2000年8月の私淑言


2000. 8. 30

美味しいモノを見つけた。
インターネットで注文できる『鰹のタタキ』。
職場の上司や先輩方から、度々土産物のリクエストで鰹のタタキがあがっていたこともあり、試しに注文してみたのだが。
これがなかなかのアタリ、だったのだ。
ちゃんと鰹の身に脂がのっている。柚酢のきいたタレの味もいい。刻みネギやにんにく、大葉(青じそ)がたっぷり薬味としてついてくる。
これならオッケー、と、本場・土佐の人間である私が合格点を出せる味だった。
会社で大皿に盛りつけて供したのだが、大好評だったのは言うまでもない。

いつだったか居酒屋で、誰かが鰹のタタキを頼んだことがある。
出てきたモノは確かに『表面を焼いた鰹』だったが、肝心のタレがない。かかってもなければ別皿でついてもこない。「タレは?」と訊いたら醤油をつけて食えと言われた。
あの時は「ざけんな」と本気で思ったものだ。

今回注文した鰹のタタキは、送料もかかるから確かに割高かもしれない。
が、そこらの店で『似非・鰹のタタキ』を食べさせられるより、遙かにお腹も舌も満足すること請け合いである。

利用したのは、ここ(↓)。
南国土佐・井口フルーツファーム(http://www.nangokutosa.com/)
興味が湧いた方、是非どうぞ。

 


2000. 8. 29

最近新聞を見る度に「おいおい」と思う。
新聞、それもテレビ欄の次。1面、テレビ欄、2−3面に次ぐメインページだ。
普段ならコンサート・ライブ情報などが幅を利かせるページの下部を、最近よく飾るのは、商品回収のお知らせとお詫び、である。
7月の雪印に始まって、ヤマサキ、デルモンテ、その他色々。
異物混入を黙殺、もしくは極秘処理されるより遙かにマシだが、それでも今年は多すぎる。
ひょっとしたら毎年このくらいはあって、今年の雪印の事件で消費者が敏感になり、同時にその反応に業者が対応しているだけ、なのかもしれないが。
過去30年に渡ってリコール隠しを全社的にやっていたらしい三菱自動車は、とうとう警察に踏み込まれた。
「リコールで会社のイメージがダウンするのは避けたかった」
と上層部は言っているそうだが、ダンマリを決め込んで事故を起こしてそれでも隠しに隠して、挙げ句警察に踏み込まれる方が余程悪印象ではないのか。

ひとつウソをつくと、それを隠すためにウソを重ねることになる。
ウソで大きくなった雪だるまは、いずれ自分の重さに耐えかねて、崩れて行く。
己が肝に銘じる今度の事件である。

 


2000. 8. 27

本日付けの新聞に丸々1面使って、みょーなモノが載っていた。
一瞬何かの模様を一面に散らした企業広告かと思ったが、どうも違う。
不思議に思って、ここでやっとページの一番上に目をやって、納得した。
そこにあった見出し──夏休みの天気。
つまり、北は北海道から南は沖縄まで、7月20日から8月25日までの天気を、全部、この夏の気候の解説付きで掲載してあったワケだ。
そーいやー、あったよなぁ。『夏の子供』とかいう名前の夏休みご報告冊子。
毎日忘れずにちゃんとつけていれば後の苦労はないのだが、ご他聞に漏れずそうマジメに絵日記だのなんだのつける子供ではなかったので、記録し忘れた分を埋めるのにいささか困った記憶がある。
私が子供の頃は、それこそ新聞をさらって友人のと照らし合わせて欠けた分を補ったモノだが、今は新聞やニュース番組のお天気コーナーでこんな風に教えてくれるのであるらしい。
「楽でいいねぇ」と思うと同時に、「苦労しろよこのくらい自分で」と思ってしまうのも本音ではある。

どうでもいいけど、この『夏休みの天気』、当然ながら局地的な雷雨なんかは載ってない。そこいらへんを指摘されたらどーするんだ、と思う私はやはり天の邪鬼だろうか(笑)。

 


