ザルツブルク日記 2000年8月18日
ゲルギエフ&ウィーンフィルのゲネプロ/ブーレーズ対談/ブーレーズ2000 Aimard/ブーレーズ&ロンドン響

●ゲルギエフ&ウィーンフィル/ゲネラル・プローベ
WINER PHILHARMONIKER / GENERALPROBEN
GROSSES FESTSPIELHAUS
Samstag, 18.August 2000, 10.00 Uhr
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バシュメットとのシュニトケ/ヴィオラ協奏曲のプローベ


ゲルギエフによるプローベとなれば興味が尽きない。最初にプロコフィエフの古典交響曲が演奏される。ゲルギエフからは特に細かな指示もなく、指揮棒を持たない手はテンポを刻む。これだけでも素晴らしい演奏となるが全曲が終わったところで細かな指示が入る。プローベはここからが本番となり、かなりの徹底さだ。しかしちょっとしたコメントだけでウィーンフィルの響きが見違えるほど素晴らしいものとなっていく。ゲルギエフは演奏を止めることなく、絶妙のタイミングで指示を与え、何とも効率的に進めていく。さすが超多忙なスケジュールをこなすゲルギエフならではといったところか。古典交響曲の一楽章ではチェロの躍動感溢れるパッセージが魅力だが、ウィーンフィルの豊穣に満ちた響きに圧倒された。それにしてもこの交響曲は短いが、プローベは既に50分近くになっている。

さてここで休憩かと思ったら、第1ヴァイオリンを撤去してピアノ、チェンバロ、チェレスタを配置する作業に入った。かなり時間がかかったようだが、バシュメットが登場し、シュニトケのヴィオラ協奏曲が始った。これもほぼ全曲流してから、詳細な練習が始る。途中に大きな盛り上がりがあり、壮絶なアンサンブルに目が覚めるようだ。バシュメットのヴィオラはとにかく美しいのと同時に惹き付けられるものを感じる。非番となったヴァイオリン奏者たちも客席でプローベを見守っていた。この曲の練習も約50分近くに及び、ここで20分ほどの休憩に入る。

いよいよストラヴィンスキーの火の鳥。前半まではヒンクがコンサートマスターを務めていたが、さらにホーネックとプルトを組み万全の体制となる。この曲は今年の5月始めのウィーンフィル定期でもゲルギエフが振っているので、プローベは簡単に終わるかと思いきや、結構な指示が加わり、繰り返し練習が行われる。特にステージ袖のトランペットとオーケストラ真中のトランペットの掛け合いについて指示が飛ぶ。89小節から何度かリピートされる。途中でステージ袖のトランペットが壁の扉から入ってきて、演奏に再び加わるタイミングについてゲルギエフが指示を与える。それにしてもトランペットの空間的な掛け合いが素晴らしい。フィナーレの怒涛の如くの盛り上がりも素晴らしいが、ゲルギエフの指揮ぶりは至って冷静で、あまり大きな身振りはない。延々3時間に及ぶゲネプロはコンサート二つ分に匹敵する充実度で、聴いているほうも疲れる。


●ピエール・ブーレーズとランデスマンの対談
15.30 Uhr, Hoerssal 230
Hans Landesmann im Gespreach mit Musikern: Pierre Boulez

さきほどのゲネプロが終わってからのんびりとランチを取ってから、ブーレーズの対談に向う。場所はヘル・ザール230と、前回のフレミングの場所と同じ会場。まじかに見るブーレーズは写真でみる威厳さというよりも親しみやすい雰囲気の方だ。話の中心はもちろんザルツブルクでのブーレーズ2000チクルス。これは昨日と今日のザルツブルクのメインプログラムとなる催しで、ザルツ以外でもチクルスが組まれているそうだ。ブーレーズといえばブルックナーやマーラ
ーの指揮も有名で、パリやシカゴでの話題に話が行く。終わってからちょっとしたサイン会となったが、この時お聞きしたところ2003年に来日されるそうだ。


●ブーレーズ 2000
Komponisten der Zeitenwende "BOULEZ 2000"
FELZENREITSCHULE
18. August 2000 18.00 Uhr

