シュトゥッツマン&ゼーデルグレン

 2000年11月20日(月)19:00/紀尾井ホール
(演奏)
 ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
 インゲル・ゼーデルグレン(ピアノ)
(プログラム)
 シューベルト:歌曲名曲選
  ガニュメート/月に寄す/野ばら/夕映えの中で/憩いなき愛
  ます/漁師の歌/死と乙女/万霊節の連祷/ブルックにて

 −休憩−
 プーランク :平凡な話<アポリネールによる5つの詩>
  オルクニーズの唄/ホテル/ヴァロニーの沼地/パリへの旅/すすり泣き

 ファリャ  :7つのスペイン民謡
         ムーア人の布地/ムルシア地方のセギディーリャ/
         アストゥリアス地方の歌/ホタ/子守歌/歌/ポロ
(アンコール)
 プーランク :「村人の歌」より「浮気娘の歌」
 アーン   :クロリスに
 マルティーニ:愛の喜び

シュトゥッツマンを聞くのは2年ぶり。前回も今ごろの紀尾井ホールにてであった。
ちょうどあの頃もバーバラ・ボニーのリサイタルのあとにシュトゥッツマンを聞いた
ように今年も同じようなパターンとなった。彼女の歌は何時聞いても本当に素晴らし
い。プログラムは前半のシューベルトに加えて、フランス風とスペイン風が並ぶとい
う多彩さ。

まずシューベルトの歌曲をシュトゥッツマンで聞けるというのが嬉しい。シューベル
トの歌曲といえば断片的にいろんなものがあるが、5曲つづセットにして前半を2部
構成にして聞かせるあたりに、彼女のプログラミングの確かさを感じる。ガニュメー
トの快活で陽気な歌で始まり、ベートーヴェンの月光ソナタを思わせる静けさで「月
に寄す」が続く。急暖急暖急の5曲はまるで5楽章形式のポエムのようだ。いずれも
彼女の抑揚ある歌声を堪能できた。次の5つの詩ではさらに深い感情表現の世界とな
る。名曲「ます」から始まり「漁師の歌」までは明るく大らかな世界を描く。続く
「死と乙女」の悲痛さ。さらに「万霊節」の厳かで力強い音楽。フィナーレの「ブル
ックにて」ではウィーンの明るい田園風景を歩く様が生き生きと描かれる。歌に弾み
があってリズミカルさがとても楽しい。シュトゥッツマンの類まれな歌唱はもとより、
ゼーデルグレンのピアノも実に素晴らしかった。歌が終わってしばらく伴奏が続く時
も、ピアノの調べをシュトゥッツマンが歌っているかのような余韻を響かせる。まさ
に彼女たちのアンサンブルは絶妙だ。

後半はプーランクで一挙にパリの雰囲気となる。最新版CD「モンパルナス〜プーラ
ンク歌曲集」と同じ「平凡な話」が歌われたのだが、実に洒落ている。さすがにシュ
トゥッツマンらしさをフルに楽しめる歌曲だ。パリで活躍したファリャの音楽はさら
に深みを増した小品集で、短いながらも密度の高い詩となっている。アンコールでは
アーンとマルティーニの小品が絶品の限り。何時までもシュトゥッツマンの抒情を聞
かせて欲しいと思う瞬間だ。今日は今年聞いたリートの中でもバーバラ・ボニーと双
璧をなす素晴らしい内容だった。