2000. 8. 24 幻の月下美人

数年前のことだ。
母親が、嬉しそうに電話をかけてきて、言った。
「あのね、月下美人もらったの! でね、蕾がついたのよー! 楽しみー。咲いたら写真撮って送ってあげるから待っててね♪」
これを聞いた私は素直に喜んだ。何しろ、見たことがないのだ、月下美人の花を。
昔、叔父が育てていて、毎年のように鑑賞会をやっていたというのだが、それは私が生まれる前のことだ。
噂に聞く月下美人。一夜だけ咲いて散る花。その幻の月下美人が実家にあるという。私の期待は高まった。
そうしてしばらくの後。母から、約束通り写真在中の手紙が届いた。
が。
ウキウキしながら封を切って、写真を手にして。
私は固まってしまった。頭が真っ白になるとはこのことか、と思った。
実際はほんの10秒ほどだったに違いないが、立ち直るまでにかなりな時間を要したように思えた金縛り状態から抜け出して、おもむろに受話器を取り上げ実家に電話をかける。
電話の向こうの母は、嬉しそうだった。
「あ、届いたー?」
「……届いたけどね。」
「綺麗でしょ月下美人。どお? ……あれ。なんだか元気ないね」
こちらの脱力を不審と思う、母はあくまでのーてんきだった。
「おかーさん。あれ、ホントに月下美人だと思う?」
呻くように訊いた私に母はのほほんと答える「え、違う?」
──違うだろう。コレはいくらなんでも。思わず叫んでしまった。
「あのなぁっ! どーこの世界に昼日中から、しかもショッキングピンクの花を咲かせる月下美人があるかーー!!」
ちなみに、私が生まれる前に行われていた『月下美人鑑賞会』のことを教えてくれたのは、誰あろうこの母である。
『実家で月下美人』は、こうして幻に終わった。
が、こんなすっとぼけな父母のところにもらわれなくて、月下美人はシアワセだったかもしれない。件のショッキングピンクの花を咲かせるクジャクサボテンは、今も実家で生きている。

 


2000. 8. 19 探検・イクスピアリ

関西から遊びにくる某嬢の迎撃オフで、先日舞浜にオープンしたイクスピアリに行ってきた。
事前に入っていた情報によれば、お台場のビーナスフォートや渋谷のマークシティよりも店の種類が多くて分野も比較的多岐に渡っている、とのこと。万華鏡の専門店などもあると聞いていたので、オフの楽しみが倍増していた。
イクスピアリに入って、まずはお茶、ということで、地下のフードコートに向かう。土曜日というのもあってか混んでいて席を確保するのに苦労したが、なんとか全員揃ってテーブルにつき、話すこと1時間半余り。
イクスピアリ探検はここからである。
まず向かったのが万華鏡専門店『カレイドスコープ昔館』。小さな店内に並んだ万華鏡は、どれも手作りの一品もので、形も作りも変化に富んでいる。一月ほど前にイクスピアリに来ていた友人達は「ずいぶん品数が減った」と言っていたが、それでも万華鏡の真価を知るには十分な数があったように思う。
次に入ったのがパワーストーンの店。一見ただのカラーストーンアクセサリーの店に見えるが、でもって実際アクセサリーが沢山あるのだが、そこはやはり『パワーストーン』の専門店。値札とは別に、普通のアクセサリーショップにはないラベルが視線を惹き付ける。曰く、「血行をよくする」「体調を整える」「潜在能力を引き出す」。思わず爆笑しそうになったのだが、とある御仁はそのうちの『血行をよくする』ガーネットのペンダントをお買いあげ。効果のほどはどうなのか、後日の報告を待ちたいところである。
その次は画材と文具の店。一通り画材やレターセット、万年筆やガラスペンを見て回ったところで、全員の足が止まったのが、店オリジナルのインクの前だった。ブルームーンやキールロワイヤルといったカクテルの名前にあわせて作られたカラーインク達。一行の一人が5色買うのに釣られて、私も『ミッドナイトスカイ』という名前のインクを買ってしまった。綺麗な色だし、買ったからには使わないと勿体ないよなぁ、やっぱり。
その後はディズニーストアに立ち寄り、ぶらっと巡り歩いて、吹き抜けのホールのようになったところで立ち話。全部を探検というわけには行かなかったが、それでも満足のゆく数時間だった。