Alban Berg, Sonate op.1
Pierre Boulez, Sonatine fuer Floete und Klavier
Arnold Schoenberg, Fuenf Klavierstuecke op.23
Sehr langsam
Sehr rasch
Langsam
Schwungvoll
Walzer
Pierre Boulez, Struchures pour deux pianos-Deuxieme livre
Chapitre I, Chapitre II
Soliten
Pierre-Laurent Aimard, Klavier
Lorent Boffard, Klavier
Sophie Cherrier, Floete
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さきほどの対談が終わってから、ドームの奥にある会場からフェルゼンライトシューレの会場へ向う。途中、フランチェスカナーレ教会のCDショップに立ち寄る。コシのデスピーナを歌ったマリア・バーヨのCDが新譜が出ていた。彼女のCDは日本で余り見かけない。フレミングのRシュトラウスと合わせてゲットする。

今日のブーレーズ2000チクルスは2本だて。夕方6時から始る一本目はピアノとフルートによる近代音楽集でもちろんブーレーズの曲も散りばめられている。最初のベルクはソナタ作品1でアイマルトのピアノで聞く。一音一音に込められた緊張感は凄くて強烈なピアノタッチからピアニッシモにかけてのダイナミックレンジが大きい。

ブーレーズの作品は2曲で、最初のソナチネはフルートとピアノによるもので、静寂な空間に音がほとばしる様は印象深い。むしろ迫力があったのは最後の2台のピアノによる作品。ピアニスト同士、合図を交わしながら、ピアノの弾くというよりも叩くといった雰囲気の作品。床が振動で揺れるほど強烈なタッチで音がクリップしそうだった。休憩なしの1時間強はやや渋い一時だった。


●ブーレーズ 2000/ロンドン響
Komponisten der Zeitenwende "BOULEZ 2000"
FELZENREITSCHULE
18. August 2000 20.00 Uhr

Alban Berg, Drei Orchesterstuecke op.6
Praeludium. Langsam
Reigen. Anfangs etwas zoegernd-Leicht beschwingt
Marsch. Maessiges Marschtempo
Orga Neuwirth, Clinamen/Nodus fuer Streichorchester, Schlagzeug und
Celesta, Auftragswerk "Boulez 2000"
Pause

Gustav Mahler, Symphonie Nr.6 a-Moll, "Tragische"
Allegro energico, ma non troppo
Scherzo. Wuchitg-Altvaeterisch
Andante moderato
Finale. Sostenuto-Allegro moderato

London Symphony Orchestra
Dirigent Pierre Boulez
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ブーレーズ2000の2本目は同じくフェルゼンライト・シューレでのロンドン交響楽団演奏会。このプログラムもずっしりと重量級だ。前半にベルクの3つのオーケストラ小品。つづいてオルガ・ノイワースの現代作品。これだけで正味50分のボリュームで、さらに30分の休憩のあとマーラーの交響曲6番「悲劇的」が続く。優に3時間の演奏となり、結局終演は23時近くとなった。

まずベルクの3つの作品は圧倒的に緻密で各パートが浮き彫りにされるような演奏だった。ロンドン響の強力なアンサンブルが活かされていて、3楽章相当の交響詩のようだ。女流作曲家ノイワースの作品は指揮台の前にチェレスタが置かれるというユニークなレイアウトに加えてサイレンが鳴り響く。まるで人を嘲笑するかのようで、リゲティを彷彿とさせる。この曲は短いようでいて結構長いと感じた。

ちなみにフェルゼンライトシューレはサアリアホの「遥かな愛」の巨大なセットはそのまま組まれたままで、ステージ全体には水が張られている。そこでオーケストラの段を水の上に組む形でレイアウトされていた。こういった状態で後ろの石壁からの反響で聞くオーケストラ・サウンドは奥行きが感じられる。

フェルゼンライトはかなり暑かった為とノイワースの難解な音楽にかなり疲れた。外でリフレッシュしてからマーラー6番に望む。やはりブーレーズのマーラーは面白い。分析的かと思えば複雑な情感のヒダもあって聴き応えがある。第1楽章のアルマ・マーラーへの思いが美しい。楽章を追う毎に飽きることなく、音楽に集中できたのも壷を押さえているためだろうか。終楽章のハンマーの刺激も十分に、感傷に溺れない構築力。今までの疲れがすっ飛ぶような演奏だった。それにしても今日はゲルギエフ&ウィーンフィルのゲネプロに始り、充実すぎる一日だった。