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2001. 3. 30
毎年恒例の会社の花見。
今年は週明け早々満開宣言が出たせいで、慌てて幹事さんが日程を決め、取り仕切って、ほとんど突発で開催された。
いつものように前日から料理の仕込みが始まる。有志の手で作られる、今年のメインメニューはおでんに豚汁。このうち前日から仕込むのはおでんだ。大根やジャガイモの下ゆで。結び昆布。こんにゃくの灰汁抜き。餅入り巾着だって手作りである。夕方になる頃には社内に良いにおいが漂っていた。
明けて30日にはもう朝から花見料理の香りに食欲を刺激されまくりである。そうして日が落ちた頃、やはり有志が朝から頑張って取ってくれた場所で、花見の本番が始まった。
開花から満開までが早かったからか、前日が雨だったからか、それとも世間様では『年度末』だからなのか、例年になく人出は少ない。妙に静かで、その分独占気分が味わえる。
枝が広がっているおかげで、見上げなくても花が目に入る。見上げても、もちろん桜。私達の手元はランプが照らし、空に目を移せば細い三日月。
気温は低くて、途中から風も出てきて、確かに寒かったけれど、料理は美味しいし花は綺麗で。いつもの通り15分少々で撤収作業を完了し、会社に戻ってから、また少し飲んで食べて話して。
いつもの通り、楽しい花見だった。
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2001. 3. 28 Part 2
国の特別名称にしていされている某日本庭園が、築園300年を迎えたのを記念して、枝垂れ桜の夜間特別ライトアップを29日まで行っているので、せっかくだから、と見に行った。
普段は夜間の公開をしない庭園で、照明も乏しいため、夜間ライトアップ公開されていたのは一部のみだったが、それでも、闇に浮かび上がる満開の枝垂れ桜は圧巻だった。
枝垂れる枝に、花に、労せず手が届く。見上げればほの白い、淡く紅を帯びた桜が空を覆う。『桜の花に包まれる』という感覚は、枝垂れ桜独特のものだ。
知る限り初めての夜間公開で、満開というのも手伝ってだろう、人の多さに苦笑しつつ、気の済むまで眺めて帰途についたが、入園までの15分ほどの待ち時間や人混みを差し引いても、見て良かったと思う花だった。
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2001. 3. 28 Part 1
薬害エイズの被告人として告訴されていた安部英被告に、無罪の判決が下った。
1983年には既に危険性が指摘されていた非加熱血液製剤を血友病患者に投与し続けた、彼はその第一人者だ。
裁判官は、検察側に立った医療関係者の証言を、信憑性に欠けると、否定したそうだ。
ならば、彼自身が報道陣や部下に向けて言った言葉はどうなのだ。映像として、文書として、記録に残っている、明らかに危険性を知っていたと思わせるそれらは。
判決はいう。
「事件の結果は誠に悲惨で重大だが、被告を処罰してほしいという要請を考慮するあまり、犯罪の構成要件の範囲を広げてはならない」と。当時、血友病に関わる医師たちの大半に危険性の認識が浸透しておらず、安部被告だけに責任を帰すことはできないと。
結構だ。
原告団と検察は控訴するという。
考えてもらおう。行政にも、専門家にも。生命を預かることの意味と、重さを。
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2001. 3. 24
上野の東京都美術館で25日まで開催の『鑑真和上展』に行ってきた。
10年がかりの唐招提寺金堂修理の開始を記念しての展示会である。普通なら年に3日しか拝観できない鑑真和上坐像をはじめとした国宝・重文の数々が見られるのだから、行かないのはもったいないと思っていた。2ヶ月近く開催されていたのだからもっと早くに行ければよかったのだが、週末用があったり眠気に負けたりで今になってしまったのだ。
午後になど出かけようものなら恐ろしいことになるのは目に見えていたので朝10時に上野に着くように出たのだが、正解だった。その時点で1時間待ち。入場できたのは11時も近くなっていた。
