●東京カルテット
 2000年10月1日(日)16:00/トッパンホール
(演奏)
 ミハイル・コペルマン(第1ヴァイオリン)
 池田菊衛(第2ヴァイオリン)
 磯村和英(ヴィオラ)
 クライヴ・グリーンスミス(チェロ)
(プログラム)
 ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番ハ長調作品49
 ヴォルフ     :セレナード ト長調「イタリア・セレナード」
 −休憩−
 ベートーヴェン  :弦楽四重奏曲第12番 変ホ長調 作品127
(アンコール)
 ラヴェル     :弦楽四重奏曲ヘ長調 第2楽章
 ヴェーベルン   :弦楽四重奏のための暖徐楽章
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今日はトッパンホールのオープニング初日で東京カルテットが記念演奏を行った。
このホールへは地下鉄・江戸川橋が近い。4番出口でどちらに行けば良いのか分
らなかったが、右手方向の遠くに半円形のビルのTOPPANというロゴが見えた。首
都高速に沿って行くが路肩の起伏などで少し歩き難い。ホールは大きく回りこん
だところに入り口があった。さすがにとても綺麗なホールだ。ホール内はカフェ
が無いので、2階まで上がる。左側にレストラン、右側がカフェになっている。
コーヒーやソフトドリンクは350円とホールにしては安い。さてホール内部は
客席数に対してゆとりのあるキャパシティだ。全体がなだらかな段々畑になって
いて、客席も前後の列で互い違いに配列されている。すなわちとても視界が良い。
シートも美しいフォルムでとても座りやすく、隣同士の空間もゆったりしている
し、肘掛は馬の背のようになっていて隣同士の肘が邪魔にならない工夫が施され
ている。

世界最高と評される東京カルテットを聞くのは2年か3年ぶりになる。チェロは
昨年ロイヤル・フィルのチェロ主席、グリーンスミスに代わったとのこと。最初
にコペルマンより、オープニングのセレモニーがあり、ショスタコーヴィチの曲
についての解説が行われた。とても穏やかな優しさに溢れた音楽だ。とにかくこ
このホールは音がとても良い。弦楽カルテットのまろやかさは熟成したワインの
薫りがするようで、東京カルテットの名演に唯酔いしれるだけ。ショスタコーヴ
ィチのカルテットで音楽が美しいと感じたのは始めてのような気がする。

2曲目はヴォルフらしくカルテットが面白いほどに歌ってくれた。東京カルテッ
トの使用楽器はストラディヴァリの銘器4挺。しかもこれらはパガニーニがカル
テットを演奏するために使っていたことから、パガニーニ・カルテットと呼ばれ
ている。その響きの艶やかさたるや驚くほど素晴らしい。各パートの音の厚味、
存在感などすべてがホールが惹きたててくれるのである。これはまさにムジーク
フェラインの効果にも似ている。ホールが自然の超ハイファイ・アンプのように
増幅しているのではと思うほどだ。カザルスほど響きすぎることはなく、ちょう
ど程よい音量で充実感を与えてくれる。

ベートーヴェンの12番は圧巻だった。宇宙の調和を思わせる重厚な和声は見事
のひとこと。アレグロの推進部では彼らのアンサンブルの凄さが火花を散らす。
この演奏は本当にアルバン・ベルクを超えているのではと思うほどだ。第2楽章
の美しいカンタービレとヴァリエーションに暫し呆然となる。終楽章に至っては
圧倒されっぱなしだった。彼ら4人は時に一人の奏者が4つの楽器を演奏してい
るのではと錯覚するほどアンサンブルは緊密だった。

アンコールのラヴェルの2楽章。ピチカートの花火が空間を跳ね回ってる様には
驚いた。表現力の幅のひろさはまさに無限ではないかと思わせる。ヴェーベルン
が無調音楽に入る前に作曲した暖徐楽章はかなり長いアダージョで、旋律の美し
さはこの世のものとは思えないほどだった。明日の第2夜ではこのヴェーベルン
が演奏される。