Richard Strauss
ARIADNE AUF NAXOS

Oper in einem Aufzuge nebst einem Vorspiel
Text von Hugo von Hofmannsthal

GROSSES FESTSPIELHAUS
Neuinszenierung 18. August 2001, 19.30 Uhr
Musikalische Leitung Christoph von Dohnnyi
Regie und Dramaturgie Jossi Wieler und Sergio Morabito
Bhnenbild und Kostme Anna Viebrock
Licht David Finn
Der Haushofmeister Andre Jung
Ein Musiklehrer John Brcheler
Der Komponist Susan Graham
Der Tenor / Bacchus Jon Villars
Ein Offizier Michael Kristensen
Ein Tanzmeister Jeffrey Francis
Ein Lakai Friedemann Roehlig
Ein Perckenmacher Markus Eiche
Zerbinetta Natalie Dessay
Primadonna / Ariadne Deborah Polaski
Harlekin Russell Braun
Scaramuccio Heinz Goehrig
Truffaldin Franz-Josef Selig
Brighella Gert Henning-Jensen
Najade Diana Damrau
Dryade Alice Coote
Echo Martina Jankova
Wiener Philharmoniker
Solo-Klavier: Ann Beckman
Harmonium: Richard Wien
Celesta: Frank Fanning





今回のザルツで最も期待するプログラム。平土間1列目真中のかぶりつきで思う存分
楽しむことができました。もう言葉を失うほどの素晴らしさで、今回のオペラでベス
ト間違い無しの内容でした。プロローグの舞台は矩形の白くて大きな部屋。左側に階
段に繋がる間口があって、正面にドア。右手はショーウィンドウのようなガラス張り
の大きな空間が設けられていました。そして中央には旅行カバンた沢山集められてい
ました。時代設定は現代です。で、登場人物達は全員目隠しされて左手の階段を上が
って来ました。おそらく依頼人は居場所を知られたくないのでしょう。そしてそれぞ
れが目隠しを外してドラマが進んでいく訳ですが、プロローグに登場する人物たちは
広い部屋に点在して、それぞれが同時に演技を進行していくという手法が取られまし
た。

まずナタリー・デッセイ演じるツェルビネッタは下着に近いカラフルな衣装。ちょう
どスカート横が割れているのでとてもセクシーでキュートでした。こんなに悩殺的な
ツェルビネッタを見るのは初めてですが、彼女はとても美人でプロポーションが凄く
良いのですね。4人の道化達はツェルビネッタの遊び友達のようでかなり怖そうな厳
つい雰囲気。彼女とは性的関係にあるようで、かなり挑発的なシーンが描かれました。
注目はスーザン・グラハム演じる作曲家。やはり彼女はスラックスがとても似合って
いて、目がねをかけるとかなり知的。ツェルビネッタと上手くコントラストしていま
した。ポラスキは舞台左手で衣装を着替え始め、舞台の奥のほうの登場人物たちも下
着姿になって着替えるシーンが同時に進行しました。こういったキャラクターでドラ
マが進んでいきますが、演出はオペラというよりも演劇的でさすがにホフマンスター
ルを大いに意識させてくれました。プロローグも終盤に差し掛かった頃、踏ん切りの
付かない作曲家に苛立ったツェルビネッタが作曲家に抱きついてキスするシーンはか
なり刺激的でした。ちょうどこれによって作曲家もやる気を出したようにも見えまし
た。とにかくグラハムの歌が素晴らしすぎました。遠く離れたステージ奥からでもウ
ィーンフィルの透明無類の美しいサウンドと絶妙に響きあうのは絶品でした。さてプ
ロローグの最後はオペラと茶番劇のグループで睨み合いの対立が描かれました。つい
にはポラスキ演じるプリマドンナが道化の一人からキーボードを奪いとり、ツェルビ
ネッタの方に向かって床に投げ付けて壊すというシーンで幕となりました。

