●新星日本交響楽団サンフォニック・コンサート
2000年10月15日(日)13:15/東京芸術劇場
ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」全5幕
第1、2,3幕
−休憩−
第4,5幕
(演奏)
指揮 :パスカル・ヴェロ
ペレアス :ディディエ・アンリ
メリザンド :緑川まり
ゴロー :ジャン=フィリップ・マルリエール
ジュヌヴィエーヴ:寺谷千枝子
アルケル :池田直樹
イニョルド :林 美智子
羊飼/医者 :峰 茂樹
合唱 :二期会合唱団
コンサートマスタ:三浦章広
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このオペラはそう頻繁に見ることはなく今日で3度目となる。やはり一番印象に
残るのはロバート・ウィルソン演出カンブルラン&アップショウらによるプロダ
クションだ。ウィルソンの演出はほとんど静止状態のアートグラフィックだった
から、ある意味でこのオペラはコンサート形式でも楽しめるのかも知れない。そ
ういったこともあり、今日の新星日響&ヴェロのコンビに期待する。
開演前にヴェロによる解説があった。ドビュッシーがこのオペラを作曲するに至
った経緯、作品の特徴などについてレコード録音などを織り交ぜながら解説され
た。特にドビュッシーのピアノ伴奏で初演時のメアリー・ガーデンによるメリザ
ンドという貴重な録音も紹介され興味が尽きない。
さて実際の演奏、やはりこのオペラでは舞台が欲しいと感じた。というのも音楽
もさることながら、シンボリズムに彩られたドビュッシーに没頭するには明るい
ステージの照明は邪魔である。しかも観客席も明るいので、この幻想的な作品に
のめり込む雰囲気になれない。照明だけでも良いからステージを幻想的なものに
して欲しいと感じた。
ヴェロの指揮さばきもペレアスという作品にはまっとうなものだと思った。この
作品はいわゆる大衆オペラではなくて、詩という響きに音楽が従属する関係にあ
り、アリアを聞くという通俗オペラではない。その意味においてヴェロの指揮は
詩を大事にしてオーケストレーションのカラーパレットを使い分けていた。ただ
しライトモチーフの際立てたかが時折不明瞭に感じた。ペレアスの指揮に定評の
あるカンブルランによれば、ライトモチーフは印象派だからといって曖昧なもの
にしてはいけないそうである。むしろ絶対音楽の如く、明瞭にしかも透明に演奏
されないといけないと・・・響きの透明感などに関してはヴェロはカンブルラン
の演奏に及ばなかったと思う。
歌手達も概ねこのオペラのキャラクターを上手く表現していたと思う。ドイツ、
イタリア・オペラで大活躍の緑川も上手いドビュッシーを聞かせていたと思う。
アンリのペレアスも良いのだが、前半はいまひとつ生彩を欠く感じ。とにかく、
このオペラ、連続する幻想のような世界だといって、単調に流れて行けば良いと
言うものでもなく、微妙な起伏も隈なく描写しなくてはならない。そういう点で
全般に凡庸な印象を受けてしまった。これは演奏だけでなく、このオペラをコン
サート形式だけで取り組もうとしたことにも問題がありそうだ。メリザンドが落
とした指輪、ペレアスの長い髪、塔、羊といった具象が持つ象徴(シンボル)を
読み取るには演奏という音だけでは無理がある。せめてホールオペラ程度の何ら
かの舞台が欲しいところだと思った。