ベルリンフィルハーモニー管弦楽団Aプログラム

 

 2000年11月25日(土)19:00/サントリーホール
 指揮   :クラウディオ・アバド
 ピアノ  :ジャンルカ・カシオーリ
(プログラム)
 ベートーヴェン :「エグモント」序曲Op.84
 ベートーヴェン :ピアノ協奏曲第1番ハ長調Op.15
 メンデルスゾーン:スケルツォOp.16−2(アンコール)
 −休憩−
 ベートーヴェン :交響曲第7番イ長調Op.92

一昨日のトリスタンに引き続き、今度はアバド&ベルリンフィルのコンサートとなれ
ば開演前から興奮気味とならざるを得ない。もう体はポカポカのヒートアップ状態だ。
そしてエグモント序曲。突然ながら、これには度肝を抜かれてしまった。座った座席
はLAブロックとアバドを真横から望み、精鋭ベルリンフィルの偉容が眼前に広がる。
素晴らしいサウンドがパースペクティブに湧き上がってくる。今年5月に聞いた第九
や田園とやや趣を異にする演奏スタイル。むしろドイツ的な響きがより強く感じられ
る。充実した中低域がホールトーンを伴っていて実に奥行きのある音楽ではないか。
ティンパニとブラスの張りのある響きはもちろんのこと、シンコペーションにおける
緊張、クレッシェンドの自然な盛り上がり。全てが自然体でしかも内面から興奮を沸
き起こす。10分程度の短い序曲でこれほどの密度を示せるのは大変なことだと思う。
アバドの歓喜に満ちた表情と音楽の一致は特に印象的だった。まさにエグモント序曲
はアバドによる勝利の縮図となった。

序曲でエキサイトしてしまったが、ベートーヴェンのピアノコンチェルトも実に聴き
応えのある演奏だった。カシオーリのピアノにはアバド&ベルリンフィルとの相性の
良さを感じたし、透明な音色も素晴らしく、無駄のないピアノタッチがオーケストラ
と良く溶け合っている。第1楽章はエグモントと同様、喜びに満ちた生命力に溢れ、
第2楽章の天国的な音楽に聞き入る。第2楽章から第3楽章にかけてはアバドは手を
上げたまま休止を制する。そしてカシオーリによって第3楽章の口火が切られた。何
と見事なベートーヴェンであることか。意図した音楽では流れが見えてしまうが、ア
バドの描くベートーヴェンは一時として無駄がなく引き締まっていて、さらに素直な
喜びがある。ピアニッシモが続く緊張の中、カシオーリの鋭いアタックで音楽は一気
に盛り上がる。彼のカデンツァも最高に冴えていたし、オーケストラとの掛け合いが
素晴らしかった。

後半のベートーヴェン7番。さすがにライブだとCDには無い無数の情報を身をもっ
て体験できるためか、アバド&ベルリンフィルの素晴らしさがただものではないこと
を思い知らされる。この曲はサントリーホールで聞いたショルティ&ウィーンフィル
の感動を今でも覚えているが、アバドのそれは感動を書き替えると評しても良いくら
い。このシンフォニーではパンチを利かせすぎると重々しくなってしまうが、アバド
は絶妙のバランスで音荷配分を行っているし、テンポの良さが音楽に生命力を与える。
特に終楽章の加速は実に爽快でリズムに熱狂する。このシンフォニーでも極自然にエ
キサイトした。それにしても病後の痩せをものともしないアバドの強靭な指揮ぶりと
元気な表情がことのほか感動的だった。