April 2003



ブーレーズ&グスタフ・マーラー・ユーゲント


2003年4月24日(火)19:00/東京オペラシティコンサートホール

(演奏)
 指揮    :ピエール・ブーレーズ
 管弦楽   :グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ

 バルトーク   :弦楽のためのディヴェルティメント
          アレグロ・ノントロッポ
          モルト・アダージョ
          アレグロ・アッサイ
          
 武満 徹    :ユーカリプスT
          フルート:ウォルフガング・シュルツ
          オーボエ:フランソワ・ルルー
          ハープ :吉野直子
 
 ブーレーズ   :メサジェスキス
          1.非常に遅く
          2.急速に
          3.自由に
          4.できる限り急速に
          チェロ:ジャン=ギアン・ケラス
 
 ラヴェル    :歌曲集「シェエラザード」
          1.アジア
          2.魔法の笛
          3.つれない人
          メゾ・ソプラノ:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
 
 メシアン    :7つの俳諧〜日本のスケッチ
          1.序奏
          2.奈良公園と石灯篭
          3.山中〜カデンツァ
          4.雅楽
          5.宮島と海中の鳥居
          6.軽井沢の鳥たち
          7.コーダ
          ピアノ:ピエール=ロラン・エマール


・一昨日のマーラー・ユーゲントではワーグナーに始まった調性崩壊の兆しから、シェーンベルクの単一調性への傾倒、ベルクの12音技法への変遷などとても変化に富んだ内容でした。そして今日はバルトークを冒頭に持ってくることで、無調からの回帰を図るかのように、弦楽ディヴェルティメントの逞しい響きがとても印象的でした。マーラー・ユーゲントの緊密度の高さがとても素晴らしく、1楽章に相当するアレグロを底力あるアンサンブルで鳴らしきるのはとても痛快でした。2楽章では12音にも傾倒したバルトークらしさが感じられる作風で、マーラー・ユーゲントの純度の高いアンサンブルでさらに透明な響きを楽しむことができました。

続く武満のユーカリプスTではハープが指揮者の前に置かれ、左にフルート、右にオーボエを。さらに左右にヴァイオリンを振り分け、あたかも2部編成の小オーケストラを形作るかのようにして、フルートとオーボエの掛け合いを左右の小アンサンブルが呼応するといった興味深い作品でした。ハープの鮮度の高い響きも格別で、オーボエの不協和を伴う響きの太さが樹木を描写し、枝が伸びていく様子が音に上手く昇華しているのに驚きました。前半のフィナーレとなるブーレーズのメサジェスキスは、独奏チェロに6人のチェリストの緻密なアンサンブルが興味を惹きました。

後半はフォン・オッターが歌うラベルの歌曲集「シェエラザード」から。ブーレーズの指揮でオッターを聴くのは、ウィーンフィルとのマーラー3番以来のことで、今日で3度目となりました。しかも今日は普段余り聴くことのすくないシェエラザードということでとても貴重で素晴らしい演奏でした。フルオーケストラの奏でるエキゾチックで幻想的なアジアへの想いがとてもニュアンス豊かでした。オッターの詩情豊かな朗唱が管弦楽の色彩感とともに見事に溶け合っていました。

後半フィナーレはメシアンの7つの俳諧。その前にエマールが細川俊夫作曲のピアノソロ「俳句」をぜひ皆さんのために弾きたいとのコメントして、ブーレーズが後から見守る中、演奏されました。ピアノの一打一打の間のパウゼに響く残響は正に韻を響かせているといった感じで、とても短いパッセージながら気持ちが引き締まりました。

メシアンの日本のスケッチと称される俳諧も鳥の鳴き声をエマールの奏でるピアノから聞こえてきてきました。沢山の鳥の鳴き声を聞き分けることは難しいものでしたが、カッコウの断片も聴かれ、自然の情景が見えてくるような感じでした。指揮者から離れて左にピアノを配置し、これと対照となる右にヴァイオリンを放射状にレイアウト。中央横2列に木管と金管さらに後方にパーカッションを配置した響きも独特でした。ともかくラヴェルのシェエラザードとメシアンの色彩感は調性を取り戻した回帰を強く感じさせ、シェーンベルクやベルクらの研ぎ澄まされた音の世界とはまた対照的な印象を強く抱かせてくれました。このように一日の演奏会だけでなく、前後の演奏会で関連させて全体を通して音楽の深さを共有しようとするコンセプトは昨年のポリーニ・プロジェクトにも通じるもので、ブーレーズの演奏会に対する姿勢が感じられとても貴重な体験となりました。





