ザルツブルク日記 2000年8月15日
フランチェスカナーレ教会ミサ〜オルフェオ・アンサンブル〜『遥かな愛』世界初演

●フランチェスカナーレ教会ミサ/モーツァルト『コングレス・ミサ』
MARIA HIMMELFAHRT - PATROZINIUM:
Zum Einzug:
Joseph MESSNER: Festfanfare
Zum Ordinarium:

W.A.MOZART (1756 - 1791):
Missa in C-Dur "Kronungsmesse" KV 317
Kyrie, Gloria, Credo, Sanctur, Benedictus und Agnus Dei
fur Streicher, 2 Oboen, 2 Horner, 2 Trompeten, Pauken, Bas und Orgel.

Ausfuhrende:
Elisabeth Kainz - Sopran
Monika Waeckerle - Alt
Bernhard Berchtold - Tenor
Heinz Jungbauer - Bas
Chor und Orchester der Franziskanerkirche Salzburg
Dirigent: Bernhard Gfrerer
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今日は、フランチェスカナーレ教会で9時からモーツァルトのコングレスミサ、
ドームでは10時からハイドンのミサが行われる。そこでフランチェスカナーレ
の方へ行くこととする。早朝、ミラベル公園を歩くのはとても清清しい。教会に
近づくにつれ、鐘が鳴り響き、気持ちが引き締まる。すでに満席になっていたの
で、立ってミサに参加することになるが、最初のメスナー作曲のファンファーレ
で気合が入った。

モーツァルトのコングレス・ミサはザルツブルクで作曲されたそうであるが、後
年の有名なミサから比べるとやや小粒な印象を受ける。しかしながら教会の響き
が厳粛さを醸し出し、ミサそのものを体験させてくれる。カトリックの典礼に従
った儀式は音楽を聴くという受身から音楽と祈りを共有するという意味へと高め
てくれる。約一時間半、気持ちを新たにできる貴重な体験であった。




ゴルディナー・ヒルシュの前に何と金の牛が居る!?

●オルフェオ・アンサンブル
 Residenz Mozart-Matinee im Gloriensaal der Neuen Residenz
 am 15. August 2000, 12.15 Uhr
 ORFEO-ENSEMBLE, Salzburg
  Heidi Staiger, Violine
  Eberhard Staiger, Violine
  Ena Kajino, Violine
  Regina Sager, Violine
  Claudia Knapp, Viola
  Andrea Brucker, Viola
  Robert Choi, Violoncello
  Herbert Pascher, Violoncello
 
 Programm
 Wolfgang Amadeus Mozart
  Streichquintett g-moll, KV516
 Felix Mendelssohn Bartholdy
  Streichoktett in Es-Dur, op 20 fuer 4 Violinne, 2 Violen
  und 2 Violoncelli
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ザルツブルク音楽祭ではオペラやオーケストラをつい優先させてしまい、音楽祭
プロの室内楽が聞けないのが残念なところ。そういった室内楽をも聴きたいとい
う欲求を多少なりとも満足させてくれるのが、ノイエ・レジデンツで行われる・
マチネだ。アンサンブルは一級という訳ではないが、結構珍しい曲なども演奏さ
れ、ランチの前に聞くにはうってつけ。

ということで大好きなメンデルゾーンの八重奏も聞けるオルフェオ・アンサンブ
ルへと足を運ぶ。それにしても超快晴で日差しはとても暑い。開演間際に会場に
到着し、早速モーツァルトの弦楽五重奏がはじまった。オルフェオ・アンサンブ
ルのメンバーは昨年聞いたアルテ・デュオというアンサンブルの兼任しているよ
うで、彼らは毎年夏だけ集まってきて演奏しているように見うける。やや演奏が
粗い感じがしたが、とても活きの良いアンサンブルは気持ちが良い。

