梯 剛之/ピアノ・コンチェルト・リサイタル

2000年12月26日(火)19時/東京オペラシティコンサートホール
(演奏)
 梯 剛之(ピアノ)
 飯森範親(指揮)
 東京交響楽団(管弦楽)
(プログラム)
 モーツァルト :歌劇「フィガロの結婚」序曲
 モーツァルト :ピアノ協奏曲第13番
 −休憩−
 ショパン   :ピアノ協奏曲第2番
(アンコール)
 ショパン   :英雄ポロネーズ
 ショパン   :子守唄





今日はコンサートに行く予定は無かったが梯のピアノコンチェルト・リサイタルを聴
きたくなった。当日券情報によればS券が若干枚数発売されるとのこと。かつて当日
券目当てに行ったところ既に完売ということもあったので、今日は5時半にチケット
売り場に並ぶ。既に長蛇の列となっていたが、これは学生券のラインで一般当日のラ
インはまだ少数だった。待つこと20分ほどで無事チケットをゲット。

フィガロ序曲で気分が盛り上がったところでコンチェルトに臨む。梯のピアノはCD
で聞くよりもライブのほうが俄然素晴らしく感じる。特にモーツァルトの繊細さ、き
らめくような輝きは彼独特の演奏語法によるものか、初めて聞くような新鮮さも感じ
る。フレージングの自然さは純粋無垢を感じさせるし、飯森&東響のアンサンブルと
上手く溶け合っていた。

後半のショパンはさらに深みを増した演奏となる。何とも不思議な感じがするが、ピ
アノの音が湧き出し空間に消えていくときの余韻の素晴らしさ。決して派手な演奏を
見せない梯のピアノに独特の魅力を感じる。アンコールで演奏された英雄ポロネーズ
はまさに詩を感じる演奏だった。この曲はたいてい豪快さが好まれるが、彼のピアノ
は決して豪快さを訴求するものでもないし仰々しくもない。とても自然にソフトに響
く。が、秘められた力強さがひしひしと伝わってくる。それに詩的な感情のほとばし
りが万華鏡のごとく響き、短い曲の隅々までに新たな発見をするかのように新鮮だ。
最後の子守唄に至っては音の粒立ちの一つ一つを耳をそばだてて聴いていると、まる
で音の一生を垣間見るようだ。すなわち音が生まれ、はかなく消えていく瞬間、次の
音が生まれ、全体として静かな子守唄を描いていると。まるで時間芸術の極致を悟っ
たような深みを感じた次第。やはり彼のピアノは素晴らしいと思う。