カサロヴァ&ラ・スコーラ/ジョイント・リサイタル


2003年4月23日(水)19:00/サントリーホール
第1部 マスネ『ウェルテル』より
 前奏曲
 第3幕 シャルロットのアリア「手紙のアリア」/カサロヴァ
 第3幕 ウェルテルのアリア/ラ・スコーラ
 第4幕 ウェルテルとシャルロットの愛の二重唱/カサロヴァ,ラ・スコーラ,合唱
第2部 ビゼー『カルメン』より
 前奏曲
 第1幕 カルメンのアリア「ハバネラ」/カサロヴァ,合唱
 第1幕から第2幕への間奏曲
 第2幕 カルメンのアリア「ジプシーの歌」/カサロヴァ
 第2幕 ホセのアリア「花の歌」/ラ・スコーラ
 第4幕 カルメンとホセの二重唱/カサロヴァ,ラ・スコーラ,合唱

指揮     :シュテファン・アントン・レック
メゾ・ソプラノ:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
テノール   :ヴィンチェンツォ・ラ・スコーラ
管弦楽    :東京フィルハーモニー交響楽団
合唱     :スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団
合唱指揮   :ヤン・ロチェーナル


・今日は3公演セットで申込んだ「愛と死のオペラ」シリーズの第3夜でした。第1夜のグルベローヴァと第2夜の「ノルマ」はとても密度の高い内容に驚嘆の連続でしたが、今日のカサロヴァ&ラ・スコーラも大いに期待していました。プログラムはウェルテルとカルメンというフランスものに焦点を当てているのも興味深いところです。

座席はパルケット8列目ど真ん中でとても臨場感がありました。前半のウェルテルのしっとりとした味わいが格別で、二人の歌手に合唱も加わるという多彩さで楽しませてくれました。

後半のカルメン。聴き所をアレンジしたプログラミングは良く見かけるものでしたが、さすがにカサロヴァのカルメンも面白いものでした。4月20日に聞いたサントリーホールのカルメンは、怒涛のシコフとザレンバが強烈すぎたためか、今日のカルメン今ひとつインパクトに欠けるようにも感じましたが、それでも彼らの素晴らしさは十二分に味わうことが出来ました。終了は20:50で、後味がとてもあっさりとしていて良かったです。





ブーレーズ&グスタフ・マーラー・ユーゲント


2003年4月22日(火)19:00/サントリーホール
(演奏)
 指揮    :ピエール・ブーレーズ
 ヴァイオリン:諏訪内晶子
 管弦楽   :グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ
(プログラム)
 ワーグナー  :楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲
 ベルク    :ヴァイオリン協奏曲
 シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」


・グスタフ・マーラー・ユーゲントは昨年イースター音楽祭でのウェルザー・メストのブルックナー8番とエディンバラ音楽祭でのアバドのパルジファルが大変素晴らしい演奏だったのが忘れられません。97年ザルツブルク音楽祭ではブーレーズの指揮のチケットを買っていましたが、レジデンツでの後宮とバッティングしたのが残念でした。という訳で、今回の来日公演ではブーレーズの指揮が聴けるのが最大の楽しみです。

昨日のマーラー6番はグルベローヴァのノルマとバッティングしましたが、今日のプログラムはとても興味深いものでした。ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」前奏曲に始まり、ベルクを経てシェーンベルクに至るプロセスに焦点を当てているところにブーレーズらしさを感じました。トリスタンで崩れ始めた調性は、シェーンベルクのペレアスにおいて革新に至っている点です。さらに、これら共通項をベルクの12音技法を軸に対比させている点が面白いところです。

コンサートでは、「トリスタンとイゾルデ」前奏曲は「イゾルデの愛の死」とあわせて演奏されることが多いですが、ブーレーズは前奏曲だけに留めて、満たされぬ愛の渇望を、後半の「ペレアスとメリザンド」によって終止符を与えようというアプローチもとても面白いものでした。マーラー・ユーゲントの緻密かつ豊かなサウンドが、そういったブーレーズの意図に十二分に応えるべく、実に素晴らしい演奏を聞かせてくれました。アバドのパルジファルでも感じましたが、柔らかく包み込むような弦の柔軟性がアンサンブルの微妙な色合いを表情付けるのにとてもプラスになっているようでした。底力あるアンサンブルは勿論のこと、敏感にレスポンスする性能面も素晴らしい限りです。特にアバドがコンテンポラリを指揮した時のマーラー・ユーゲントのCDで伺える卓越したアンサンブルも実演を聞くことによって納得するばかりです。

諏訪内晶子のソロによるベルクも実に深い響きを作り出していました。先週のルツェルン音楽祭イヴェントでの巧みな演奏でも明らかなように、研ぎ澄まされた演奏からはベルクの音楽がより一層の重みとして迫ってくるようでした。トリスタンに始まり、ベルクのレクイエムを経て、ペレアスに至る過程は、ともにドラマ性という点でも雄弁さを感じるものでした。ともかく久しぶりに聞くシェーンベルクのペリメリが聞けて嬉しい限りです。