オフ会自体はその後銀座に場所を移してイタリアンの夕食。そこでもやはり色々な話題で話が弾み、食べて飲んで話して気が付けば10時も近くなっていた。
私はそこで別れて帰宅したけれど、残ったメンバーは結局『朝までコース』を辿ったらしい。タフだなぁ……。
ともあれ、とても楽しい1日だった。

 


2000. 8. 16 Summer 2000・帰省

今年の夏は、帰省する。3月に祖母が亡くなった時点での決定事項である。
そろそろ兄たちと空港に迎えに来て貰う算段をしようかと思っていた11日、電話をかけてきた母が「良かったわねぇ、台風、逸れそうで」と宣ってくれたり(その『逸れる先』が私の住む関東だということをきっちり失念しての言である)、出発の朝、飛行機の時刻表を見間違えた母と兄夫婦がそれぞれに「あんたが乗るって言ってる飛行機、ないよ!?」と朝もはよから電話をかけてくれたりと色々あったが、雨にも降られず無事の帰省となった。

墓参りの日は朝が早い。暑くなる前に墓参りを済ませようと、6時半に起こされる。
みんな同じ事を考えるため、墓地は朝から大賑わい。久々に顔を会わせた人達がひとしきりご無沙汰の挨拶を繰り広げていた。
うちの人気者は当然ながらチビ2人。4歳になる甥と1歳になる姪である。顔を合わせる人達は兄や私が子供の頃から知っている人達ばかりなので、そもそもの感心のしどころが違う。
「まあ〜、もうこんな子供のいるお父さんになったのねぇ。ちっちゃかったのに」。
田舎で無茶は出来ない。絶対に。
昼前に従兄の家で、住職さんに来ていただいて読経してもらう。その後はお決まりの宴会。
そこでもアイドルは姪だった。物怖じしない。人見知りしない。とりあえず誰にでも近づいて、あわよくば抱き上げて外に連れ出してもらおうと愛想を振りまいていた。
当然私にも来る。気が付けば横にいる。肩に小さな手がかかっている。いつの間にか膝の上に座り込んでいる。「抱っこ。でもって、外」。無言の圧力で迫ってくる。筋肉痛にならなかったのが不思議なくらいに、彼女のおねだりパワーは強力だった。
夜にはやはり従兄の家の前で、盆踊り。地域に伝わる盆踊りというのがあって、それを踊るのだ。ゆるやかな太鼓と鉦と歌のリズムにあわせて踊るそれは、やはりふりも単純ではあるのだけれど、ゆるやかである分舞い手の所作が見事に表れる。足の進め方ひとつ、手の動きひとつ取っても、単純なだけに難しいそれを、私はまだ踊れない。
いつかそれを踊れるようになりたいと思いながら、東京に帰ってきた。

忙しいなりに楽しかった数日。心残りは幼なじみ達と会えなかったこと、だろうか。

 


2000. 8. 8

今回の私淑言は、峰倉かずやさんの『最遊記』をご存じない方にはワケが判らないと思うので、そういう方は読み飛ばしていただきたい。

仕事から帰ると、ポストに2通、郵便物が届いていた。
1通は、友人からの暑中見舞い。私のご贔屓の八戒さんが麗しい笑みを浮かべていた。
そしてその葉書に寄り添うように、葉書を支えるように、ぴったりくっついてポストにいたもう1通は──最遊記の全サテレカ、だった。
既に2日に八戒さんテレカが、5日には悟空が届いていたので、これは悟浄か三蔵である。
どっちだろうな、と思いながら表を確認して……
爆笑した。
届いていたのは、悟浄
「ああ、アンタやっぱり情緒不安定な薄幸美人さんが好きなんだね」などと阿呆なことを考えてしまった夜だった。

 