後半のメンデルスゾーンはさすがに圧巻。弦楽カルテットふたつの構成だからは
その迫力はすごい。ましてやグロリエン・ザールの響きからして、音の逃げ口が
無いので、部屋中が共鳴する。まるでシンフォニーを聞いているほどの充実感で
室内楽を聴くことになるが、これはこれで素晴らしい。メンデルゾーンの沸き立
つ楽想に終始満足できた。




ブリストルのレストランの壁にあった演奏家たちの写真とサイン

●『遥かな愛』世界初演
Kaija Saariaho / Amin Maalouf
"L'AMOUR DE LOIN" Oper in fuenf Akten in franzoesischer Sprache

Musikalische Leitung : Kent Nagano
Regie : Peter Sellars
Regieassistenz : Jan Goossens
Buehnenbild : George Tsypin
Kostueme : Martin Pakledinaz
Licht : James F.Ingalls
Choreinstudierung : Erwin Ortner
Dramaturgie : Alain Patrick Olivier

Clemence : Dawn Upshaw
Le Pelerin : Dagmar Peckova
Jaufre Rudel : Dwayne Croft

SWR Sinfonieorchester Baden-Baden und Freiburg
Arnold Schoenberg Chor
Urauffuehrung Gemeinsames Auftragswerk und Koproduktion mit dem
Theatre du Chatelet, Paris, und The Santa Fe Opera
FELSENREITSCHULE
Urauffuehrung: 15.August 2000, 19.30 Uhr
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今年の音楽祭で最大の演目のひとつがサアリアホ&マーロフによる「遥かな愛」
世界初演だ。トリスタンとは対極の愛をテーマとしているというから、これを見
ずして今年の音楽祭を語れないほど重要な作品と言っても良い。オペラの内容に
ついては音楽祭情報のコーナーを参照していただくとして、実際の上演はとても
ユニークであった。

まずフェルゼンライトシューレのステージ両側に2本の大きなガラス管が立って
いる。左側の管はコバルトグリーンに輝く西の世界で、右側は黄色に輝く東の世
界。さらにユニークなことには、ステージ床全体が水で満たされていた。これが
東西の世界を隔てており、ジョーフリがクレメンスを想って航海の旅にでる場面
となる。また登場人物が歩く時には、さざなみの音が音楽にアクセントを加える
効果も生み出していた。こういったあたりはタン・ドゥンが良く用いる水の音に
も似ている。幻想的な照明も美しく、フェルゼンライトの壁に照らされた青色が
巨大な海を演出していたし、舞台全体がシンプルなアート調にまとめられている。

クロフト演じるジョーフリは西の世界のガラス管の中をエレベータ状に上下し、
リュートのような楽器を奏でながら、オリエンタル情緒ゆたかに彼の想いを歌う。
これに対して東側のガラス管では螺旋階段が回転しながら上下する。アップショ
ウ演じるクレメンスがガラス管の中で螺旋階段を上り降りする。視覚的にもジョ
ーフリとクレメンスのコントラストが強烈に印象付けられる。

演出も動きが少ない象徴的なものとなるが、ジョーフリが小船に乗ってクレメン
スの基へ目指す場面などは、素晴らしい演出効果で見るものをドラマへ集中させ
る。ピーター・セラーズの演出は時に奇抜なものになりやすいが、ここまで洗練
された斬新さに統一されていることに驚いた。

クロフトの朗々と響く歌も素晴らしく、アップショウの透明なソプラノはさすが
の出来映え。ペクコーヴァの演技と歌も全体のオペラと上手く溶け込んでいたし、
ステージ左一列に並んだシェーンベルク合唱も圧倒的に素晴らしい。サアリアホ
の音楽も超ピアニッシモからフォルティッシモまでダイナミックレンジの大きな
ものであるが、メシアンのように瞑想的でもあった。ケント・ナガノの指揮が大
編成のSWRを上手く捌いていた。全体に静かなオペラであるが、休憩なしに上
演された2時間強の時間は次第に大きな感動へと導くのであった。会場全体は圧
倒的な喝采となりプレミエは大成功した。



サアリアホ作品のCDを祝祭ショップで買った。ソプラノはアップショウが歌う