グルベローヴァのベッリーニ『ノルマ』演奏会形式


2003年4月21日(月)18:30/東京文化会館
(出演)
 ノルマ    :エディタ・グルベローヴァ
 アダルジーザ :ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 ポリオーネ  :ヴィンチェンツォ・スコーラ
 オロヴェーゾ :シモン・オルフィラ
 クロティルデ :マリア・レヤヴォヴァ
 フラヴィーオ :リュボミル・キツェク
 指揮     :シュテファン・アントン・レック
 演奏     :東京フィルハーモニー交響楽団
 合唱監督   :ヤン・ロチェーナル
 合唱     :スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団


・今日はグルベローヴァの初挑戦となるベッリーニのノルマでした。グルベローヴァほどの大歌手ですら今までノルマに挑戦しなかったというノルマですから、聴くほうとしても最大限の集中力で臨みました。

座席はちょうど平土間7列目指揮者のラインで、左右に並ぶ歌手とオーケストラと合唱の臨場感がパノラマ的に伝わってきました。それにしても歌手達は凄すぎました。レックの巧みな演奏と相まって、ドラマの緊張感、登場人物の心理状態を克明に描ききっていました。強烈すぎるインパクトです。演奏会形式なのでセットや演出などは有りません。照明効果なども一切ありませんが、全くの音楽だけで最高の劇的効果を生み出し、心を揺さぶる凄さは奇跡的ですらありました。

第1幕冒頭の序曲でベッリーニの素晴らしい音楽に魅了されると同時に、オルフィラの迫力あるフラヴィーオを聴くだけで、今日は最高の演奏になると期待した通りでした。グルベローヴァの次元を超越する感情表現は切々と心を切り裂くほどのリアリティでした。カサロヴァのアダルジーザ、スコーラのポリオーネも完璧に役柄になりきっていて、グルベローヴァとともに怒涛の迫力でした。そもそもノルマという作品自体実に劇的、感動的でありますが、そのベッリーニの天才ぶりを最大限に描き尽くすグルベローヴァの洞察力には感服しました。ともかくグルベローヴァの超人的表現には感嘆です。

今年は7月にベッリーニ大劇場公演のノルマを見る予定ですが、もはや今日の公演を越えることは出来ないのではと思います。グルベローヴァの今後のノルマはさらに進化して行くことと思われますが、今日の公演は本当に強烈で、今も頭から火を噴く興奮状態にあります。




・サントリーホール・オペラ『カルメン』


2003年4月20日(日)16:00/サントリーホール
(演奏)
 カルメン   :エレーナ・ザレンバ
 ドン・ホセ  :ニール・シコフ
 エスカミーリョ:イルダル・アブドゥラザコフ
 ミカエラ   :野田ヒロ子
 フラスキータ :駒井ゆり子
 メルセデス  :田口道子
 モラレス   :清水宏樹
 スニガ    :小野和彦
 レメンダード :高橋 淳
 ダンカイロ  :今尾 滋
 合唱     :藤原歌劇団合唱部/東京少年少女合唱隊
 指揮     :マルコ・ボエーミ
 管弦楽    :東京交響楽団


・カルメン演奏会形式はボエーミ&東フィルでのザレンバ、ナガノ&リヨンでのオッターなど素晴らしい演奏が思い出されますが、今日の上演も格別に素晴らしいものでした。

ステージ前面に歌手達の舞台として、合唱はPブロック、それらに挟まるように管弦楽を配置したレイアウトは音響的にもバランスし、臨場感溢れる出来栄えに仕上がっていました。照明効果は概ね赤を基調として、状況に応じた明暗など上手くバランスしていたと思います。迫力のあるオーケストラ演奏とともに歌手たちが熱く燃える場面はさすがに聴くものを釘つけとしたました。終幕におけるシコフの熱唱は驚異的なほど気迫あるもので圧巻でした。アブドゥラザコフの貫禄もなかなかのもので、定評あるザレンバのカルメンをしっかりと聴けたのも最高でした。今日は昼のマーラー大地の歌とともに、久々に大当たりのダブルヘッダーでした。



平松英子ソプラノリサイタル
マーラー『大地の歌』ピアノ版全曲演奏会


2003年4月20日(日)13:00/王子ホール
(プログラム)
第1部
 グスタフ・マーラー
  春の朝
  セレナード
  ラインの小さな伝説
  美しくラッパの鳴り響くところ
第2部
 グスタフ・マーラー
  『大地の歌』
   1.大地の哀愁をうたう酒の歌
   2.秋に寂しきひと
   3.陶土造りの円亭
   4.岸辺にて
   5.春に酒くらう者
   6.訣別
(出演)
 平松英子(ソプラノ)
 平島誠也(ピアノ)


・マーラー「大地の歌」ピアノオリジナル版の初演は1989年の日本、サヴァリッシュによってであると以前に聞いたことがあります。小生もピアノ版を聴いたのは1999年7月30日奏楽堂にて西松甫味子(メゾソプラノ)、川瀬幹比虎(テノール)、松川儒(ピアノ)の演奏によるものでした。以来、ピアノ版はCDで聞くもののライブは本当に少なく、今日の平松さんの演奏は大変貴重なものです。さらに今回の演奏で特筆すべきは、通常二人の歌手で歌われるところを、ソプラノだけで歌うという点で、今回世界初の試みとなるそうです。マーラーの楽譜の「高声と中声のための」という指示を一人の歌手の幅広い声域によって実現する点に大いに期待したいところです。

