東京交響楽団定期演奏会

 
ヤナーチェク:歌劇『カーチャ・カバノヴァー』(セミ・ステージ形式)
 2000年12月9日(土)18時/サントリーホール
(キャスト)
 指揮/秋山和慶
 演出     :マルティン・オタヴァ
 カーチャ   :アンダ・ルイゼ・ボグザ(Sop)
 ボリス    :ペトル・ストルナッド(Ten)
 ティホン   :ヤン・イェジェク(Ten)
 クドリヤーシ :アレシュ・ブリツェイン(Ten)
 ヴァルヴァラ :エヴァ・ガラヨヴァー(M-Sop)
 カバニハ   :イヴォナ・シュクヴァロヴァー(Alt)
 ヂゴイ    :長谷川顯(Bs)
 クリギン   :大久保光哉(Br)
 グラシア   :戸邉祐子(M-Sop)
 フェクルーシア:押見朋子(M-Sop)
 合唱     :東響コーラス

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今日のカーチャ・カバノヴァーは原語上演による日本初演というから驚いた。こんな
有名なオペラがと思うが・・・CDでは色んな種類が出ているが、愛聴盤はベニャチ
コヴァが歌うマッケラス&チェコ・フィルの演奏。デノケが歌ったザルツブルク盤も
素晴らしい。

今回の東響定期では例年のようにセミ・オペラ形式で上演される。オーケストラの後
方に細長いステージを作り、オルガン・バルコニーに大きなスクリーンが設置されて
いた。前回のヤナーチェク「利口な女狐」同様、スライドが映し出される。音楽の開
始とともに青みを帯びた曇り空が広がる。ちょうど空の青い光が狭いステージにも降
り注ぎ、全体にヴォルガ湖畔を描写している。こういったシンプルな舞台とともにヤ
ナーチェクの憂いを帯びた音楽を聞くと、オペラを見ているという実感が湧いてくる。

スライドはドラマの進行に応じて、カーチャや周囲の心理状況を映し出す。灰色の掛
かったモザイク模様やイコンを思わせる肖像画、時に暗黒を象徴するマスクはカバニ
ハとカーチャの関係を描写しているのだろうか。こういったスライド手法は説明的か
もしれないが、シンプルさのためか邪魔と感じるほどではない。むしろ舞台のすっき
りさが登場人物たちのドラマを浮き彫りにし、音楽の要素がぐっと重みを持ってくる。

秋山の指揮はいつもながら感心するが、今日もオーケストラの雄弁な語りを聞かせて
もらった。これにボグザ、ガラヨヴァー、ストルナッドの素晴らしい歌が聴けるのだ
から、オペラとしての完成度は極めて高い。久しぶりに良いコンサートに出会えたと
いう実感がある。個人的感想としてザルツブルク音楽祭で聴いたカンブルラン&チェ
コ・フィルのうねりに比べるとやや淡白かなとも思ったが、ドラマに惹きつける集中
力の素晴らしさはさすがのもの。幕切れではオルガン席に並んだ合唱がステージとと
もに青白い照明があてられ、ヴォルガの流れを演出。そしてカーチャの死という結末
を迎える。もっとも最後はカバニハの印象的な台詞で終わるのだが、ザルツブルクで
歌ったヘンシェルの強烈さに比べるとややキャラクターが弱かったかなとも思った。
が、全体に素晴らしい演奏内容だった。