●『オリーブの木がげで』ルネサンス・バロックのスペイン歌曲
 2000年10月12日(木)19:00/トッパンホール
(演奏)
 波多野睦美(メゾ・ソプラノ)
 つのだたかし(ブウエラ/バロック・ギター)
(プログラム)
 第1部
  ピサドール   :*聖フアン祭の朝
  ダサ      :山の娘よ、どこで一夜を過ごしたの
  バルデラーバノ :アルヒミーナ〜スペインの王女たちの歌
  フェンリャーナ編:母さん、ポプラの林から
  ナルエバス   :*ディフェレンシアス
  フェンリャーナ編:何を使って洗いましょう
  ミラン     :*パヴァーナ
  ダサ      :小麦色の肌の娘が叫び声を上げていた
  ミラン     :*ファンタシア
  ピサドール   :お母様、あの山々の峰は
  作者不詳    :ああ、輝く月よ
  ムダーラ    :ファンタシア「ルドヴィコのハープ」
  ナルバエス   :モーロの王は散策していた
  作者不詳    :3人のモーロ人の乙女
  ピサドール   :聖フアン祭の朝

 第2部
  ムルシア    :*フォリア
  ムルシア    :*ファンタゴ
  サンス     :*カナリオス
  マリン     :瞳よ、どうして私を蔑むの
  マリン     :考えないでおくれ、メンギーリャよ
  作者不詳    :小舟が戻ってきたよ
  サンス     :*ハラカス
  マリン     :タホの山々よ、聴いておくれ
  作者不詳    :ご婦人よ、あなたの美しさは
  マリン     :マリーカをものにしたいなら
  バタイユ    :その小舟は岸辺にあって
  *はビウエラ/ギター独奏
 (アンコール)
  スペインのユダヤの歌:ばらの花が開くとき
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波多野&つのだによるリサイタルは今年3月にコア石響で聴いた。あの時はフラ
ンス宮廷とイタリア・バロックであったが、今回は前半がスペイン・ルネサンス
で後半がスペイン・バロックというとても珍しいプログラムとなっている。トッ
パンホールはほぼ2週間ぶりに訪れたが、さすがに音響が素晴らしい。当日券で
残っていた座席は左右の空いたところしかなかったが、このホールはそんな座席
でも極上の環境を提供してくれる。まずもってビウエラの繊細な音が細かなディ
テールまで聞き取れるし、超静寂な空間に古のスペイン音楽が聞けるのは最高だ。
波多野の歌声の素晴らしさがストレートに伝わってくる。その透明な響きの美し
さは形容し難いほど。このホールは声楽にも最適であることを認識した。

つのだのビウエラ、ギターのソロを織り交ぜながら、遥か遠い時代の歌とギター
のデュオを聞いていると、とても心休まるのと同時に当時の人々の思いや躍動感
といったものを目の当たりにするようだ。プログラムが進むにつれ、この不思議
な美しい世界がますます魅力的となる。第1部後半はムーア人にまつわる3つの
歌が歌われ、当時のスペインにおけるイスラムの情緒が漂った。波多野のタンバ
リンと歌にギターというエキゾチックさも聞き物だった。

第2部からは有名なフォリアから始る。繊細で余り大きな音が出ないギターでは
あるが、フォリアの情熱を秘めた音楽に惹かれた。後半のバロック歌曲も波多野
の歌にポエムを感じ取ることができたし、一曲一曲に込められた情感にしみじみ
としたものがあった。バタイユの歌はちょっと短かったが、折角の素晴らしい歌
なのにもっと長ければと思うのであった。しかし今日のプログラムはいずれも短
い作品が多いが、それゆえに小さな宝石のような輝きに彩られているようだった。