プログラム前半は大地の歌に入る前に15分ほどマーラーの歌曲でしみじみとした気分に浸り、後半の67分間は「大地の歌」に備えるという趣向でした。前半から既に大地の歌に至る伏線が引かれているように感じるほどで、後半の「大地の歌」とあわせて連作歌曲集の雰囲気を大いに感じました。

後半の「大地の歌」はまさに圧巻でした。ソプラノとピアノだけといえばモノトーン的と思われるかもしれませんが、実に色彩感も鮮やかで、特に透明度の高さは、微妙なニュアンスやディテールを隈なく歌い上げるといった感じでした。テンポも実に落ち着いた佇まいで、内面に向う求心力に全てを忘我して、しみじみと諦念に同化していく様を感じました。特に第6曲の訣別では時間が停止するかのように身動きひとつ出来ぬほどの集中力でした。今まで聴いた「大地の歌」中でも遥かに次元の高みを覚えた演奏でした。なお今回の演奏にあわせてCDも発売されました。




・ルツェルン音楽祭友の会 特別イヴェント


2003年4月19日(土)18:00/サントリーホール(小)
第1部 「ブーレーズとヘフリガーが語るルツェルン音楽祭」
第2部 「ブーレーズに選ばれた6人のソリストによる特別演奏」
(演奏)
 ウォルフガング・シュルツ(フルート)
 フランソワ・ルル−(オーボエ)
 諏訪内晶子(ヴァイオリン)
 ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)
 吉野直子(ハープ)
 ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
(プログラム)
 細川俊夫  :歌う庭〜6人の奏者のための〜(世界初演)
 ハンスペーター・キーブルツ:六重奏曲(世界初演)




・今日はルツェルン音楽祭友の会発足の特別イヴェントでした。簡単なプログラム解説にはヴァーチャル・ポストカードと記されたルツェルン音楽祭ガイドのCDが添付されていました。今回はちょうどグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラと一緒に来日しているピエール・ブーレーズとルツェルン音楽祭芸術総監督のミヒャエル・ヘフリガーによる講演が行われました。

第1部では先ずヘフリガーによりルツェルン音楽祭の概要が説明されました。1938年にトスカニーニによって創設されたルツェルン祝祭管弦楽団による演奏がトリーフェンで行われたのが音楽祭の発端だそうです。祝祭管弦楽団はその後、消滅していたものの、今年の夏の音楽祭でアバド指揮により復活するのが興味深いところです。さらにコンテンポラリーの分野も重点を置き、今年だけでも17の世界初演を行うという点に意気込みを感じます。

ピエール・ブーレーズの語りでは、2004年から発足する現代音楽アカデミーの計画が紹介されました。ブーレーズ・アカデミーとのなるこのプロジェクトでは演奏家と作曲家の相互理解にポイントを置き、将来のコンテンポラリー演奏家達を育てるというものだそうです。最近は20世紀の古典すら余り演奏されていないことに危惧を覚えるというブーレーズの語りには切実感がありました。この講演を聴いていると、ちょうど昨年のポリーニ・プロジェクトのコンセプトが思い起こされました。

なおジーラ・フーバーによりルツェルン友の会について説明されましたが、通常年会費が3000円のところ、今日のイヴェントでは3年間で3000円の特別割引であることを強調されていたのが面白いところでした。コレクト・リヒターさんの語りではルツェルンの自然について簡単に紹介されました。

第2部はブーレーズに選ばれた6人による演奏で、ルツェルン音楽祭レジデンツ作曲家であるところの細川俊夫とハンスペーター・キーブルツの世界初演2作品がとても印象的でした。細川作品は細川氏自らが指揮し、キーブルツ作品はブーレーズが指揮しました。「歌う庭」では冒頭の超ピアニッシモの囁きから、花が開花していく様子を描いたという解説を彷彿とさせる内容で、個々の楽器の実在感、楽器間の音が空間を飛び交う様子までが手に取るように伝わってきました。キーブルツの六重奏は最初からインパクトあるアンサンブルで開始され、諧謔的な展開が面白い作品でした。ともかく二つの小品だけでも卓越したアンサンブルに時間を忘れるひと時でした。

ちなみにピアニストのエマールはザルツブルク音楽祭でのブーレーズ・プロジェクトで演奏していたのが印象に残っていて、彼のリサイタルも行ってみたいところです。なお第2部終了後は本日の出演者も参加してのレセプションで、ロビーのカフェを使って行われましたが、それほど大人数ではなく、とても落ち着いたものでした。ともかく来週のブーレーズ&マーラー・ユーゲントによる演奏会が楽しみです。




