賞すること2時間半。そうして上野を後にした私達は、日本橋三越前へと向かった。
芝居に備え、軽く食事を済ませて『お江戸日本橋亭』へ。
前を行く人たちの背中が気にかかる。「目的地、同じだよね」。
ここで、図らずも、思いがけない再会を果たすことに、なってしまった。
自由席だったので、整理券をゲットするべく並んでいた。
と、入り口の方から歩いてくる人影。お一方はおそらく西澤さんご本人、隣りに幹事で漫画家の野間美由紀さん。その、隣の人物に。
どうにも見覚えがあったのだ。
他人のそら似というには似すぎている。まさか、いやでも。
見つめていると、向こうもこちらをちらっと見た。視線がかち合った。途端。
「…………狐ちゃん(仮名)?」
「やっぱり…………」
──大学時代の友人だった。
「何でここにいるの?」
と問われて
「それはこっちの台詞だって」
逆に問い返した私に、彼女は答えた。
「あたし、西澤さんの担当。」
チカラが抜けた。思わず道路に座り込んでしまった。
思わぬ同窓会となった、それもとても楽しく嬉しかったけれど、LEDの芝居自体も、演芸場という場所と落語家さんとの共同企画を巧く生かし、西澤さんのキャラクターを軸に動かしながら手品や落語や切り絵を織り交ぜたオリジナルストーリーで、落語も一席楽しめる、とてもテンポのよいモノだった。
私はオフには出席はしなかったので早くにお別れしたけれど、楽しい1日でした。
誘ってくれた翠條さんに感謝!

 


2001. 5. 3

西鉄パス乗っ取り事件から、1年が経った。
被害に遭われた方々は、犯人の少年の、行為は許せないけれど、そこに追い込む環境を作ったのは自分達大人だ、という思いも抱いて、この1年を過ごしてこられたのだという。
1人を死なせ数人の方に怪我を負わせた少年は、今、京都医療院にいる。
逮捕当時、反省も後悔も見いだせない言葉を放った彼の、今、声を聞いてみたい。

 


2001. 5. 1

またはまってしまいそうな番組が始まった。
4月から9ヶ月連続の月イチで放送される、N○Kスペシャルの新シリーズ
『宇宙 未知への大紀行』。
第1回目は天体衝突、だったのだけれど。
宇宙から飛来して地球に破滅的な影響を及ぼすだけかと思っていたそれが、実は鉱物資源を生み出すきっかけであったり、生物の体を形作るアミノ酸の供給源だったり、進化を促す契機になっていたり。
天体衝突の増減のメカニズムまで教えてくれて、相変わらず中身の濃い番組枠である。
これから、9ヶ月。
雅楽の音色をバックにしての宇宙への『大紀行』は、きっと、とても楽しい。

 


 

 

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