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昨日のトリスタンの興奮の覚めやらぬうちに今日はミニ・ベルリンフィルを聴いてき
た。といっても室内楽であるが、その内容は列記としたベルリンフィルのアンサンブ
ルだった。演奏は若手メンバーによるアポス・カルテット。これに主席クラリネット
のシュテフェンスが加わる。
トッパンホールのステージはとてもゆったりとしたスペースとなっているが、さすが
にベルリンフィルのメンバーが並ぶとホールの風格がぐっと増す感じ。通常のカルテ
ットのレイアウトからはちょっと変わっていて、左から第1ヴァイオリン、チェロ、
ヴィオラ、第2ヴァイオリンと並ぶ。まるで古きヨーロッパ式オーケストラのレイア
ウトを思わせるが、ヴァイオリンが左右に中低域が中央に来ることで、アンサンブル
の重心がしっかりとするように感じた。
弦楽四重奏の演奏ではシューベルトの「死と乙女」がやたらと多いが、今日はこれを
前半に演奏し、後半にブラームスのクラリネット・クインテットを据えるというやや
重量級のプログラムとなっている。開始早々、第1ヴァイオリンの音程がややずれ気
味という場面もあったが、さすがベルリンフィル。音の鳴り方が違う。しかも各パー
トの噛み合いが鋭く、響きに重厚さが漂う。第1楽章はクリアなアンサンブルで構築
美の美しさに息を呑む。第2楽章の「死と乙女」の描写もとてもリアルに響き、第3
楽章のスケルツォの躍動。それに終楽章は迫力十分だった。
後半のブラームスに至っては、シュテフェンスの輪郭のはっきりとしたクラリネット
が素晴らしく、アポス・カルテットとの息がぴったりと合ったアンサンブルを聞かせ
てくれた。演奏は郷愁に浸るというよりも、ダイナミックな情感を彷彿とさせるスタ
イルだった。シュテフェンスのクラリネットの多彩な音色の描写も見事だが、極めて
起伏の大きな演奏には目を見張るものがあった。時に深い思いにふけるように弦の超
ピアニッシモが美しい響きで心に沁みる。そういえば昨日のトリスタンもピアニッシ
モに込められた緊張、集中力が素晴らしかったが、今日のカルテットにもそういった
ことが当てはまるようだった。それに指揮者はいなくても、ベルリンフィルが集まれ
ば例え室内楽であってもオーケストラを思わせる充実したアンサンブルを聞かせてく
れるのが嬉しい。カーテンコールではベルリンフィル定期のようにアンコールは演奏
されないであっさりと終わった。