・バッハ・コレギウム・ジャパン『マタイ受難曲』


2003年4月18日(土)16:30/東京オペラシティコンサートホール
J.S.バッハ<マタイ受難曲>BWV244
鈴木雅明(指揮)
野々下由香里(ソプラノT)
星川美保子(ソプラノU/ピラトの妻)
ロビン・ブレイズ(アルトT)
上杉清仁(アルトU/証人T)
ゲルト・テュルク(テノールT/エヴァンゲリスト)
鈴木 准(テノールU)
ペーター・コーイ(バスT/イエス)
ヨッヘン・クプファー(バスU/ユダ、ピラト)
バッハ・コレギウム・ジャパン(管弦楽/合唱)


・今日は久しぶりにマタイ受難曲を聴いてきました。聖金曜日ということもあって完売だったようです。チケットを買った時は余り良い席は残っておらず、S券を求めたところ3階正面の1列目の壁に近い席でした。ステージまでかなり遠く音響も悪いのかなと思っていたところ、実際はとても素晴らしい響きでした。やはりタケミツメモリアルの教会のような空間が自然の増幅効果を持っているようで、BCJの素晴らしいアンサンブル、合唱、ソリスト達を引き立てるかのように、音圧レベルを感じました。

実際、演奏は完璧なのは勿論のこと、何度も聞いたBCJのマタイの中でも特に素晴らしい演奏ではと感じた次第です。左右に分けた2グループのアンサンブルと合唱が透明度が高く、これにソリスト達の様々な表情が溶け合っている様は見事というほかありません。テンポも的確にゆったりと、時に激しく展開し、情景が見てて来るような臨場感でした。寺神戸氏のヴァイオリンを始め、ヴィオラガンバなどソロと歌手達の語り合いも聴き所でした。ともかく荘厳なコラールを聴くにつけ、気持ちも引き締まり、自然と感動に至らしめてくれるバッハの音楽と演奏に感謝でした。




・大塚直哉『花のチェンバロ/イタリアの風』


2003年4月17日(木)19:00/明日館ダイニングルーム
(プログラム)
 G.フレスコバルディ :『音楽の花束』より聖体奉挙のためのトッカータ
             カンツォーナ第1番
 A.ガブリエッリ   :スザンヌはある日
             第6旋法によるイントナツィオ
             カンツォーナ・アリオーザ
 G.サルヴァトーレ  :トッカータ第1番
 G.フレスコバルディ :「ラソファレミ」によるカプリッチョ
             「トッカータ集第1巻」より第8番
             パッサカリア上の100の変奏
 〜休憩〜
 
 J.P.スェーリンク :トッカータ第16番
 A.マルチェッロ   :アダージョ「ヴェニスの愛」/J.S.バッハ編曲
 J.S.バッハ    :チャコーナ(BWV1004/5)/大塚直哉編曲
 D.スカルラッティ  :2つのソナタK.492、K.87
 G.F.ヘンデル   :シャコンヌ ト長調
 L.ルツァスキ    :トッカータ(アンコール)


・ほぼ1ヶ月前に聞いた明日館「花のチェンバロ」に引き続き、今日は「イタリアの風」というテーマのもと、大塚直哉氏による演奏でした。当初は芝崎久美子さんによる予定だったのがキャンセルで変更となったのでした。プログラムは当初予定されていたのと大体同じで、前半に16世紀のイタリアを、後半にイタリアの風がヨーロッパ各地に吹いていくことを象徴して、スウェーリンク、バッハ、スカルラッティ、ヘンデルと多彩なプログラムでした。

冒頭はフレスコバルディの「音楽の花束」から。演奏はスピネット(ヴァージナル)を用いて行われました。弦を横方向に配列したミニ・チェンバロといった感じで、弦を弾く音がとても繊細でレスポンスの良い響きでした。ちょうどダイニングルームに飾られたフラワーアレンジメントの華やかさも音楽を引き立てていました。前半はガブリエッリの曲などもスピネットと2段チェンバロを交互に用いて演奏され、変化に富んでいました。特にフレスコバルディの100の変奏はリズムの乗りも良く、パッセージの流れが一筆書きのように鮮やかに連続し、大いに楽しませてくれました。

後半はスピネットは用いられずチェンバロのみの演奏でした。バッハに至るスウェーリンクの作品は彼のオルガン曲同様にとても緻密で前半のイタリアに比べると構築性を感じてしました。特に無伴奏ヴァイオリンのシャコンヌを編曲したチェンバロ版チャコーナは圧巻で、目まぐるしく押し寄せるチェンバロの響きが最高でした。スカルラッティのソナタは小品でも存在感が十二分にあるのが印象的でした。そしてヘンデルのシャコンヌもバッハに比べるとコンパクトなものの、とても躍動感と変化に富んでいました。フレスコバルディの師、ルツァスキのトッカータはスピネットで演奏され、意外と重厚な響きがとても落ち着いた佇まいでした。




