●熊本マリ/ピアノリサイタル
 2000年9月26日(火)19:00/紀尾井ホール
(プログラム)
 モンポウ  :子供の情景
 グラナドス :ロマンティックな情景
 ドビュッシー:子供の領分
 −休憩−
 ビゼー   :アルルの女
 グラナドス :演奏会用アレグロ
 ヒナステラ :アルゼンチン舞曲集
(アンコール)
 アギーレ  :哀しみ
 他3曲


一昨日の日曜は未だ蒸し暑さが感じられたが、今日、紀尾井へ向う道は秋らしい
空気を感じた。ところで最近のピアノリサイタルといえばパターン化したプログ
ラムが多いが、熊本マリのプログラミングは普段余り聴く機会の少ないラテン色
豊かなものに焦点が当てられていてユニークだ。特に彼女のモンポウ全集は絶品
だけに、ぜひライブでモンポウを聴いてみたい。

そのモンポウの「子供の情景」が最初に演奏された。「子供の心のように」をメ
ッセージにして演奏されただけに、とても澄み切った純粋さに溢れている。ピア
ノのタッチもキリリと引き締まりつつも、心に染み込むような情景を見ているよ
うだ。モンポウの作風のシンプルさも魅力のひとつで、自然と音楽に惹きこまれ
てしまった。

続くグラナドスの名作は、実に艶やかな音色と多彩な響きが醸し出され、まさに
夢心地となる。眼前に湧き出す音楽の情景は本当に見事。やや渋いピアノの響き
に右手の輝かしいパッセージが現れては消えて、音の余韻の隅々までが美しく語
り掛けてくる。さらにドビュッシーの「子供の領分」ではフランスの柔らかさも
味わえた。

前半はしっとりとしたピアノの陰影が特徴のプログラムであったが、後半は華麗
さを全面に押し出す。間髪を入れず開始された「アルルの女」はピアニズムの圧
巻。豪快なピアノの連打からはホールを覆い尽くすほどの音量感で、しかも繊細
な美しさにも満ちていた。ビゼー自身による編曲版による演奏で、前奏曲、メヌ
エット、カリヨン、パストラーレ、間奏曲、ファランドールと聴き応え十分だっ
た。

華麗さでは、さらに追い討ちをかけるようにグラナドスのアレグロが演奏される。
この曲も色彩感に溢れ、両手が快速で駆け巡るパッセージに唖然とさせれられる。
そしてフィナーレでは南米のヒナステラ。これも爆発するリズムの化身といった
ところで、大いに音楽的興奮を覚えさせてくれた。アンコールでは色合いの異な
る4曲が演奏された。3000円のチケットでこれだけ美味しいリサイタルを聴
けて大満足だ。