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マーラーの第九は久しぶり。ちょうど1年前の12月レナルト&都響で聴いて以来と
なる。それだけに今日はじっくりとこの大作を聴こうという意欲が高まる。第1楽章
のピアニッシモで始まるところから既に緊張感が漂う。かなり音量を押さえ気味のピ
アニッシモだ。弦の音色は全体に渋く、ソフトフィルタが掛かったかのような肌触り
を感じる。木管も弦と調和し、全体のトーンがモノクロ調を漂わす。アンサンブルは
洗練されているものの、迫力、うねりといった面で手応えが今ひとつと感じた。全体
に音量感が不足していた為かも知れないが、やはりマーラーのこの曲は全力投球する
迫力のアンサンブルで聴きたい。すっきりとした見通しの良さがあるだけに惜しいと
ころ。
この不満は第2楽章、第3楽章と続く。第2楽章はもっと粗野さが欲しいと思うので
あった。しかし第3楽章、中盤からアンサンブルはかなりの集中力でもって終楽章へ
備える。このあたりから耳は釘つけとなった。
前半部分にて音量感に不満を感じていたが、終楽章に突入してからは今までの音楽は
全て煩悩であったかのように、音楽のコアが聴こえてきた。弦楽アンサンブルの渋い
響きの中、身も心も洗われるような悠々とした流れを感じる。今までの苦しみから解
き放たれたかのような愉悦さすら感じられる。諦念によって得られる安らぎの素晴ら
しさを垣間見た気分になった。そういう意味でも大野&東フィルのマーラーはとても
ポジティブで素晴らしかった。最後は感動のフィナーレを静かに噛み締めるかのよう
に静かに静かに消えていった。