・ミョンフン&東フィル/春の祭典


2003年4月10日(木)19:00/サントリーホール
(演奏)
 指揮    :チョン・ミョンフン
 ヴァイオリン:ジュリアン・ラクリン
 管弦楽   :東京フィルハーモニー交響楽団
(プログラム)
 R.シュトラウス :交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
 ブルッフ     :ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調作品26
 〜休憩〜
 ストラヴィンスキー:春の祭典


・このところ連日サントリーホールに通っていますが今日で5日連続となりました。昨日のグルベローヴァでも演奏した東フィルがミョンフンの指揮のもと魅力的なプログラムを聴かせてくれました。

R.シュトラウスが聞けたのも嬉しい限りでしたが、注目していたのはヒラリー・ハーンによるブルッフ。彼女はベルリンフィル来日時でも素晴らしい演奏していただけに大いに期待していました。残念ながらインフルエンザにより来日不能となり、代わってジュリアン・ラクリンが演奏しました。彼はマゼール&バイエルンのブラームス・チクルスにも出演し、その素晴らしさが印象的でしたが、ブルッフも格別でした。アンコールにイザイのソナタ3番を演奏し、会場を沸かせていました。

さて本日の最大の注目は「春の祭典」で予想を遥かに上回る出来栄えでした。まずアンサンブルの音量感、充実感はことのほか素晴らしく、加えて絶妙なリズム感と一致した時のインパクト度はかなりのものでした。弦が刻む激しいリズムも、管とティンパニの炸裂も刺激的で、全てはミョンフンの気合の指揮に統括されている演奏の緊張感は凄いものでした。ともかく細部の響きまでもが目に見えるかのように鮮やかだったのが印象的です。




エディタ・グルベローヴァ/ソプラノリサイタル
<チューダー朝の女王たち>


2003年4月9日(水)19:00/サントリーホール
(プログラム)
 ドニゼッティ :「マリア・ストゥアルダ」より
          第2幕マリアのシェーナとカヴァティーナ
 ベッリーニ  :「カプレーティとモンテッキ」序曲
 ドニゼッティ :「アンナ・ボレーナ」より
          第1幕アンナのアリア
 ドニゼッティ :「アンナ・ボレーナ」序曲
 ドニゼッティ :「アンナ・ボレーナ」より
          第2幕アンナのシェーナとアリア
  〜休憩〜
 
 ドニゼッティ :「ロベルト・デヴリュ−」より
          第1幕エリザベッタのアリア
 ドニゼッティ :「ロベルト・デヴリュ−」序曲
 ドニゼッティ :「ロベルト・デヴリュ−」より
          第3幕エリザベッタのアリアとカヴァレッタ
 ドニゼッティ :「シャモニのリンダ」よりアリア(アンコール)
 ロッシーニ  :「セヴィリャの理髪師」よりアリア(アンコール)

(演奏)
 指揮    :フリードリッヒ・ハイダー
 ソプラノ  :エディタ・グルベローヴァ
 管弦楽   :東京フィルハーモニー交響楽団


・今回のグルベローヴァ来日公演のリサイタルはチューダー朝の女王たちというテーマ設定で、マリア・ストゥアルダ、アンナ・ボレーナにロベルト・デヴリュ−のドニゼッティ作品に焦点を当てている点が興味深いものでした。オーケストラとの共演では序曲で開始される場合が多い中、最初からグルベローヴァが登場し、その素晴らしい歌で会場を沸かすあたりにグルベローヴァの絶好調さが伺えることが出来ました。ともかく今まで聴いた歌ものとは比較にならないレベルの高さです。前半はアンナ・ボレーナがさすがに素晴らしく、もはは前半だけで一つのコンサートが終わってしまうほどの密度の高さで大いに満足しました。

後半はロベルト・デヴリュ−のみで固めたプログラミングでグルベローヴァの意気込みが満ち溢れていました。この作品はウィーンでヴィオッティ指揮で見たことがありますが、あの時のグルベローヴァはカーテンコールが20分以上続く怒涛の出来栄えだったことから、今回も大いに期待している演目でした。もはや言葉を失うほどの迫力で単に歌の凄さだけでなく、彼女の作品に取り組む姿勢、エリザベッタの心境をこれほどリアルに表現できることに驚嘆あるのみでした。途中、東フィルの演奏による序曲もハイダーの畳み掛けるようなテンポアップが印象的で、高揚していたのも素晴らしかったです。ともかくグルベローヴァの素晴らしい表現力はオーケストラにも大きな刺激を与えていて、双方が相乗効果的に盛り上がる時のインパクトは凄いものでした。次回グルベローヴァが出演するノルマが大きな楽しみです。




・マゼール&バイエルン放響/ブラームス・チクルス4


2003年4月8日(火)19:00/サントリーホール
(演奏)
 指揮 :ロリン・マゼール
 ヴァイオリン:ジュリアン・ラクリン
 チェロ   :ハンナ・チャン
 管弦楽:バイエルン放送交響楽団
(プログラム)
 ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調Op.102
 ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73
 ブラームス:ハンガリー舞曲第5番(アンコール)
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(アンコール)


