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ドニゼッティのオペラはなかなか味わい深くで久しぶりに聞くととても素晴らしく感
じる。特にリンダはグルベローヴァが歌うために作曲されたのではと思うほど彼女の
魅力が最大限楽しむことが出来た。もっともハンプソン、サッバティーニと役者が揃
い最高の上演内容だったと思う。ハンプソンは昨日のメリー・ウィドウのダニロを歌
ったが、今日のアントーニオの方が最高に決まっていた。昨年のザルツブルクのドク
ター・ファウストなど老人役が妙に似合っているし、こういった役柄の歌は驚くほど
に渋く魅力にあふれている。サッバティーニも俄然素晴らしく、力みのない抒情すら
感じられる歌と演技に感銘した。グルベローヴァはどんな賛辞を言葉で表現してもし
きれないほど素晴らしい。
カンパネッラの捌くドニゼッティの音楽もじわじわとその良さが伝わってくるし、シ
ュターツオーパーのオケも最高のアンサンブルで楽しませてくれる。序曲でのフルー
トの芳しい音色が忘れられないし、第3幕大詰めにかけてのドラマティックさとドニ
ゼッティ特有の軽快さが最高。そういえば司教のシリンズも懐の深い歌に魅了された
し、侯爵のシモーネの滑稽さが「愛の妙薬」のドルカマーラにも似ていて楽しさも一
杯。このようにシャモニのリンダはいろんな登場人物が色んなキャラクターで登場す
るが、妙に全体が統一している。
舞台は全幕を通して全体に傾斜しているのが面白い。こういった手法はクプファーの
マクベスでも用いられたが、特に何かを表現しているという深い意味は無いと思う。
このオペラではシャモニという山岳地という坂を示しているのだろうか。それはとも
かく、とてもシンプルでカラフルなパレットのタッチを感じるし、メルヘン的な明る
さが良い。オペラは後半シリアスな状況となるが、背景がスリット状に開いて光とと
もにリンダが登場する場面はちょっと鮮烈さを感じた。ここからは歌手、合唱を含め
たアンサンブルとドラマに釘つけとなった。ヴェルディとかワーグナーなどの重いオ
ペラでなくとも、これだけのキャストが総合力を示すととてつもなく素晴らしい公演
となる良いお手本だったと思う。
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序曲のときには舞台に山のイラストが示されシャモニーの雰囲気を出していた。そのイラストはちょうどシャモニー/モンタンベールから仰ぐドリュ針峰にそっくりだった。 |