休憩に引き続きオペラの部分はプロローグと同じ舞台セットでした。テーブルと椅子
が何組も置かれていて、ナヤーデ、ドリアーデ、エコーはメイドとして調度品を磨い
たりしながら美しい歌を聴かせてくれました。アリアドネはステージ左の椅子にぐっ
たりと。ツェルビネッタはさらに刺激的にタンクトップに超ミニスカートという臍だ
し姿で道化達と戯れていましたが、彼女のアリアはとにかく凄かったです。その官能
的なコロラトゥーラに参ってしまいました。ここで爆発的な喝采となって一時休止。
そのあと道化達がツェルビネッタの下着やブーツを取ってしまうというシーンが続き
ますが、R.シュトラウスの素晴らしい音楽と上手くマッチしていて決して下品では
ありませんでした。デッセイがショーウィンドウに人形のように立ち振る舞ったりす
るシーンもあって、視覚的な美感覚と小編成のウィーンフィルの透明な響きと、ポラ
スキをはじめとする素晴らしい歌とがミックスして全く新しい美の世界が生まれたよ
うに感じました。

いよいよバッカスの登場ですが、正面のドアから現れたヴィラーズは真っ赤なTシャ
ツにジーンズ。まず彼の輝かしく強く逞しい美声に釘付け。ポラスキも情感豊かな素
晴らしい歌で、彼ら二人のドラマに目が放せない状態です。既にメイド仕事を追えて
帰宅しようとするナヤーデ、ドリアーデ、エコーも美しい歌で心を揺さぶりました。
やはりこの音楽は何時聞いても素晴らしいですね。今日のような豪華キャストで聴け
る幸せにめぐり合えたことに感謝。こみ上げてくる感動とともに幕となるのですが、
メイドの3人も帰宅し、バッカスは正面のドアから、アリアドネは左手階段を下って
エンディングとなったのです。ということで最後に二人は一緒ではなく、現実の離れ
離れになるのか、それとも夢だったのか謎を残しての演出でしたが、それはともかく
余りにも素晴らしい歌と音楽に卒倒寸前でした。オペラの部分を神話の世界としてで
はなくて、普通の有り触れた人間模様に置き換えているだけに現実味があるように感
じますが、こういった演出はダメという方がほとんどなのか、演出家が出てきた時は
圧倒的なブーイングでした。演出家が出ないときは地響きを立てての圧倒的大喝采。
それにしてもこれは面白い演出だったと思いますよ。神話ではなくて現実に神話があ
るのではと・・・
それからドホナニの指揮も素晴らしくて歌手と完璧にフィットするウィーンフィルの
素晴らしさ。コンマスはホーネックでハープ2台のうち一人は女性。チェロのトップ
は若手の方でしたが、ソロが絶品でした。シュミードルのクラリネットを始めピット
右側に配置した管楽器も絶妙でした。陶酔のサウンドと歌の妙が素晴らしすぎました。

(補足)
プロローグとオペラの舞台セットが同じ広間という設定は以前に見たチューリヒのア
リアドネにも似ていました。あの時は白いキュービックな室内という設定でしたが、
こういった同じ舞台セットを全幕通しで使うことは最近では多いと思いますが、特に
アリアドネの場合はプロローグとオペラの部分を連続してひとつの幕のように感じら
れました。オペラの部分でアリアドネが悲しみに疲れきった様子で水割りを作って喉
を潤す演出なども実に現実世界を感じさせてくれました。が、やはりアリアドネの物
語という何処か神話の世界も共存しているといった不思議な感覚でした。

プロローグの舞台の左側の壁に時計が、またショーウィンドウ奥には細長い台座に乗
った小さな胸像が幾つか後ろ向きにレイアウトされていました。これらは祝祭劇場の
ものをイメージしているようで、結果的に舞台ステージは祝祭劇場の分身として扱っ
ているのが面白いところでした。オペラでは胸像が無くなっていたのは何を意味して
いるのか、興味あるところ。とにかく劇場で働く人々の人間模様も見えてくるような
近親感を感じました。

今回の演出で面白いと感じたのはやはりアリアドネとツェルビネッタの二つの世界の
対比。夢より現実味のある舞台で繰り広げられたツェルビネッタはセクシーでエロス
(EROS)を象徴しているかのようでした。これに対してアリアドネはバッカスと
の愛に代表されるようにアガペー(AGAPE)そのもの。エロティっクな演出には
かなりの批判があったようですが、ある意味ではとても分かりやすくストレートな演
出だったのではないのでしょうか。特にこのオペラではアガペーはオペラ・セリア、
エロスはオペラ・ブッファと見なせるかも知れませんね。いずれにしてもこの演出で
はエロスとアガペーという二つの愛が絶妙なバランスを見せると同時に、音楽と歌の
圧倒的素晴らしさと一体となった素晴らしい公演だったと思います。