・ブラームス・チクルス4日目は二重協奏曲に交響曲2番でした。さすがに4日目ともなるとアンサンブルも初日に比べ緻密さを増し、昨日同様に気迫ある演奏で大いに満足できました。

協奏曲では冒頭のパッセージでラクリンの弦が切れてしまい、すかさずコンサートマスターのヴァイオリンと交換するという場面が。幸いにも管弦楽のパートが長く続き、ソロが休止している間に、コンサートマスターがラクリンの弦を張りなおして、ヴァイオリンをラクリンに返す余裕がありました。マゼールは一向に気にすることなく、素晴らしくシンフォニックな演奏を指揮し続けていたのが印象的です。それにしてもハンナ・チャンの朗々と響くチェロとラクリンの繊細かつ強靭なヴァイオリンが見事に歌い合っているのがとても爽快でした。見ているとラクリンのボーイングは、また弦が切れるのではと思うほど、切れ味が鋭いもので、そこから生まれる密度の高さはさすがです。

2番のシンフォニーは、絶好調に響くアンサンブルにより、そのパワフルさが痛快でした。ブラームスの深い味わいも格別で、特に2楽章のチェロの荘重なサウンドはとても印象的でした。終楽章に掛けての管弦打の一体感も高揚感も最高。フィナーレはさすがに盛り上がったためか、間髪置かずに拍手が沸き起こりましたが、やはり余韻は欲しいと思いました。ともかく一気に駆け抜ける爽快感はスリリングでもありました。アンコールはチクルス初日と同じくハンガリー舞曲5番と1番。今回はブラームスを4日連続で聴くことが出来てとても充実していました。




・マゼール&バイエルン放響/ブラームス・チクルス3


2003年4月7日(月)19:00/サントリーホール
(演奏)
 指揮 :ロリン・マゼール
 ピアノ:イエフィム・ブロンフマン
 管弦楽:バイエルン放送交響楽団
(プログラム)
 ブラームス:交響曲第3番ヘ長調Op.90
 ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調Op.83


・今日でブラームス・チクルスも3日目となり演奏も熱を帯びてきたように感じました。前半の二日間も素晴らしい演奏でしたが、特に交響曲3番にピアノ協奏曲2番は嬉しいプログラミングで、演奏も圧巻中の圧巻でした。

シンフォニー3番の堂々とした響きは決して誇張ではない情熱といったものを感じました。特に第1楽章の展開部からは管弦打が一体となった迫力は凄く、マゼールの気迫の指揮がオーケストラを熱くさせている様子が良く分かりました。2楽章の木管の素晴らしい響きも聞きどころで、終楽章にかけての集中力に目を見張りました。

前半のシンフォニー3番は渋く情熱的な演奏でしたが、後半のピアノ協奏曲はさらに素晴らしい出来栄えでした。特にブロンフマンのスケールの大きなピアノがマゼールの起伏のある演奏と見事にマッチしていて、ラテン的明るさの1楽章、機敏でエネルギッシュな2楽章と、聴いているだけで嬉しくなる名演奏です。木管のように柔らかく響く、深みのあるホルンとの重なり合い、3楽章の素晴らしいチェロと溶け合うピアノなどなど。いずれもが心惹き付ける演奏で、全体を通しても大きく高揚するシンフォニーの世界を堪能できました。この素晴らしさの後にはアンコールは不要と思いますが、ブロンフマンによるソロは圧倒的でした。





・マゼール&バイエルン放響/ブラームス・チクルス2


2003年4月6日(日)14:00/サントリーホール
(演奏)
 指揮 :ロリン・マゼール
 ヴァイオリン:ユリア・フィッシャー
 管弦楽:バイエルン放送交響楽団
(プログラム)
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.77
 ブラームス:交響曲第4番ホ短調Op.98
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(アンコール)


・昨日の真冬から今日は一転して春らしい天気となりました。3月下旬からサントリーホールから帰るさい、神谷町口の夜桜が美しい限りですが、今日のように昼間の桜も綺麗です。さて今日のプログラムは前半のVn協奏曲に後半は交響曲4番という嬉しいカップリングでした。ユリア・フィッシャーの美しく力強いヴァイオリンの音色はことのほか素晴らしく、何といってもその歌いまわしの呼吸がオーケストラと一致していて、ブラームスの魅力を満喫できました。2楽章のオーボエが見事だったのも印象的です。アンコールにソロが2曲も演奏されたのが珍しいところでした。

後半は昨日の一番と同様に素晴らしい響きのアンサンブルで、ステージ前面の弦楽器群に、ステージ中間に位置する管楽器群、さらにステージ後方のティンパニとコントラバスと、奥に向って3層の衝立を構成するかのように、音が調和しつつ重なりあう響きが独特でした。昨日と同様に冷静な視点で捉えたマゼールの描くブラームスは均整のとれた美しさで、聴くうちに情熱が伝わってくる自然さを感じました。アンコールは昨日と同様ハンガリー舞曲で1番のみ演奏されました。





