ベルリンフィルハーモニー管弦楽団Bプログラム



 2000年11月29日(水)19:00/東京文化会館
 指揮    :クラウディオ・アバド
 ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
(プログラム)
 ベートーヴェン :ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
 J.S.バッハ :無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番よりフーガ(アンコール)
 −休憩−
 ベートーヴェン :交響曲第6番ヘ長調Op.68「田園」
 シューベルト  :ロザムンデよりアンダンティーノ(アンコール)
---------------------------------------------------------------------------

ベートーヴェン・プロの二日目はヴァイオリン協奏曲に田園という実に楽しみなプロ
グラムだ。今年5月の定期で聴いた田園を再び聴けると思うだけで大いに盛り上がる。
今日のチケットも貴重な優先予約をお譲り頂いたもので、平土間9列目と音、視界と
もに良好なポジションで聴くことができた。

最初のヴァイオリン協奏曲では、先日凄いショスタコーヴィチを披露したハーン嬢が
テクニックを強調することなく実に音楽性豊かな演奏に徹する。ひとたび音楽が始ま
ると、それはもう耳を放すことが出来ぬほどに美しいし、アバドBPOの音楽も奥行
きが深くて神々しさに溢れている。彼女のソロがオーケストラと完全に融和していて、
決してソロだけが目立つというものではない。それにフレージングが絶妙で、音楽の
流れが途切れることなく進む。これほど見事なヴァイオリンはそうざらに聴くことが
できないのではと思った。特にカデンツァに至ってはバッハの無伴奏の境地にも似た
崇高さで鳴り響く。ハーンとアバド・ベルリンフィルが三位一体となり浄化の世界へ
と導いてくれたようだ。そう感じるのも彼らの演奏には聴き手の内面から音楽を湧き
上がらせるような次元の高さがあり、聴き手も完全にこれに同化できる為だろう。

後半のシンフォニー6番も実に楽しい田園情緒に聞き入ることができた。オーケスト
ラのメンバーはコンサートマスターの安永をはじめ5月定期の布陣とほぼ同じ。アバ
ドが多少痩せたものの、今回の来日公演で日を追うごとに元気になってきたのが嬉し
く思う。それほどに田園を指揮するアバドの笑顔が印象的で、彼がこの音楽を奏でる
ことで、田園を散歩したりして楽しんでいるよう。もちろん聴くほうにとっても疲れ
が癒される想いだ。この曲のお気に入りとしてイッセルシュテット&ウィーンフィル
盤をよく聞くが、アバドのそれはより楽しく自由さがあるように思う。単に長閑とい
うだけでなく、深い愛情の歌いまわしにしびれてしまう。ピアニッシモの美しさは極
上だし、湧き上がる音楽に心身ともにリフレッシュされる。第1楽章、第2楽章の田
園風景はもとより、第3楽章の楽しさは格別。嵐ではブラスとティンパニの迫力でパ
ンチが効いていた。終楽章の歓喜に満ちた演奏にただ感動あるのみだった。

アンコールは最初のヴァイオリン協奏曲のあとにバッハの無伴奏ソナタのフーガが、
田園の後にはシューベルトが演奏された。いずれもプログラムの流れに即した選曲で、
ハーンのヴァイオリンについてはカデンツァの続きとしてバッハがあるように聞こえ
たし、田園の喜びのあとに静かなシューベルトのアンダンティーノで至福をかみしめ
るような感じだった。今日のプログラムはシンフォニー7番の時の興奮とはまた違っ
た味わい深さに彩られていた。これほど真に音楽的な演奏に出会うと、テクニカルな
出来栄え云々すること自体が意味を持たないし、むしろこういった内面的に優れた演
奏を行った、アバド、ハーン、ベルリンフィルに大感謝の気持ちで一杯だ。