ザルツブルク日記 2000年8月19日
ゲルギエフ&ウィーンフィル〜『トリスタンとイゾルデ』

●ゲルギエフ&ウィーンフィル
WINER PHILHARMONIKER
GROSSES FESTSPIELHAUS
Samstag, 19.August 2000, 11.00 Uhr

Sergej Prokofjew, Symphonie Nr.1 D-Dur op.25," Symphonie classique"
Allegro
Larghetto
Gavotta: Non troppo allegro
Finale: Molto vivace
Alfred Schnittke, Konzert fuer Viola und Orchester
Largo
Allegro molto
Largo
  Pause
Igor Strawinsky, L'oiseau de feu (Der Feuervogel)

Winer Philharmoniker
Solist
Yuri Bashmet, Viola
Dirigent Valery Gergiev
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昨日のプローベではORFのTVカメラがステージ上に2台、客席左右に2台が
入っていた。今日の座席は平土間6列目のほぼ中央。ちょうど同じ列の右側4つ
めの席にもTVカメラが入っている。最初のプロコフィエフは昨日のゲネプロよ
りも素晴らしい。ヒンクをはじめとして全員が燃え上がるような力演を見せるの
である。あのチェロの躍動は惚れ惚れするほど気持ち良い演奏だ。それにあの甘
い木管の響きが堪らない。ゲルギエフの指揮もゲネプロとは違って起伏が大きく
なっている。彼はまるで楽員にインスピレーションを沸き立たせるかのようだ。

ヴァシュメットが弾くヴィオラ協奏曲もまた格別で渋い響きを堪能できた。休憩
をはさんで「火の鳥」では右側にいたTVカメラは撤去されていた。それにして
も拍手の度に客席に浴びせられる照明は眩しい。ちなみに明日8/20の公演はOR
Fで放送される予定だから、今日のTV収録は予備のためなのか。

火の鳥では透明なピアニッシモにも緊張感が込められ、聴くものを吸いこんでし
まう。次第にクライマックスが形作られるが、昨日ゲルギエフが練習を繰り返し
たトランペット・パートは素晴らしかった。舞台袖のトランペットとの掛け合い
は空間を羽ばたく火の鳥だ。原始を感じさせるリズム感にも圧倒されるが、ウィ
ーンフィルのトゥッティの緊張感は最高だ。もちろんゲルギエフの指揮も大きく
羽ばたく。スペードで聴かせたあの素晴らしさが「火の鳥」でも実現した。この
ライブCDが出ることを期待する。終演後、今年の春ベルリンほかでご一緒した
知人の方に偶然お会いしたのでランチへ行くことにした。





●トリスタンとイゾルデ
Richard Wagner
"TRISTAN UND ISOLDE"

Musiklaische Leitung : Lorin Maazel
Regie : Klaus Michael Grueber
Regiemitarbeit : Ellen Hammer
Buehnenbild : Eduardo Arroyo
Buehnenbildmitarbeit : Bernard Michel
Kostueme : Moidele Bickel
Licht : Vinicio Cheli
Choreinstudierung : Donald Palumbo
Choreographie : Giuseppe Frigeni

Tristan : Jon Fredric West
Koenig Marke : Matti Salminen
Isolde : Waltraud Meier
Kurwenal : Falk Struckmann
Melot : Ralf Lukas
Brangaene : Mariane Lipovsek
Ein Hirt / Ein junger
Seemann : Charles Workman
Ein Steuermann : Markus Eiche

Wiener Philharmoniker
Konzertvereinigung Winer Staatsopernchor
NEUENINSTUDIERUNG
GROSSES FESTSPIELHAUS
19.August 2000, 17.30 Uhr
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アバドのキャンセルをはじめ、ヘップナーのキャンセルやマイヤーの夏風邪など、
さらにはマゼールの指揮などについていろいろ心配させれられたトリスタンであ
ったが、最終日はご覧の通りのキャストに収まった。主役ふたりは秋の日本公演
と同じであるが、リポヴシェック、シュトルックマン、サルミネンなどに変更は
無くて安心した。

まずもってこのトリスタン公演は素晴らしかったと思う。第一幕の大きな船も強
烈な印象を受けたが、全幕を通して無駄のないリーズナブルな演出だ。もともと
この楽劇はストーリーの内容からして余り動きを感じるものではなく、幻想的で
深い愛と死というテーマに没頭するためには静かな演出が望ましい。いわゆる煩
いものよりも、暗くて幻想的なものが良いと思い。第一幕では船が進む効果も照
明や人物の姿勢で上手く表現されていたし、内的な動きが十分に感じられる。第
2幕の森の世界も単純な舞台で十分だし、第3幕の海岸べりの砦のようなセット
もこれだけで十分すぎる。それほどに音楽とドラマが上手く噛合った演奏だった。

マゼールの指揮に関してはかなりのブーイングもあったが、彼の指揮には好き嫌
いが分れるのだろうか。個人的には彼の描くトリスタンは深みがあって十分な聴
き応えがあった。ウィーンフィルの重厚な響きや透明感も素晴らしかったし、何
よりも良く鳴る演奏に魅力を感じる。トリスタンを歌ったウェストは声を張り上
げることもあり、コロのような高貴なヘルデンさが乏しい。もっともオーケスト
ラには負けない声量があるが、あまり頂けない感想だ。これに対してマイヤーは
夏風邪からの復帰もあってか、ややセーブ気味ではあったが、やはり彼女のイゾ
ルデは素晴らしい。すべてのドラマが自然に流れて行く。幕切れの「愛の死」は
容赦なく鳴らすマゼールの指揮にも負けず、さすがの出来映えで圧倒された。シ
ュトルックマン、サルミネン、リポヴシェックも個性豊かな持ち味が存分に活か
されていた。開演17:30で終了が23:00だったが、トリスタンの物語が
一気に終わってしまった感じだ。全く時間を感じさせないでドラマに没頭させる
集中力は本当に素晴らしい。

さて明日はいよいよ帰国するが、午前中のモーツァルト・マチネを聞いてから帰
る。