●フランダース・リコーダー・カルテット『笛のアート/時を越えて』
 2000年10月9日(月)19:00/東京オペラシティ近江楽堂
(演奏)
 バルト・スパンホール
 ヨハネス・トル
 ヨリス・ヴァンギーセム
 ポール・ヴァンロイ
(プログラム)
 1.踊り
   作者不詳:エスタンピ(ロバーツ・ブリッジ写本)
 2.ネーデルランド古楽
   スウェーリンク:大公の踊り
   ゲゼゲム   :ドゥ・トゥース・ビアン・プレーヌ
   アグリコラ  :ドゥ・トゥース・ビアン・プレーヌ
   イサーク   :バタリア(戦いに)
 3.ネーデルランド現代
   スウェルツ  :3つの小道具(日本初演)
           キャッチフレーズ/不条理劇/きらめく笛
 −休憩−
 4.J.S.バッハ:2つのプレリュードとフーガ
 5.日本
   広瀬量平   :ラメンテーション「哀歌」
 6.J.S.バッハ:プレリュードとフーガ ハ長調
           アレグロ(ブランデンブルク協奏曲第3番より)
 7.アンドリーセン:終わり
(アンコール)
   モーツァルト :トルコ行進曲による変奏
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フランダース・カルテットはOPUSレーベルに話題の録音を行っているが、こ
れをライブで聞けるのはとても喜ばしい。4人の椅子の周りには様々なリコーダ
が所狭しと並べられている。プログラムは古楽以前のものから現代に至るまでと
てもユニークな内容となっている。4人のアンサンブルの上手さも素晴らしいが
楽器の柔らかい響きには驚いた。古楽ではポリフォニックなものとなるが、まる
で耳当たりの良いオルガンを聴いているようだ。

ネーデルランド古楽では4つの作品が演奏されたが、4人が色んなリコーダーを
持ち替え、音楽に合わせて低音が増強されたり、高音の輝きが強調されたりとと
ても変化に富んでいる。いにしえの響きに酔いしれたところで、スウェルツの三
つの小道具という作品が日本初演された。音楽的にとても面白い作品で現代音楽
という馴染みのなさを取り払ってくれた。とにかく五感を刺激し脳裏に新しい感
覚を教えてくれるようだ。

後半は当初のプログラムに追加でバッハのプレリュードとフーガが演奏された。
ここでは世界でも3つしかないというコントラバス・リコーダーが用いられる。
全長2.5mほどの巨大なリコーダーで、ベルギーの博物館所蔵のものらしい。
その低音の響きは木のオルガンといったところで、4人のリコーダーの響きは空
間でブレンドし、まさに幽玄の世界を現出させた。

広瀬のラメンテーションは1975年の作品で、リコーダーから尺八のような響
きが聞えたり、時にトランペットのような輝かしい響きが瞬間的に現れる。また
空気が抜ける音など、笛を流れる無音の風の音など、その多彩さはリコーダーの
限界を超える。彼らの超絶技巧でこれほど凄い音楽が作れるのかと驚嘆するばか
りだ。続いてバッハのブランデンブルク第3番のアレグロが演奏される。これは
10声部の音楽だが、4人で如何に演奏するのかと聴いていたら、彼らの多重音
奏法に加えて、早いピッチで変化する音の連なりに別の音を響かせていた。

圧巻はアンドリーセンのThe Endという作品。前半はネーデルランド古楽
を思わせるが、次第に目まぐるしく変化するパッセージが現れ、最後には4人が
それぞれ2本のリコーダーを同時に吹きながら、合計8本のリコーダーが咆哮す
るといった音楽だ。アンコールのトルコ行進曲はパロディックに変奏されリコー
ダーの可能性に兆戦するかのようだった。