入ってすぐ出迎えてくれたのは四天王立像と梵天・帝釈天立像。奈良時代に作られたもので、表面が多少はがれているせいもあってか、どことなし素朴というか、荒々しいというか、そんな顔立ちをしていた。
そこから東征伝絵巻5巻を眺め、順路に沿って進めばすぐに金箔や細やかな装飾で飾られた舎利厨子と、それに真向かって、鑑真和上坐像。
1300年を経たその坐像は予想していたよりも大きかったけれど、閉じられた目や、微妙に中心からずれて結ばれた印が、「本当に鑑真和上の姿を映したんだ」と思わせてくれた。国禁を犯して海を渡り、視力を失ってまで日本に来たというその人の、穏やかな中に秘めた激しく厳しいものまで感じさせてくれるような、像だった。
そこから、経文、曼陀羅、仏像、仏具、寺院の装飾品や絵画、唐招提寺の四季の写真を一通り見て、外に出た頃には12時になっていた。
早咲きの桜を眺めつつ上野公園を散歩しながら、いつか『展示会場』ではなく『在るべき場所』にある仏像たちを見たいなと、思った。
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2001. 3. 22 野獣郎見参!
翠條さんや祐さんがはまっているというので気になっていた劇団☆新感線。
面白そうだったのと、なんとかチケットも取れたのとで、『野獣郎見参!』を見てきた。
感想、浮かぶままに言ってみると。
音がすごい。体に響いて気持ちいい。
殺陣シーンが多くて、どれもがスピード感に溢れていてカッコイイ。
随所で飛び出すギャグが楽しい。
で、ストーリーも面白い。(←それがラストなのか自分)
「男は殺す、女は犯す、金に汚く己に甘い」が決め台詞の主人公も、脇を固めるキャラクターも、やってることは無茶苦茶かも知れないが、何というかある意味自分に正直で芯が通っていて、悪役でも見ていて面白いのだ。
2月に祐さんにビデオを見せてもらったので結構気に入っていたのだが、ここの芝居はライブに限ると、しみじみ思った。
どの芝居にも、ライブやコンサートでも映画でも言えることなのだが、あの音を、あの雰囲気を、間近で楽しまないのは勿体ないのじゃないかと。
うっかり芝居にはまるとチケット貧乏になること必至なのだが、まあいいかな、とも思ったり。
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2001. 3. 21
宇和島と高知で、ソメイヨシノが開花したそうだ。
宇和島では平年より4日、去年よりやはり4日早い開花、高知は平年より2日、去年よりは6日、早い開花だとか。
東京で咲くのは月末だろう。
そうしてソメイヨシノの桜前線が日一日と駆け上がり、山桜、枝垂れ桜、八重桜と咲く花を変えて、この国は徐々に春へと向かう。
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2001. 3. 17
16年前、若干19歳でショパンコンクールで優勝して、鮮烈にデビューしたピアニストがいた。
スタニスラフ=ブーニン。
その人のコンサートに、翠條さんと行ってきた。
デビュー直後のアルバムを友人に聴かせてもらって以来、好きなピアニストだが、生の演奏を聴くのは実はこれが初めてだ。
最高の音響を誇るサントリーホールで、どんな音を響かせてくれるのか、楽しみだった。
演目は全てショパン。大好きな『英雄』ポロネーズも入っている。
本当に、本当に楽しみにしていた。
そうしてステージに現れたブーニン氏は、素晴らしい音を聴かせてくれた。
マズルカ。ワルツ。ポロネーズ。デビュー当時よりも幾分柔らかい演奏で、でもやっぱり『ブーニンのピアノ』で。
生で聴いた『英雄』ポロネーズ、好きな曲だけに感動はひとしおだった。
アンコールでも楽しませていただいた。
2曲目を弾く前に、彼はファンからもらった花束を2つ、高音部のピアノ線の上にぽん、と乗せた。そうしておいて、ゆっくりと、それも途中から、『ノクターン』を引き始めた。
曲の途中、件の高音部を使わない部分から。
更に弾き進んでその高音部を使うあたりにきても、巧みにそのキーを避けながら綺麗に、違和感を覚えさせることなく演奏を続け、そうして始まりと同じく曲の途中で演奏を終えたのだ。
こんな芸当、出来る人はそういないのではなかろうか?