・マゼール&バイエルン放響/ブラームス・チクルス1


2003年4月5日(土)18:00/横浜みなとみらいホール
(演奏)
 指揮 :ロリン・マゼール
 ピアノ:イエフィム・ブロンフマン
 管弦楽:バイエルン放送交響楽団
(プログラム)
 ブラームス:ピアノ協奏曲第1番二短調Op.15
 ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68
 ブラームス:ハンガリー舞曲第5番(アンコール)
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(アンコール)


・4月前半はマゼールのブラームス・チクルスが4日間続きます。4つの交響曲、2つのピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲にヴァイオリンとチェロの二重協奏曲を一挙に聴けるということで、セット券で聴くことにしました。初日は横浜みなとみらいの公演でした。久しぶりに横浜みなとみらいの歩道を歩くものの、冷たい風雨でとても春とは思えぬ真冬の寒さでした。

さて以前の日本公演でも素晴らしい演奏を聞かせてくれたマゼール&バイエルン放響は今回も見事な演奏でした。冒頭のピアノ協奏曲の弦の柔らかくて荘重な響きに木管を始めとする明るいトーンがとてもマッチしていて、ピアノとともに室内楽的な緻密さとダイナミックさが上手くバランスしていたように思います。1番のピアノ・コンチェルトは重苦しいイメージが多少なりともあるものですが、そういった既成観念を洗い落とすかのように、純音楽的に虚飾を配したマゼールのアプローチではと感じるほどニュートラルな印象を受けました。とはいえ、1楽章は重量感一杯の充実した演奏でブロンフマンの威力が感じられました。特に終楽章の希望に満ちた明るく転じてくる場面あたりがとても印象的でした。ともかくもブロンフマンへの喝采が鳴り止まず、アンコールが演奏されました。

後半の交響曲1番は、ヴァイオリンを左右に振り分け、左にヴィオラ、右にチェロ、後方1列にコントラバスという編成からのサウンドにはとても安定感があり、重厚感溢れていました。時折、テンポをゆったりと取って、強弱の起伏を強めるなど、マゼール特有の歌いまわしが感じられるものの、ごく自然に流れを作るあたりはさすがと思わせました。ザルツブルク音楽祭などでウィーンフィルをコンサートやオペラで指揮するときは強引とも思えるほどのドライブ力を感じたものですが、なぜかバイエルン放響との組み合わせのほうが、そういったドライヴといったものよりも自然さを感じます。終楽章の朗々とした主題提示においても、力強く誇張するのではなく、数歩下がったような控えめなアプローチはやや意外と感じましたが、これはマゼールの包容力がさらに大きくなったと理解すべきかとも思いました。次第に熱気を帯びさせてからフィナーレで一挙に盛り上げるといった展開もとても自然でした。





・バロックコンサート『イタリア・フランスの響き』


2003年4月4日(金)19:00/東京オペラシティ近江楽堂

(演奏)
 ヨルン・セバスティアン・クールマン(バロック・ヴァイオリン)
 レベッカ・フェッリ(バロック・チェロ)
 芥川直子(チェンバロ)

(プログラム)

 J.B.ボワモルティエ :トリオ イ短調Op.37/5
 J.P.ラモー     :新クラヴサン組曲集より
              アルマンド・クラント・サラバンド・三つの手
 マラン・マレ      :ソナタ・ア・ラ・マレジェンヌ ハ長調
 J.B.ボワモルティエ :トリオ ニ長調Op.50/6
 
 〜休憩〜
 
 アレッサンドロ・ストラデッラ :シンフォニア 二短調
 ドメニコ・スカルラッティ   :ソナタ ロ短調 K.87
 フランチェスコ・ジェミニアーニ:ソナタ イ長調Op.5/1
 F.M.ヴェラチーニ     :ソナタ 二短調Op.2/12


・4月始めのコンサートは近江楽堂でのイタリア・フランスの響きと称したバロック・コンサートでした。17世紀のクロマティック・ポリフォニーを味わうとう趣旨のもと、フランス人作曲家のイタリア風を聴くべく、ボワモルティエやラモーの作品に焦点を当てた前半と、イタリアからスペイン風に至るストラデッラ、スカルラッティが取り上げられているのが実に興味深い内容です。ヴュルツブルグ国立音大出身の若手3名によるバロック・アンサンブルも息があったもので、フレッシュな感覚でこういった普段余り耳にしない作品を楽しませてくれました。特にラモーのクラヴサンのソロでは3つの手という作品が目まぐるしく交差する手の動きから3手によって演奏されているのではと錯覚させるほど多層的な響きを作っていたのが印象的です。ボワモルティエはオペラ大いに注目すべき作曲家ですが、こういった室内アンサンブルにも木目の細やかな肌触りを感じました。ストラデッラは昨年もコンサートで幾つか聴いた作曲家で、本日演奏されたシンフォニアでは、重厚な通奏低音に後のシンフォニーに至る構築美すら感じられる迫力に満ちていました。




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