2000. 8. 4

残業して帰ってやっと夕食にありついた時、いきなり電話が鳴った。
一瞬無視しようかと思ったが、帰省の日程をあわせようとしている兄からかもしれない、と思い直し、受話器を取った。途端に後悔した。
「遅くに申し訳ありません。わたくしライフプランニングの鈴木と申しますが」
既に時刻は夜の10時に近かった。確かに遅い。そして明らかに勧誘電話である。それだけで十分イヤになった私に、電話の向こうの彼は屈託なく続けた。
「あの、ご主人様でいらっしゃいますか?」
(………………おい、またこのパターンか?)
「…………まあ、そう言おうと思えば言えますね。」
しばらく黙り込んだ後こう答えると、
「あ、おひとり暮らしでいらっしゃいますか。ただいまそちらの地域でアンケートのご協力をお願いしているんですが、よろしいでしょうか?」
よろしくない。こっちは仕事帰りで空腹で、やっと夕食を食べ始めたところなのだ。そんな得体の知れないアンケートに答える暇があったら自分の胃袋を満たす方が余程有益である。
だが、それをそのまま言っても相手に通用するはずもないので、とりあえずこう答えた。
「いえ、すみませんちょっと今時間がないので」
ところが相手は諦めない。
「あっ、すみませんそれじゃ最後にひとつだけ聞かせて下さい。20代前半ですか?」
(『最後の質問』で年齢訊いてどーしよーってんだよ?)
「ちがいます。」
「じゃあおいくつですか?」
「……(お前さっきので最後っつっただろ!)すみません本当に時間ないんで失礼します」
「これで最後ですよ?」
「失礼します!」
うんざりしながら電話を切って、夕食を食べながらふと考えた。
勧誘電話をかけた相手に思いも寄らない返事を返されたら、向こうはどんな反応を示すのだろうか。
思いも寄らない返事。そうたとえば
いきなり「ふっふっふっふっふっ……」なんて嗤い声が聞こえたりとか。
「数えきれないほどある電話番号の中からこの私の番号をあなたが選んだ、この奇跡! その奇跡を神に感謝しつつご一緒に神について魂について語りませう」とか。
時間がないと言う相手に「お時間取らせませんから」と言った瞬間に「バカヤロウ、お前のせいで行くのが遅れてあいつにもしものことがあったら責任取ってくれるのか!」とか。
英語やドイツ語で返事をされたりとか。とか。とか。
今度暇な時にかかってきたら、どれか試してやろうと思う鬼畜な私である。

どうでもいいけどライフプランニングの鈴木さん。
結局最後まで私を男だと信じて疑ってなかったな。

 


2000. 8. 1 そのドアの向こうのきみ

先日多事拾遺物語掲示板を席巻した『季節ネタ』。
自分でやらかしてしまった。
怖がる方ではない。怖がらせる方である。

職場で、ドアを開けようとしたら、その向こうで人の気配が──正確には足音が、した。
私の側からは押し開けるそのドア。いきなり力いっぱい押し開けたら、ドアの向こうにいる人はきっと驚くに違いない。ひょっとしたら勢い余ってドアをぶつけてしまうかも知れない。
そう思った私は、それはゆっくりと、静かに、そぉーっと、ドアを開けた。
の、だが。
静かすぎたらしい。
互いの顔が見えるくらいまでドアが開いたところで、向こう側にいたMくんが、引き気味の体勢から言った。
「……なんだ、狐さん(仮名)かぁー……。あんまり音がないままスゥーって開くから、俺、何がドア開けてるんだろうってちょっとびびっちゃったよー」
…………そんな、『何が』ってアナタ(^^;)。
いくらうちの会社には『いる』からって、夜まだ浅い19時に。
「えー、でも。いきなりバーンッ! って開けてぶつけちゃいけないと思って」
一応釈明してみたが、どうやらマジメにコワかったようで、
「うん、ありがとう。でも、お願いだからもうちょっと勢いつけて開けて? 本気で背筋寒くなったから」
と頼まれてしまった。
悪かったよMくん。今度から気を付けるよ。
それにつけても、力加減は難しい。(←そうか?)

 


 

 

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