やっぱりこの人の音が好きだと、再認識した2時間だった。
それにしても日本の聴衆のマナーはすごい。氏がステージに姿を現すと拍手がホールを包むのに、着席した瞬間に、文字通り針の落ちる音まで聞こえそうなほどの静寂を作り出すのだ。
ひとりだけ、本当にたったひとり、マナー知らずの馬鹿女がいて、演奏の途中でビニール袋や紙袋をガサガサ言わせた時には(それも他の人に注意されてもやめなかったのだその馬鹿は)心の底からその女を座席ごと異空間に吹っ飛ばしたいと思ったが、それさえなければ最高のコンサートだった。
蛇足だが、サントリーホールのP席はいい。
2階席で値段は安いのにステージに近くて、おまけに勾配が急だから演奏者の手元までしっかり見える。
オススメなので、参考までに。
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2001. 3. 14
夕方ラジオから流れたニュースに思わず目を閉じた。
タリバン勢力の外交担当閣僚が宣言したそうだ。
バーミヤンの2体の石仏の破壊が13日に完了した、と。
「どうか」と祈るような思いで呟いた、その願いは彼らに届かず、響かず、叶わなかった。
そしてまたひとつ、未来に残るはずだったこの星の遺産が、消える。
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2001. 3. 12 なごり雪
朝ドアを開けたら雪が降っていた。
なごり雪。
西日本各地で雪が降ったと聞いて、「3月なんですがねぇ」などと他人事のように言っていたら、これだ。
それでも季節は確実に進んで、沈丁花が香る。
月末には桜が咲く。
なごり雪の季節が過ぎれば、春が来る。
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2001. 3. 11
かの失言暴言大魔王が辞意を表明したそうだ。
正式な辞意表明は予算案や予算関連法案が一通り成立した4月上旬になるらしいが、それでもなんだかほっとするのは多分私だけではないはずだ。
女性問題で退陣した宇野氏、夜中にワケの判らない法案をひっさげてしょっちゅう会見をやらかしていた細川氏、贈収賄だ外交問題だ右だ左だと色々ネタを提供した首相は過去にいくらでもいるが、本当の意味で『何を言い出すか、何をしでかすか判らない』と国民をはらはらさせたのは、私の記憶にある限りでは森氏くらいだ。
次の首相は誰になるのか。
新首相とそれを囲んで立つ閣僚や官僚がどんな態度を取るのか。
永田町や霞ヶ関に私たちの声を聞く気があるのかないのか、みんな見ている。
「いい加減にしろよ、おい」と、人の目を政治に向けたのは、ひょっとしたら森氏の隠れた功績かも知れないが。
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2001. 3. 7
鬼束ちひろの1stアルバム『INSOMNIA』を買いました。
ツボりました。
そして同時に「ヤバい」とも思いました。
何がヤバいって……どれを聴いても(『月光』以外)八戒さんに聴こえるアタリが(^^;)。
というのはまあ脇に置くとして。
個人的に収録曲はどれも好きだ。歌詞も好きだしメロディも気に入っている。
が、ひとつだけ、このアルバムに不満が。
やけにカワイイのである。ジャケットも中のブックレットも。
基調が白とピンク、なのだ。
誰の好みか、ひょっとしたら鬼束サン本人の意見を採用したのかもしれないが。
あの『月光』の歌詞の下にピンクのハートが散っているというのはどうかと思うぞ東○EMI(^^;)。
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2001. 3. 5
アフガニスタン国内を実力支配するイスラム原理主義勢力タリバンの、バーミヤンの大仏に代表される同国内文化遺産の破壊が、住民によって確認されたそうだ。
5世紀頃に造られ、1300年前に玄奘三蔵も仰ぎ見たはずのバーミヤンの大石仏は、高射火器で砲撃されている。
タリバンの代表者は「破壊はあと2日で終わる」と言い放ったという。
イスラム教は偶像崇拝を認めない。
それはイスラム教の教義で、守るのもムスリムの自由だ。
だが、ただ自分たちの主義を主張するためだけに他の宗教を否定して、1500年の人の祈りを破壊する自由はないはずだ。
宗教が違ってナニが悪い。信じる神が違って何がいけない?
人智を越えた存在への畏怖と祈りから始まり幸せを願うはずの宗教が、集団になることで時にこんなにも暴力的に変化する。
『宗教』というものを苦々しく思うのはこんな時だ。
このままでは地球の記憶が、人の祈りの結晶が、この星の遺産が、消える。
喪われたものは戻らない。
ユネスコは、仏像破壊の即時停止を求める署名活動と、遺跡保護のための募金運動を開始したそうだ。(ちなみにこれらの活動の問い合わせ先は日本ユネスコ協会連盟事務局・Tel:03-5424-1121)
だが、今破壊を行っているタリバンに、この活動が届くのかどうか、判らない。
誰か。
人の力で壊されてゆく、人の祈りの結晶のこの星の宝物を。
守る力を──タリバンの攻撃を止めさせる『力』を、私に、そして同じくこの事態を嘆く人たちに、くれないか。
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2001. 3. 3
一昨年の3月3日、この茶寮を開店させた。
去年の3月3日は、亡くなった祖母の葬式に出席するのに朝一番早い飛行機に乗るため徹夜していた。
今年の3月3日は、何事もなく、過ぎた。
「何でもない日バンザイ。」
と、呟いてみたくなったりも、する。
そういえば、「サヨウナラ」の手紙とお棺に入れるものリストなどというある意味とんでもない置きみやげを残して逝った父方の祖母もツワモノだったが、その更に数年前に逝った母方の祖母も相当のものだった。
夏の終わりに体調を崩して入院してからほぼ半年間、最後は寝たきりになり惚ける気配を見せたりもしたが、最期の最期は、見舞いに訪れた曾孫を「帰りが遅くなると道が混むから」と笑って追い出し、更には用事を頼んで付き添いもすべて部屋から出して、誰もいなくなった10分間に最期の旅に出た。
親族の誰も間に合わなかったのはもちろん、看護婦も医師も間に合わない早業。
間に合わなかったと母や伯母、伯父は悔やみ嘆いたが、間に合わせなかった、のではないかと、私は今でも時々思う。
世間様は雛祭りだというのに、ナニをこんなにしみじみと振り返っているんだか、自分(苦笑)。
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2001. 3. 1 訂正と、追加と。
2月28日の私淑言を読んだ別の先輩から、つっこみが入った。
曰く、
「間違ってるよ。あのヒト40ちかいんじゃなくて40過ぎてるよ」
というワケなので、訂正。
40ちかい男がそんなコトしてもちぃとも可愛くない
↓
40過ぎの男がそんなコトしてもちぃとも可愛くない
しかし、それを聞いた件の先輩はこう宣った。
「そうか、40ちょっと前も40ちょっと過ぎも、40近いのに変わりはないもんな! よしこれからそう言おう♪」
──まあ、気持ちは判らんでもないですが。
「………………。」
私が無言で見返すと、スッと俯いて呟いた。
「……そんな一つ二つサバ読んでどーすんだオレ。なんか空しくなったぞ今」
実際に言って空しくなる前に我に返ってよかったですね先輩。
そして「面白そうだから」とまたしてもネタに使ってしまう鬼畜な後輩なのだった(自爆)。
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